宮藤官九郎がのんと再タッグを組むロックオペラで、照れながら謳う“生への賛歌”!【若林ゆり 舞台.com】

2021年8月6日 15:00

女優・のんの特別な魅力、「あまちゃん」オーディション裏話についても語った宮藤官九郎
女優・のんの特別な魅力、「あまちゃん」オーディション裏話についても語った宮藤官九郎

宮藤官九郎が、あのNHK連続テレビ小説の名作「あまちゃん」以来となる、女優・のんとの再タッグをいよいよ実現する。8年ぶりにふたりが組む舞台は、宮藤が渋谷・PARCO劇場で手がけてきたロックオペラ“大パルコ人”シリーズの第4作「愛が世界を救います(ただし屁が出ます)」。近未来を舞台に繰り広げてきたこのシリーズで、今回の舞台となるのは第1作で起こった世界戦争の11年後、一度崩壊して荒れ果てた2055年の渋谷だ。内容は“超能力もの近未来SF”だが、宮藤の手にかかれば“いわゆる超能力もの”に落ち着くはずもない。公演への意気込みを宮藤に語ってもらった。

「このシリーズは、設定が第1作の2044年から始まって、2022年、2033年と続いているので、次は2055年しかないなと思って。そう言ったら(プロデューサーでもある、『大人計画』の)長坂(まき子)さんに『じゃあ、超能力もので』と言われたんです。それで思いついた設定が、予知能力があるんだけど、屁を出さないとその能力が発揮できないという(笑)。その後、主人公に恋をして屁を出すのが恥ずかしくなって、その代わり未来の予知もできないという。これを村上虹郎くんにやってもらいます。もうひとり、のんちゃん演じる主人公は、テレパシーを送れるんだけど、能力を発揮するとすごく顔が不細工になる(笑)。しかもその声がおじさんの声になっちゃうんです。超能力は使えるんだけどその弊害が大きいから、自分の能力を封印しなきゃいけない人たちの話です。考えたら、このシリーズって若い男女の青春ストーリーってやっていないんですよ。1本目はサイボーグの話だし、次は学園もの、その次はヤクザの話だったから、これは新鮮でいいんじゃないかと思いました」

このシリーズでは、第1作で「ザ・フー」のロックオペラ「トミー」、第2作で「高校大パニック」や「狂い咲きサンダーロード」、第3作では「ブルース・ブラザース」などにインスパイアされたと語っていた宮藤。今回も「X-MEN」シリーズなどといった超能力映画からの影響を受けたのかと思えば、意外にも「ほぼない」のだとか。

「超能力映画って、そんなに思い入れがなくて、見ていないんです。マーベル映画とかは全然追いつけていないし、浮かんだのって『サイボーグ009』くらいかなぁ。超能力というより地球が崩壊しちゃってるディストピアという設定の方が先に来ていて、超能力だからということでこねくり回そうとはあまり思わなかったんですよね。やっぱりのんちゃんが出てくれるということの方が大事だから。のんちゃんってすごく特別な存在だと思うんですね、表現者として。彼女でなきゃできない表現というものがあると思うから」

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なるほど。ではのんの特別さを宮藤はどのように感じ、どんな風に生かしたいと思っているのだろう?

「言葉にしにくいんですけど……。強いて言うならセリフや間合いにおいて、テクニックに頼らないところが僕は好きですね。なんとなくうまく演じちゃうというのがなくて、『本当に思っていることを心から言っているな』と思わされる。『あまちゃん』にしても、アキがのんちゃんじゃなかったらああいうドラマにはなっていなかったと思うんです。独特なんですよ、間の取り方とかものの受け取り方とか感じ方とかが。そもそも初めて『あまちゃん』のオーディションでのんちゃんの演技を見たとき、『変わってるなぁ、なんでこんな演技をするんだろう?』と思って。上手なお芝居じゃなかったし、そのセリフでこんな演技が出てくるなんて僕としては思いもしなかった。完全に意表を突かれたんですけど、逆に新鮮で『うわ、なんだこれ、面白いじゃん!』と思ったんですよ。『あまちゃん』以後はお芝居を一緒にやることはなかったんですけど、フェスなどで一緒になって、バンドでのびのび歌っているのも見ていましたので、『僕が思っているのんちゃんの良さを余すところなく引き出せれば、それだけでもう成功なんじゃないか』と思っています」

それにしてもこのタイトル。「愛が世界を救います」だけでは終わらせず(ただし屁が出ます)が付いているところが、実に宮藤らしくて最高。彼の作品にはいつも“照れ”がある。定石通りには感動させない、そこにクリエイターとしての矜恃と粋を感じるのだ。今年、ザテレビジョンドラマアカデミー賞で脚本賞など4冠に輝いた「俺の家の話」でもそうだったが、感動が押し寄せてくるというまさにそのとき、マヌケさや笑いを織り込んで絶妙に味変するのが、宮藤作品の醍醐味だ。

