【若林ゆり 舞台.com】「『The PROM』Produced by 地球ゴージャス」で同性カップルを演じる葵わかな&三吉彩花が、元気をチャージ!

2021年3月9日 10:00


「The PROM」で恋人同士を演じる葵わかな(右)と三吉彩花(左)
「The PROM」で恋人同士を演じる葵わかな(右)と三吉彩花(左)

“プロム”といえば、映画ファンにはすっかりおなじみだろう。アメリカの青春映画につきものの、高校生活最後を飾るビッグイベントだ。このイベントを舞台にした「The PROM」は、2018年にブロードウェイで開幕し、観客を沸かせたミュージカルコメディ。インディアナ州の高校でレズビアンの女子生徒エマが、愛するアリッサとプロムに参加しようとするものの、アリッサの母親であるPTA会長に阻止されてしまう。これを知り、エマの応援をして自分たちのイメージアップに利用しようと乗り込んでくるのが、ブロードウェイの落ち目スターたち。それぞれに悩みを抱えた人間たちが繰り広げる大騒動と成長を、いかにもミュージカルらしいナンバーに乗せて描いたのが本作である。青春もの、LGBTQ、ブロードウェイのバックステージ要素まで見せ場が満載。20年にはNetflixがメリル・ストリープニコール・キッドマンら豪華キャストで映画化、年末より日本でも「ザ・プロム」として配信&映画館公開されている。

このミュージカルをブロードウェイで観劇、惚れ込んだのが岸谷五朗。相棒の寺脇康文と演劇ユニット「地球ゴージャス」を組んで数々のエンタテインメントを送り出してきた岸谷が、「地球ゴージャス」プロデュースとして日本版「The PROM」を上演する。そこで、エマ役の葵わかな、アリッサ役の三吉彩花にインタビュー、ミュージカルにかける思いを聞いた。

エマを演じる葵は「ロミオ&ジュリエット」「アナスタシア」に続き、ミュージカルの出演は3作目。小学生で女優デビューを果たして以来、映像作品が続いていた葵だが「高校生の時、仕事で出会った宝塚がきっかけ」で、舞台の魅力に目覚めた。

「たとえば好きな役者さんがいたとしたら、その役者さんが目の前で演じてくれるというのは『すごいことだな!』と思うんですよ。その人が自分の目の前で、同じ空気を吸って、演じていらっしゃるのが舞台。その人の発するエネルギーを直に受けることができるなんて、何にも代え難いほどの贅沢だと思います。一方で、役を演じているその人が、本当にその役に見えてくる。自分が出ていても思うんですけど、舞台に出たら隠れる瞬間がまったくない。360度、どこから見てもそのキャラクターでいないとバレてしまうんです。『その役を演じる』のではなくて『その役になる』という感覚を、舞台の俳優さんたちは強く持っていらっしゃると思います。だから、役に出会えるということ、役者さんに会えるということ、二重の喜びがあるのが舞台の素晴らしさだと思います」

「舞台は見るもの」と思い、ファンとして楽しんでいた葵が自ら「舞台に立ちたい」と思ったのは、「ロミオ&ジュリエット」を見て「10代のジュリエットは今しかできない」と思ってから。そこからレッスンを積み、オーディションでジュリエット役を獲得。見る側から演じる側になって、改めて感じた舞台、ミュージカルの魅力は?

「それまで私が映像作品でやっていたのは、お芝居だけでした。でもミュージカルでは、歌とダンスでも表現しなくちゃならない。『すごく難しい』と感じましたが、それと同時に、歌やダンスをすることで、今まで自分が到達したことのない感情になれた瞬間があって。それはある種の快感でした。映像のお芝居だと悲しいって演技をして、そこに後から悲しい音楽がつきます。でもミュージカルだと、悲しい時に悲しい音楽がわーっとかかる。『こんなにも音楽の力に助けてもらってお芝居ができるって、素敵だな』と思いました。それに、お客さんからもらうエネルギーを感じたことも大きかった。たとえば悲しいシーンで涙を流していたら、お客さんも同じように涙を流してくださっているのがわかるんです。舞台からは真っ暗で客席が見えない時でも、劇場全体が悲しんでいる空気が肌を通して伝わってきて。それによってまた、自分では想像できなかったほど大きな感情が表現できたりする。『ひとりで舞台に立っているけどひとりじゃないんだな』と。見ている時はわからなかったけれど、演じている方もこんなに感情を共有できると知った時は『最高!』って思いました(笑)」

