【独占インタビュー】松本まりか×モトーラ世理奈×内田英治監督、映画撮影所の忘れがたき光景
2021年12月16日 09:00
「ミッドナイトスワン」を大ヒットに導いた、「全裸監督」の内田英治監督による最新作「雨に叫べば」が、12月16日からAmazon Prime Videoで独占オンライン公開(プレミアムTVOD「1500円」による有料レンタル配信)される。1988年の映画製作現場の舞台裏を描くもので、いわば内田監督版「蒲田行進曲」。今作に新人監督役で主演した松本まりか、撮影助手役で出演したモトーラ世理奈、内田監督による鼎談をお届けする。(取材・文/大塚史貴)
今作は、東映と東映ビデオによる新たな映画フォーマットオリジナル配信作品として製作されたもので、男尊女卑やパワハラの匂いが残る昭和の撮影現場で、新人監督としてデビューを飾る花子が悪戦苦闘する姿を描いている。
内田監督にとって松本は、監督デビュー作「ガチャポン」(2004)、深夜ドラマ「劇団演技者。」(05)、今年放送のWOWOWドラマ「向こうの果て」に続く、4度目の対峙となった。また、自身のプロデュース作「タイトル、拒絶」(山田佳奈監督)に出演したモトーラの姿を見て、今回の起用に躊躇はなかったようだ。出演した当事者たちは、どのような思いで現場に臨んだのか聞いてみた。
松本:直前まで「向こうの果て」を撮っていたのですが、同じ内田組でも作品の内容も役も全然違う。80年代という時代設定だけが同じだったのですが、とにかく脚本が面白かったんですよ。こういう感じの役をやったこともありませんでしたし、新しい世界を見ることが出来ました。
モトーラ:私も実は80年代ってすごく好きなので、その設定の世界に入ることが楽しみでした。撮影助手という、映画製作の裏方の役をいただけることってなかなかないと思いますし、私自身もカメラで写真を撮ることが好きなんです。どこか憧れみたいなものもあったので、よしえ(役名)に入っていくことがクランクイン前から楽しみでした。
「雨に叫べば」は、新人監督・花子の意味不明なこだわりでテイクを重ねることに、ベテランスタッフたちがフラストレーションを爆発させるところから始まる。控室では前貼りを嫌がるアイドル俳優と、「前貼りなんかいらないわ。本番でいきましょう」と言い放つ落ち目のベテラン女優のあいだでトラブル勃発。ようやく撮り終えた渾身のシーンも映検(レイティングを判断する機関)の審査に引っかかり欠番にしてしまうなど、花子は次第に追い込まれていく。そして現場の混乱ぶりを聞きつけたプロデューサーから監督交代を告げられるが……。
ここからは、しばらくクロストークをお楽しみいただく。最初の話題は、内田監督と松本が出会ってから17年以上が経過しているわけだが、その間は交流が続いていたのだろうか。そしてまた、近年の互いの活躍を見てどのように感じていたのだろうか。
内田:交流は続いていましたよ。お茶したり、舞台を観に行ったりもしましたし。
松本:何年かに一度みたいなスパンだったかもしれないけれど……、内田さんの映画を観に行ったり、舞台挨拶の時に行ったこともありましたね。
内田:世間で言われているような、本年度ブレイクランキング的な取り上げ方は正直ピンときません。コンスタントに女優として活動していたし、きちんとした芝居が出来ることも、演技というものに真摯に取り組んでいたことも昔から知っていましたから。
松本:「下衆の愛」(16)の頃から内田さんがインディーズ映画界をざわつかせ始めていたのを覚えていますし、私も感じていました。そこからの「ミッドナイトスワン」。劇場へ観に行って、本当に感動しました。日本アカデミー賞の作品賞を受賞した時は、「うそー!」って叫んでいました。ちょうど、「向こうの果て」を撮っている時で、「ミッドナイトスワン」に参加していた内田組の面々が現場にいたので、そういうタイミングで主演作を撮れることに運命的な縁を感じましたね。内田さんは「全裸監督」もありましたしね。
内田:「全裸監督」に出れば良かったのに。とは言っても、あの作品は当初、誰も出るって言ってくれなかったからなあ。キャスティングが尋常ではないくらいに難航したんですよ。
松本:「全裸監督」のことは耳にしていて、出たいなと思っていました。
モトーラ:「全裸監督」はドはまりして、私も出たいなあって思いました。
松本:えー!?