「どうしてもそうなっちゃいますね。だいたい『愛が地球を救う』なんて嘘っぽいじゃないですか。真っ正面からそんなテーマを掲げるって、やっぱり恥ずかしいことだと思うんです。そんなことを恥ずかしげもなく言えちゃうやつなんて信用ならない(笑)。だいたい僕も愛が世界を救うなんて思っていないし、愛が世界を救っちゃいけないと思ってるから。でも、やっぱり伝えたいことはあって。だから正面切って言うのが恥ずかしいようなことでも、屁を出しながらだったら伝えられるんじゃないかと(笑)。それに今回は、『お話をうまくまとめなくてもいいかな』と思っているんです。いままでは、ちゃんと着地して気持ちいいところで終わりたいっていう真面目な一面がどこかにあったんですけど、今回はそれ、なくてもいいやって。だって『トミー』とか『ロッキー・ホラー・ショー』みたいなロックオペラって、だいたい無理やり終わってるじゃないですか(笑)。『まとめるためにここ書いたよね』みたいな、不純なところは捨てちゃおうと思います。最後の曲さえ良ければいいと思うんです」

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この“大パルコ人”シリーズは、宮藤にとって「演劇という名を借りて、公然とバンド活動ができる場」でもあるという。いまはコロナ禍という状況下で、バンドをやるということに「負い目がある」(そのため彼のバンド『グループ魂』は現在絶賛休止中)から、なおさら「ご褒美」となる。しかし、演劇と音楽が一体となるこのシリーズは、他のどの作品より台本を書くのが辛いのだとか。

「なぜだか今回理由がハッキリわかったんですけど、歌詞を書きながら台本を書いているから。10数曲の歌詞を書いているんですけど、アルバムを作るために歌詞を書くとき、普通ならもっと時間をかけてもいいはずじゃないですか。なのに、物語に沿って、いいタイミングで曲が入ってきて、その曲が全部バラエティに富んだ感じにするという作業を同時にやるのが難しいんですよ。物語の必然性があって、歌の歌詞もまあまあ面白くなきゃいけない。書きながら、歌詞を後回しにしようと思ったり、逆に歌詞から書いてみようかな、とも思ったんですけど、それだと絶対にうまくいかない。ちゃんと流れに沿っていかないと書けないんです」

基本的な物語は、普遍的な「ボーイ・ミーツ・ガール」。今年51歳を迎え、もはや若者とは言えない宮藤だが、「若い人たちに媚びたくない」という気持ちと「若者に芝居を見に来てほしい」という気持ちを併せ持ちながら作劇に臨んだ。

「自分の若い頃を思い出して『こうだったな』と思いながら書くこともあるんですけど、若者に媚びちゃったら失敗したときに残念なものになってしまう。わかった振りして『いまこれ流行ってるから』って取り入れるのは抵抗があります。でも虹郎くんとのんちゃんのキャラクター以外は、若くないんですよ、全員。自分も老人役ですし、だからいいかなって(笑)。だって、いまの若者のことなんてわかるはずないですもん。自分も若いとき『大人にわかるはずない』って思ってたんだから。それでもやっぱり普遍的なものってあると思うんですよね。いま流行っているものじゃないものでも、いいものはいいじゃないですか。(北野武監督の)『キッズ・リターン』とか。たぶんいまの若者が見てもいいと思うんですよ。まあ、若者と何かを共有しようとはあまり思わなくなりましたけど。でも、若い人に演劇を見に来てほしいんですよね。自分が若いときに下北沢で見た演劇はもっと安かったと思うんですけど、人生狂わされてますから。そういうパワーはこの作品にもあるような気がするんです」

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もちろんコロナ禍といういまの状況だからこそ、「老若男女を問わずこの世の中に生きている人たちに届けたいメッセージ」が、ここにはある。

「コロナで世の中が不穏な空気になっていることがあるので、明るい、前向きな話にしたいなと思いました。戦争でたくさんの人が亡くなって瓦礫の街になったんだけど、そこから前向きな若者たちががんばる話がいいな、と。それから、みんなが持っているコンプレックスもテーマにしたかった。でも一番言いたいのは、『生きてるってことで、もういいじゃん!』ってことなんですよ。生きてることが、もう特別。物語の中では東京の人口が100分の1になっちゃって、生き残っている人は全員ホームレスなんです。で、生きていくだけで精一杯で、予知能力があるのに屁が出ちゃうから封印してるとか、ものすごく悲しい人たちの話なんですよね。だけど最終的には、生きていることだけで、もう素晴らしいじゃないかと、それしかないんです(笑)。それくらい、生きていることを肯定する話なんですよ。いま、世の中すごく世知辛いじゃないですか。オリンピックやっても聖火リレーやっても『やるのかよ』って言われるし。何やっても人に何か言われる、それをリツイートするやつがいたらみんなに広がる、みたいな。みんながみんなを監視してる、みたいな風潮がすごくある。でも、『生きられるだけでいいじゃないかよ』という、そういう境地ですね。『わけわかんない芝居だったけど、みんな生きてたじゃん』みたいな(笑)。それでいいじゃんって、書いてるうちにどんどんそんな気持ちになっていきました。楽しいものがやりたいという思いと、お客さんをいっぱい笑わせたいというのとがあって。最終的に『生きててよかった』というのを実感しに来てくれればいいな、と思います」

“大パルコ人”第4弾マジロックオペラ「愛が世界を救います(ただし屁が出ます)」は、8月9日?31日、渋谷のPARCO劇場で上演される。9月4日?12日に大阪公演、9月15日?17日には宮城・仙台公演もあり。詳しい情報は公式サイト(https://stage.parco.jp/program/majirock)で確認できる。

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