インタビューに応じた葵わかな
インタビューに応じた葵わかな

2作目の「アナスタシア」は、コロナ禍の影響を受けて上演日程が大幅に削られ、多くの公演が中止を余儀なくされてしまった。

「こういう状況になると、演劇って『なくても生きていけるもの』ってなってしまうから、止まってしまうのも早かった印象があるんです。劇場はお客さんがたくさん入っていて当たり前だったのが、空席がいっぱいあって……。『私たちの生活の糧を“怖い”と思う人もいるんだ』ということも知りました。すごく辛い日々でしたが、それがあったからこそ、今、劇場に立てることがすごく嬉しい。挫折を経て『こういう時期だからこそ、必要としてくださる人たちもいるんじゃないかな』と思えるようになりました」

その通り。今度の「The PROM」はひたすら前向きなパワーに満ちた作品。見終わった後、元気がチャージできること請け合いだ。

「それこそテーマとしては性の多様性に対する課題もあるし、エマだけじゃなくて大人のブロードウェイチームの方々もそれぞれ悩みを抱えています。いちいち『リアルだな』と思えるんですけど、それを明るく、楽しく表現しているところにこのミュージカルのパワーがあると思うんです」

葵の演じるエマは、ハタ迷惑なブロードウェイスターたちに振り回されながらもブレない自分を持つ、芯の強い女の子。

「これまでに演じたジュリエットも(『アナスタシア』の)アーニャも元々はお姫様だし、自然とスポットライトが当たる役でした。でも今回のエマは、本当に普通の女の子。ブロードウェイのスターさんたちの方が、キャラクターが濃くて。エマが物語を動かしていかなきゃいけないのに『この大人たちをどうやって動かしたらいいのー?』って思っているのが正直なところで(笑)。でも、動かしてしまえるエマには、芯の強さや情熱のようなものがあるだろうし、体は小さいけど人間的には『もっと大きくなりなさいよ』って言われているような気分です(笑)」

画像3

物語の中心にはエマとアリッサのラブストーリーがあるわけだけれど、三吉とのコンビネーションは?

「彩花ちゃんはすごくスタイリッシュでカッコいいんですけど、知れば知るほど、かわいらしいアリッサに通じるような部分もいっぱいあると感じています。エマとアリッサとしていい関係を築けているし、わかなと彩花としても、愛が育っていますよ。すごく信頼できる、これからの公演をともに闘えるパートナーだと感じています」

今、舞台に立てる喜びを噛みしめながら、観客にも「舞台を見る喜びを感じてほしい」と願っている。

「今はこんな状況で、変化の時なので『いろんな人がいていいんだ』と思うし、みんなが心にちょっとしたささくれみたいなものを抱えている時期だからこそ、それを明るく、楽しく包んでくれるこの作品が、このタイミングで上演できることはとても意味があると思うんです。この時期、劇場へ行くことに抵抗のある方も多いと思います。でも、この作品のよさは『エンタテインメントってやっぱり素晴らしいよね』って思えるところ。『ちょっと疲れたな』と思う日々に、いつも救ってくれるのはエンタテインメントです。映画ファンの方ならプロムもご存じでしょうし、『キャリー』や『シカゴ』のパロディが出てきたりするので楽しんでもらえると思います。Netflix版を見たという方も、舞台を見たことがないという方も、この作品で観劇デビューをしていただけたら嬉しいです!」

