【独占インタビュー】「三月のパンタシア」みあ、顔出しの真意とクリエイションの秘密
2021年12月6日 13:00
音楽ユニット「三月のパンタシア」でボーカルを務めるみあが、11月27日に都内で開催した有観客ライブ「物語はまだまだ続いていく」で初めて素顔を公開し、話題を呼んでいる。映画.comでは、顔出し後のみあの独占インタビューを敢行。このタイミングで顔出しに至った真意、そして音楽、映画、文学に及ぶクリエイションの秘密をお届けする。
みあが中心となり、作曲家やイラストレーターが参加して構成される「三月のパンタシア」は2015年に結成され、翌16年にメジャーデビュー。ユニットのコンセプトは「終わりと始まりの物語を空想する」で、ドラマ「あのときキスしておけば」のオープニング曲「幸福なわがまま」、アニメ「亜人ちゃんは語りたい」のエンディング曲「フェアリーテイル」、アニメ「魔法科高校の優等生」のオープニング曲「101」、「ストレイテナー」のホリエアツシとの共作「夜光」などが知られている。
今回のライブで、ニューアルバム「邂逅少女」を22年3月9日にリリースすることを明かした同ユニット。この発表に合わせてお披露目された新ビジュアルに、イラストと実写のみあが映っている。これまで匿名性を保って活動してきたなかで、このタイミングで素顔を公表しようと決めた心の移ろいを聞いてみた。
「15年にYouTubeに『三月のパンタシア』としてオリジナル楽曲を発表したのですが、初期の頃は歌うだけで精一杯だったんです。私の役割は、誰かが紡いだ『三月のパンタシア』の物語をリスナーに伝える語り手的な存在だと思っていて、インディーズ時代のMVに出て来る、歌の主人公となる女の子は曲によってそれぞれ違う。みあは、あくまでも主人公の思いを語り伝える人物として歌の中で自己表現をしていたので、語り手としてあまりパーソナルな要素が多くないほうが世界観に没入できるんじゃないかと思ったんです」
「ただ、活動を続けていくなかで、音楽でこういう表現をしてみたい、こういう気持ちを歌詞にして歌ってみたいという思いが育っていきました。そして、『三月のパンタシア』の音楽表現の軸になっている小説を書き下ろすようにったり、作詞をするようになったりと広がっていくなかで、いつかは自分の物語を素顔のままでリスナーの皆さんの前に立って届けたいなと思うようになったからですかね」
ライブでは、観客の反応はどうだったのだろうか。
「観客の皆さんは、ものすごく温かかったです。『顔出しするかもよ?』みたいな予告も一切していなかったので、ファンの方々は何が起こるか分からないまま、ただ純粋にこれまでと変わらない『三月のパンタシア』のライブスタイルを楽しみに来てくれていました。それがライブ中盤、暗がりだった照明が急に明るくなって、後ろのモニターにはみあの顔がばっちり映って」
ここで、みあには懸念を抱いていたことがあったというが、それも霧散したようだ。
「素顔を見せることで、戸惑わせてしまって音楽が純粋に伝わらなくなってしまうとしたら、それは怖いなと思っていたんです。でも、ステージに届く拍手が大きくなった実感はありました。興奮の“粒”みたいなものがステージまで飛んでくるイメージがあったんです。私の不安な気持ちというのが、ファンの皆さんに拭ってもらった感じです。そこからは、よりフルパワーなライブが出来たんじゃないかなと思います」
素顔をさらしたみあは、今後どのような物語を紡いでいこうとしているのだろうか。観客の惜しみない拍手を一心に浴びたからこそ、これまでとは異なる心象風景が浮上しているように見て取れる。
「大切にしているテーマは、『変わらないまま生まれ変わっていく』なんです。これまで三月のパンタシアが築いてきたイラストでの表現、青くてどこか気だるくて青春の甘さと痛みがにじむような音楽表現を大事にしながら、今までベールに包まれてきたみあという人物が立ち現れたことで出来る音楽表現も増えていくと思うんです。これまでとこれからを融合させた、新しい三月のパンタシアをお見せ出来るんじゃないかなと思います」
みあにとって新たな局面を迎えることになるが、音楽はもとより小説の執筆を含め活動の範囲は多岐にわたっている。そのクリエイションの源を掘り下げてみよう。これまでに影響を受けてきた音楽、映画、文学について語ってもらった。
