【インタビュー】園子温と新人俳優たちが圧倒的な熱量でスクリーンを占拠!「エッシャー通りの赤いポスト」
2021年12月26日 10:00
鬼才・園子温監督による最新作「エッシャー通りの赤いポスト」が公開された。今作には園監督初のワークショップに参加した51人の俳優の卵が参加、ある映画に出演するため、それぞれの思いを抱きながら応募用紙をポストに投函し、オーディション会場に集う人々を描く群像劇が繰り広げられる。“何者かになりたい”そんな思いを抱えた若者たちが全身全霊をかけた圧倒的な熱量、園監督の深い映画愛と絶妙なユーモア、そして繊細な詩情を湛えたみずみずしい作品だ。彼らのように映画に出なくとも、すでに大人になっていたとしても「人生の主役は自分」――この映画からそんなポジティブなメッセージを受け取ってほしい。公開を前に、園監督と5人のキャストに話を聞いた。
演技は20年ぐらいやっていますが、自分が好きだと思う芝居が必ずしも世間の良しと揃わない時がありました。それでも自分が思い描く理想の表現を一生求めていきたいので、自分の表現を提示して測って欲しかったし、園監督の芸術に自分が持つものは必要かと問いかけたかった。映像作品では経験3年ぐらいの新人なので、今回、全く歯が立たないと感じてしまう瞬間も味わい悔しい思いもしました。でも、その荒削りなものの中に何か輝くものがある!ということを園さんが教えてくれたような気がして。僕は決してうまいタイプではないかもしれないけど、それを理由にあきらめないでいいんじゃないかと希望を見出すことができました。
上京して俳優になり、映画に出たいと思っていました。園さんの映画が大好きで、一番会ってみたかったのが園監督で、願わくば出演したかったし、やっぱり1秒でも多く園さんに見てほしい、認められたいという思いで応募しました。僕は特に「ヒミズ」が好きで毎年見ています。DVDに入っている「ヒミズ」のメイキングがもうめちゃくちゃ好きで、見るたびに熱くなれますし、本当にここまでやらないといけないって思わせてくれるんです。
事務所のマネージャーさんがオーディションを教えてくれて応募しました。実は、失礼ながら、その時は園監督も作品も存じ上げておりませんでした。まだ俳優活動を始めて半年も経ってない頃だったので、駆け出しの中で、とにかく与えられたものはすべてやるという流れの中での出会いです。切子役が決まった時は、喜びよりは与えられた使命なので、やり遂げるしかないなという気持ちでしたね。園監督は俳優に厳しいという噂をちょっと聞いていましたが、全然全くそんなことはなかったです。むしろ愛を感じるというか。51人もいるのに、ひとりひとりにちゃんとアドバイスをされて、イメージが覆りました。
園監督が6年前に「ひそひそ星」の公開の時に高円寺で個展をされていて、そこで詩を読む朗読モデルとして初めてお会いしたのですが、それから演技を見ていただく機会がなくて。で、今回のオーディションの募集要項に「気球クラブ、その後」に続くようなテーマの作品になるかもしれないって書いてあって、私は園監督の初期作品が特に好きなので、これは応募しなければと決意しました。オーディションではじめていただいた安子のセリフに惹かれ、他の役もある中で私は一貫して安子を演じたかったので、決まったときはよし!って思いました。
この映画の主催のアクターズ・ヴィジョンのワークショップに良く参加していて、お芝居をやってみたいとずっと思っていました。実は、3年前ぐらいに園さんの映画オーディションに行ったことがあって。その時に園さんはいなくて、映像審査で落とされていたんです。それで、直接芝居を見てもらいたいと思って、今回参加しました。オーディションでは安子や切子を演じることもあったのですが、ワークショップで方子というキャラクターが出てきて、私は方子一本で行こうと思って積極的に演じて行きました。
今回はこういうワークショップの映画なので、彼女、彼らの等身大の作品にしてみたいと思っていました。日常とあまりかけ離れたものではなく、ドキュメンタリーにも近いものをドラマ化していくような気持ちがありました。
ハリウッド用に書いた「エキストラ」というタイトルの台本がありまして、それがまだ完成していなかったんです。そのアイデアだけちょっと抜粋した形で、ちょうど良いタイミングでこれ使えるなと思って。実際、その映画はハリウッドで来年撮影が始まります。公開はこの「エッシャー通りの赤いポスト」が先になりましたが、非常に近いストーリーです。
実際、僕のハリウッドの友達のショーン・ベイカー監督(「タンジェリン」「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」)は、毎回、街で見つけたような素人で映画撮ってますからね。彼の最新作も、映画館でたまたま出会った人を主役にしたそうです。日本では珍しいかもしれないけど、こういう映画もたくさんあっていいはずだと思います。だから、なんだか今年は自分のこれからの人生のやり方を表した年だったような気がします。ハリウッドではスターを使って、日本では逆にインディペンデントにこだわってワークショップ映画を撮り続けたい。今後はそういう感じかなって、思ってるんですよね。
やっぱり、映画が大好きなんですよね。映画の世界は大変なことがいっぱい起こります。お金もかかるし、嫌な人や悪い人もいっぱい絡んできたりして、何回もへこたれそうになるんだけど。そこで諦めないで続けている理由は、やっぱり映画に対する愛情がすごく強い。だから、むしろ映画によって生きながらえているというか、映画がなかったら、もしかしたらもう今は死んでるかもしれない。
フレッシュなものを届けたいですよね。評論家や賞レースで評価を得たいとかそういうことではなく、門外漢というか規格外っていうか。園は園で勝手にやってる、そういう姿を見せたらいいのかなと思っています。いわゆる日本映画というジャンルの枠から外れてしまうことがあまり怖くないです。もう、今の日本は経済から映画から、いろんなことが世界から何周か遅れてしまっているような状況だと感じるので、正規の方法で世界に対抗していくより、むしろこういう作品で日本映画の輝きを作っていった方が、そんなに遠回りしないで済むんじゃないかなと思います。
勝手知ったるというか(笑)。以前、「BAD FILM」で新宿アルタ前で大ゲバシーンを撮ったとき、警官は怖がって止めないだろう……と予想したら案の定来なくて。来てくれた方がうれしかったんですけどね。昔は自由があったけど、いまはそういった撮影もなかなか難しくなってきました。当初は総勢51人が揃って大合唱する案だったのですが、相当な緊張感が必要なので、ぎりぎりまで悩んで今回は2人にしました。ああいう表現の原点は寺山修司。僕は彼の映画が大好きで、「書を捨てよ、町へ出よう」などには影響されています。
全然想像していなかったですね。もし、言葉を掛けるとしたら、「めっちゃ時間かかるけど、目標には到達するっぽいよ(笑)」と。来年のハリウッドの動向がどうなるかまだ分からないけど、「エッシャー通りの赤いポスト」に20歳の俺に報告できる手紙が出せるかもしれません。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。