岸井ゆきの、耳が聞こえないプロボクサー役に挑む 三浦友和がトレーナー役で共演する三宅唱監督作、22年公開
2022年1月7日 07:00
岸井ゆきのが両耳の聞こえないプロボクサー、三浦友和が視力を失いつつあるトレーナーを演じる「ケイコ 目を澄ませて」が、2022年に公開されることがわかった。「きみの鳥はうたえる」の三宅唱監督が、13年までに4戦した耳が聞こえない元プロボクサー・小笠原恵子氏の自伝「負けないで!」(創出版刊)をもとに、物語を紡いだ。
第69回ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に出品され、18年の映画芸術「日本映画ベストテン」1位に輝いた「きみの鳥はうたえる」の三宅監督は本作で、主人公のプロボクサー・小河ケイコの刻一刻と変化する眼差しと、彼女を案じる家族やジムの面々の心のざわめきを、16ミリフィルムに焼きつけた。
「愛がなんだ」で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を獲得した岸井が、生まれつきの難聴と付き合いながらプロボクサーとなったケイコに扮した。クランクインの約3カ月前から厳しいトレーニングを積み、劇中で使われる手話の練習も重ねるなど、入念な準備をして撮影に臨んだという。岸井は「三宅監督も参加した3カ月のボクシング練習、手話練習もかけがえのない時間でした。ほんとうの意味で一緒に戦ってくれたこと感謝します」と述懐。日々の練習にひたむきに向き合い、家族やトレーナーたちの思いに触れて揺れ動くケイコの感情の機微を、言葉ではなく眼差しで表現した。
日本映画界で圧倒的な存在感を放つ三浦は、再開発が進む下町で小さなジムを運営し、セコンドの指示もゴングの音も聞こえないケイコを受け入れるトレーナー・笹木克己役を務める。喧嘩をするように力んでしまうケイコを根気強く指導しながらも、次第に視力を失っていくという難役に挑んだ。「音のない日常を生きる主人公のケイコの気持ちを、見た人間それぞれが自由に解釈して欲しいと無責任に丸投げされることがない。ケイコを抱きしめたくなるような、素直に心地よく余韻に浸れる作品だった」と、コメントを寄せた。
そのほか仙道敦子が笹木の妻、三浦誠己と松浦慎一郎がジムのトレーナーを演じ、佐藤緋美、中原ナナ、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子らが共演した。「ケイコ 目を澄ませて」は、22年に全国で公開される。岸井、三浦、三宅監督のコメント(全文)は、以下の通り。
現場に入ればすでに照明はうつくしく、撮影中は16ミリのフィルムがカラカラと回る音だけが辺りを満たしていました。この世界をスタッフの皆さんがいち早く捉えてくださり、支えてくれたから、わたしはただケイコとして存在することができました。この作品はケイコの日常であると同時に、今を生きること、自分の人生をどう生きるのかという問いなのかもしれません。三宅監督も参加した3カ月のボクシング練習、手話練習もかけがえのない時間でした。ほんとうの意味で一緒に戦ってくれたこと感謝します。ああ早く見てほしい。それだけです!
特別な仕掛けも予定調和の起承転結もない。でもあっという間の99分。音のない日常を生きる主人公のケイコの気持ちを、見た人間それぞれが自由に解釈して欲しいと無責任に丸投げされることがない。ケイコを抱きしめたくなるような、素直に心地よく余韻に浸れる作品だった。サンドバッグ、ミットを連打する音が強烈に耳に残る。街の喧噪、人々の声。だがこの音はケイコには聞こえていないのだと気づく度に、目にしている画面の風景が違った色に変化する。この作品には映画音楽がない。観客が耳を澄ませなければならない。
とても大切な映画ができました。ご自身の半生記「負けないで!」を書かれた小笠原恵子さんに深く敬意と感謝の意を表します。ありがとうございます。また、岸井ゆきのさんとともにこの映画に取り組めたことを心から誇りに思います。彼女の信じがたいほどの勇敢さがなければこの映画は生まれていません。タイトル通り、彼女はこの映画そのものです。そして、三浦友和さんはじめ全ての役者と全てのスタッフの、言葉では言い表せないほど澄んだまなざしもまた、この映画そのものです。全員の素晴らしい仕事にただただ魅了されました。書きたいことは山ほどあるのですが、なるべくまっさらな気持ちで皆さんに「発見」してほしいので、いったんこのあたりで我慢します。言葉以上のものがスクリーンを通して伝わることを確信しています。ケイコと多くの観客の皆様とが出会えますように。
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