「音楽は、学生時代から日本のロックミュージックが好きで、具体的にはRADWIMPSやクリープハイプ。洋楽も聴きますが、私は歌詞に圧倒されることが多い。『こんな歌詞、いまの私には絶対に書けないな』という観点で衝撃を受け、今も聴き続けていたりします。一番好きなのは、Coccoさん。生涯ずっと愛し続けると思うのですが、好きになったきっかけは映画だったんです」
その映画とは、第68回ベネチア国際映画祭のオリゾンティ部門で最高賞を受賞した塚本晋也監督作「KOTOKO」を指す。今作で、Coccoは主演だけでなく企画(塚本監督と共同名義)、原案、音楽、美術を担っている。
「最初、ジャケットに惹かれてレンタルで観たのかな。とにかくCoccoさんの強烈な存在感に目が離せなくなってしまって……。もしかしたらノンフィクションじゃないかと思ってしまうほどに生々しいんです。ただ、その当時のインタビュー記事とかを見ると、全て演技だとおっしゃっている。その時点で、Coccoさんの音楽をじっくり聴いたことがなかったと気づき、すぐにネット注文しました。わたし、音楽を聴いて涙を流したのは初めての経験でした。それくらい音源越しに耳に飛び込んでくる切実さ、むき出しの痛みがダイレクトに胸を突いてくる表現が凄くて、お芝居はもちろんライブにも何度も通っていますし表現者として憧れている方なんです」
Coccoに限らず、映画を介して好きになる音楽、ミュージシャンが多いと明かす。
「『月とキャベツ』も大好きで、この作品をきっかけに山崎まさよしさんの大ファンになりました。洋画だと、ビョークのことも『ダンサー・イン・ザ・ダーク』で知ってサントラやアルバムも買いました。すごく辛い映画で“もう見たくない”と思っちゃうんですが、4Kリマスター版が再上映されるんですよね? やっぱりまた観に行きたくなっちゃいますね。そんな風に、私の中では色々なカルチャーが全て結びついているのですが、なかでも映画と音楽は密接な気がします」
また、幼少期から読書が好きだったそうだが、なかでも多感だった中学生の頃に島本理生氏の「ナラタージュ」を読んだことが、小説にどっぷりとはまっていくきっかけになったようだ。
「『ナラタージュ』は全てが衝撃でした。恋愛における言葉にできない気持ち、文章にできない複雑さを形にしていて……。出会う時期、条件、運命がちょっと変わるだけで幸せになれたはずなのに、うまくいかない。中学生の自分にとっては心がかき乱されて、気づいたら泣いていました。島本さんの小説をはじめ、学生時代は恋愛小説をたくさん読みましたね。思い返してみると、田舎の中学生だった分、江國香織さんの洗練された大人の女性の話とか都会的でシックな女性像を描く作品への憧れがあったんだと思います」
一方で、みあ自身は高校生が主人公の青春小説を執筆していることもあり、青春小説も並行してよく読んでいるという。
「学生の頃は大人の世界を本で知るという体験に新鮮さやトキメキを覚えました。大人になってからは逆に、あの頃は分からなかった気持ち、情景が鮮明に見えてくるようになったので、青春小説にはまりました。青春時代の情景を追体験するようにもう一度すくい取って、あの頃のきらめき、脆さ、危うさみたいなものを書けたらなと思っています」
話題は尽きることがなく、映画ではほかに岩井俊二監督作「スワロウテイル」、ポーランドの名匠イエジー・スコリモフスキ監督作「早春」、カンヌ国際映画祭で3冠を達成したミヒャエル・ハネケ監督作「ピアニスト」、小説では綿矢りさの「ひらいて」、田辺聖子の「言い寄る」、山田詠美の「放課後の音符」の名をあげ、使い込まれたDVDと文庫を取材現場に持参してくれた。
今年7月には、幻冬舎から小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」を上梓。根強いファンのためにも、「ガッカリさせるものは作りたくないし、責任感は増していくばかりです」と語るみあ。今後の夢として「自分が書いた小説が形を変えて映像作品になるのは、ひとつの夢ですよね。この作品は私小説とは言いませんが、主人公に私の心情、経験が最も投影されていると思います。それを、実際に高校生の役者が演じたりすると、どういう情景が描かれるのかなって空想することはあります」と黒目がちな瞳で筆者を見据えながら、思いを馳せた。
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