内田:出たいんだ(笑)。でも、ああいう作品もモトーラさんは合いそうだよね。洒落た作品ではなくて、泥臭い作品のほうが、モトーラさんにはハマる気がする。
モトーラ:やりたいです。やってみたいです。
松本:今回のキャスト表にモトーラ世理奈って書いてあって、歓喜しました。彼女のことはもともと好きで、まさかこの作品で共演出来るとは思わなかった。劇中で心を通わせる相手として、演じていて本当に嬉しかった。かわいい妹のような、親友のような、世理奈ちゃんとのシーンは楽しかったですね。
取材時、質問に対しての受け答えのスピードには、当然ながら個人差がある。ここまで極端にモトーラのコメントが少ないように感じるかもしれないが、モトーラには独特の間合いがあり、質問をじっくりと吟味して言葉を捻り出すため、そこには嘘がない。一点を見据え、質問を咀嚼する姿は「ずっと見ていられる」(松本)ほどに、不思議と好感を抱く。今作のクランクアップ時にも、ひと言求められたモトーラが考え込むひと幕があったという。
松本:考えている時のこの姿が素敵で、ずっと見てられるんです。クランクアップの時に、世理奈ちゃんがポロポロ泣きながら「この続編がやりたい」って言っていたんです。それくらい楽しかったという思いが彼女の中にあって、現場を満喫してくれていたんだと思ったら私まで感動しちゃいました。
今作は、東京・東大泉にある東映東京撮影所で約2週間にわたって撮影が行われた。三者三様の思いがあるだろうが、撮影所での印象深い出来事に思いを巡らせたとき、どのような光景が思い浮かぶか聞いてみた。
内田:僕はインディーズを長くやっていたから、基本的に撮影所なんて使えない現場が多かった。自分が実際に使ったことがないから、ずっと「蒲田行進曲」のイメージですよ。でもやっぱり、ワーナー・ブラザースのオープニングにも撮影所が映り込んでいるじゃないですか。映画の持つ、ひとつの象徴みたいなものですよね。今回初めてこれだけの期間、撮影所で撮ったわけですが、すごく集中出来るし良いですね。
モトーラ:私はこの界隈が地元なので、近くの映画館(T・ジョイSEIBU大泉)にも子どもの頃から通っていました。「今日は屋上でライダーの撮影をしていたよ」とか、そういう噂話もたくさん聞きました。外から見たら何も分からないわけですが、そこで映画が作られていて、そんな場所に自分が入ることになるとは思ってもみませんでした。実際に入ってみて、確かにここで映画が作られてきたんだ! というのを強く感じました。一方で、お昼になると食堂にみんなが集まってきてご飯を食べていて、それも含めて温かい場所だなとも感じました。
松本:今回の話になってしまいますけど、改めて撮影所って良いですよね。というのも、昭和の時代から変わっていないから、歴史が感じられる。古くて大きなドアとかも素敵だし、昔を感じられるのが好きなんです。この場所で昭和のスターたち、往年の映画人たちが映画を撮っていたんだな……というのを、撮影所では感じられて背筋が伸びる思いがします。
内田:撮影所って、声が聞こえるよね。色々な監督が「よーい、スタート!」って言ってきたわけじゃないですか。それが聞こえてくるような錯覚に陥る。あらゆる場所で、まだ撮影をしているような夢想をしちゃうんですよね。
松本:そんな場所で、役とはいえ監督をやっているというのは胸アツでした。疑似体験だけど、この撮影所で私の作品を撮っているんだ! と高揚するものもありましたし。だから、芝居をしているというよりも、不思議と監督をしているような感覚の方が強いかもしれません。歴史のある撮影所で、自分がメガホンをもって「よーい、スタート!」って、めちゃくちゃ痺れますよね。監督、やってみたいな……って思いました。
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