インタビューに応じた三吉彩花
インタビューに応じた三吉彩花

ミュージカル「The PROM」でアリッサ役を演じる三吉は、コロナ禍で舞台デビューとなるはずだった「母を逃がす」が公演中止の憂き目に遭い、これが初舞台となる。ミュージカルファンにとっては、待望の登板。矢口史靖監督による日本製ミュージカル映画「ダンスウィズミー」でのヒロイン役が強烈な印象を残していたからだ。ミュージカル嫌いなのに催眠術で「音楽を聞くと歌い踊らずにはいられない」体になってしまうOL役を演じ、三吉が見せた体当たりパフォーマンスは圧巻だった。今、「ダンスウィズミー」での経験を振り返ると「いい経験ができた、ということに尽きますね」という。

「初めての挑戦だったので本当に課題がたくさんあって、『楽しい』というよりは正直、『苦しい』ことの方が多かったです。今思うと『もうちょっとできたはずなのに……』って気持ちになりますけど、撮影を終えた当時は『自分ができることを最大限にやった』という感じでしたね。演じる上では歌や踊りより、設定の方が大変だったかもしれません。音楽が鳴るとイヤなのに踊っちゃう、という設定で。でも本能ではやりたかったんじゃないかという、踊っちゃうことでどんどん解き放たれていく感じを芝居で見せるのが難しくて。苦しかったけど、あの作品で海外の映画祭にも参加できましたし、私を知っていただくいい機会になったので、やってよかったなと思っています」

あれだけ大変なことをやってのければ「これをやり遂げたたんだからもう怖いものなし!」となりそうだが、「全然違いますよ!」と笑う。

「けっこうみなさんに『ミュージカルは映画で経験しているから、それが生かされているでしょう?』って聞いていただくんですけど、映画と舞台は全然別物ですから。もちろんあの時にレッスンを積んだことが基盤としてあるのはよかったと思います。ですが今回、初めて舞台をやってみて『映像での感情の持って行き方とか出し方、受け取り方では全然ダメなんだな』と痛感しているんです。客席の一番後ろにいらっしゃるお客さんまで届ける表現というのは、リアルなだけでは成り立たない。頭で考えても慣れないので、動きとして落とし込んでできるまでに時間がかかってしまって。それでもお客さんにはリアルなものを感じてほしいから、そこのバランスが難しいですね」

個人的に、「地球ゴージャス」のプロデュース作品で初舞台を踏めることに大きな感慨があるそう。

「『地球ゴージャス』の舞台は『お客さんを楽しませよう』という熱を感じるエンタテインメントで、見るたびに『ああ、やっぱり見に来てよかったなー』と感じて大好きだったんです。今回、自分が参加することになるというのはまさかの展開で『大変なことになってしまったな』と感じていますけど(笑)。岸谷さんは『一体いつ寝ていらっしゃるんだろう?』というくらい、本当にひとりひとりに細かく提案や指導をしてくださっていて。稽古が終わったら、また翌日に続きからやるんですけど、岸谷さんは『昨日やったあそこのセリフ、ここはすごくよかったんだけど2回目はこういう感じだったから、もうちょっとこういう感じにしてみて』とか、細かいところまで全部覚えていらっしゃる。頭が下がりますね」

製作発表で歌唱披露する葵わかな(左)と三吉彩花(右)
製作発表で歌唱披露する葵わかな(左)と三吉彩花(右)

三吉演じるアリッサは、同級生のエマ(葵)と愛し合いながらもPTA会長の母親に縛られて、なかなかカミングアウトする勇気が持てない、というキャラクター。

「私自身はけっこう、母親との関係はサッパリしているので、『お母さんはお母さん、自分は自分』という感じです。ですがアリッサはお母さんのことや周りの目を気にしすぎていて、エマのことは大好きだけど、エマの闘いに乗り切れない悲しさとか、もどかしさがある。けっこう激しい感情の揺れ動きが何回も出てくるので、そこは丁寧に演じていきたいなと思っています」

