第72回ベルリン映画祭開幕、オープニングにF・オゾン新作 濱口竜介監督が審査員会見に参加
2022年2月11日 12:30
第72回ベルリン国際映画祭が現地時間の2月10日に、予定通り開幕を迎えた。昨年2月はコロナ禍によりオンライン開催となり、今年もマーケット部門が直前にオンライン開催に切り替わるなど、ぎりぎりまで予断を許さない空気があったなか、規模を縮小し各会場の定員も50%に制限、またプレスや招待客に24時間ごとのコロナ検査を義務付けるなど、コロナ対策を強化することで、なんとか開催に漕ぎ着けた。
開幕セレモニーに出席したドイツのクラウディア・ロート文化大臣は、「映画祭が実質開催されることはとても大切です。わたしたちは文化を必要としている。ベルリナーレは世界に向けた、奨励と希望の指針なのです」と語り、全面的な映画祭サポートを表明した。
今年はコンペティションに18本が選ばれ、パオロ・タビアーニ、クレール・ドゥニ、ホン・サンス、リティ・パンなどのベテランから若手が並ぶ。女性監督作は7本にのぼる。
オープニング作品には、フランソワ・オゾンがライナー・ベルナー・ファスビンダーの「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」を下敷きに、ドゥニ・メノーシェとイザベル・アジャーニ共演で描いた「Peter von Kant」(原題)が選ばれた。70年代、キャリア絶好調のファスビンダーをモデルにした本作は、懇意にしている女優から紹介されたハンサムな青年に夢中になり、操る側から操られる側へと身をやつしていく映画監督の姿を通して、人間の業を描いたパワフルな作品だ。
ベルリン参加は今回が6度目となったオゾン監督は記者会見で、「ファスビンダー監督はもしかしたらドイツ国内よりもフランス、および世界で高い評価を受けているかもしれない。彼に敬意を表した本作がベルリンで披露されるのは理想的で、とても嬉しい」と語った。またパンデミック最中に撮影されたことについて、「この状況下でどんな作品が撮れるかと考えたとき、室内の限定された空間で、少人数の登場人物のこの物語が最適だと思った」と、逆境を乗り越える逞しさを覗かせた。
今年はコンペティションに日本映画はないものの、三宅唱の「ケイコ 目を澄ませて」がエンカウンターズ部門に、是枝裕和監督の下で経験を積んだ新鋭、川和田恵真監督の商業映画デビュー作「マイスモールランド」とNetflix製作の荒木哲郎監督のアニメーション「バブル」が、併設のジェネレーション部門に、また和田淳の短編「半島の鳥」が短編コンペティション部門に選出された。
さらに審査委員長M・ナイト・シャマラン率いるコンペティションの審査員のひとりに、濱口竜介監督が加わっていることも話題だ。濱口監督は米アカデミー賞で、「ドライブ・マイ・カー」が4部門にノミネートされたばかりとあって、現地マスコミの注目も高かった。昨年のベルリン映画祭では、「偶然と想像」が審査員グランプリを受賞し、ベルリンに縁のある濱口監督は、審査員会見でベルリン映画祭の印象を問われ、「ディレクターのカルロ・シャトリアンさんは、ロカルノ映画祭のディレクター時代に自分の『ハッピー・アワー』を選んで頂き、それ以来、とても恩義を感じています。ベルリンは国際映画祭の意義を徹底的に考えて運営されているという印象の一方で、人間的な温かみを感じさせる、稀有な映画祭だと思います」と答えた。
また審査の基準を問われると、「基準はわからない、というのが正直なところです。観るうちに心に残ったものを、(審査員団の)みなさんと話し合ううちに、だんだんとこれが審査基準なのかとわかっていくのではないかと思います」と率直な心の内を明かした。
授賞式は通常より早い1週間後の16日に開催され、その後はリピート上映が20日まで続く。(佐藤久理子)