この物語は、10年ほど前の実話からインスパイアされて作られたもの。

「この10年で性の多様性をめぐる世の中の流れもポジティブに変わってきているとは思いますけど、まだまだネガティブに感じてしまう人も多いと思うんです。SNSなどで悪気なく、無意識に傷つけるような発信をしてしまうことも多々あるんじゃないかと思っていて。だからこそ今、この物語はすごく刺さると思うんですよね。寺脇さんの歌う歌詞に『汝、隣人を愛せよ』というのがあって、この間、わかなちゃんとも『本当にそうだよね!』って話していたんです。『この世界にはこんなにいっぱいいろんな人がいるんだから、自分と違っても肯定しようよ』と思うし、『そういう気持ちってすごく大事だよね』って。だから私はその曲がすごく好きです。この作品には『性の多様性を受け入れる』という大きなテーマ以外にも、親子の関係や友情、大人の恋愛など、いろんな人が主役になり得るエピソードがたくさんあって。見てくださる方もどこかしら『なんかわかるなぁ』と共感できる部分が見つかると思うし、元気になっていただけると思うんです」

恋人役を演じる葵について尋ねると「すごく変な人(笑)」という答え。もちろんこれは、最大限のほめ言葉なのだ。

「『なんか変だな』って思うからこそ、そこが『自分と似ているな』とも思っていて(笑)。リアクションを取るタイミングとか、『え、そこ?』と思うようなツボがけっこう似ているんですよ。作品はコメディだし稽古場も楽しいんですけど、エマとアリッサがかなり繊細な立ち位置にいるので、あんまりコミカルになりすぎず、ふたりの関係性も素敵に描きたいと思って、わかなちゃんと相談してます。稽古場ではいろいろ試せるのがありがたいですね」

製作発表で勢揃いしたキャストの面々。前列左より、草刈民代、三吉、葵、大黒摩季、保坂知寿、後列左より岸谷五朗、佐賀龍彦、霧矢大夢、TAKE、寺脇康文
製作発表で勢揃いしたキャストの面々。前列左より、草刈民代、三吉、葵、大黒摩季、保坂知寿、後列左より岸谷五朗、佐賀龍彦、霧矢大夢、TAKE、寺脇康文

三吉自身の高校時代は「一番悩んでいた時期」だったそう。自分自身を見つめる時期だった、と振り返る。

「お仕事は7歳の時からやっていて、学生時代は等身大の役が多かったんですけど、だんだんと大人の役になって題材も変わってくると、お芝居で見せなきゃいけない部分が増えてきて。『自分はどういう作品に出ることによって、どういうことをみなさんに伝えたいんだろう?』と思い悩んでいたんです。今はもっと自分でメッセージ性を持って選択していくという段階に入って、よりひとつひとつを丁寧に選ぶようにしなきゃと思うようになりました。転機になったのは20歳の時、写真集の撮影でインドに行ったこと。そこで見るもの、感じること、現地の人との交流に、自分の感受性が素直に反応していたのが『あ、自分、すごく人間っぽいな』と思えて。その経験をしたのはすごくよかったと思います」

これからは「世界、特にアジアに活動の場をもっと広げたい」と目を輝かせる。この初舞台でさらに自信をつけ、表現の幅を広げられるだろう。

「今回、これが自分にとっての初舞台。どうしても重荷を感じてしまうんですが、不安ばかり大きくなってしまうより、今はアリッサとしてこの『The PROM』の世界を楽しむことの方が大事なんじゃないか、と思っていて。『セリフ飛んじゃったらどうしよう?』とか『歌間違えたらどうしよう?』とかプレッシャーも不安もありますけど、自分とカンパニーのみなさんを信じて、千秋楽まで楽しんでいけたらいいなと思います」

「Daiwa House Special Broadway Musical『The PROM』Produced by 地球ゴージャス」 は、3月10日~4月13日に東京・TBS赤坂ACTシアター、5月9日~16日に大阪・フェスティバルホールで上演される。詳しい情報は公式サイト(https://www.chikyu-gorgeous.jp/the-prom/)で確認できる。

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