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【独占インタビュー】山崎賢人×清原果耶×藤木直人×三木孝浩監督、「あの時の自分に伝えたい」と感じた瞬間のこと

2021年6月20日 11:00

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取材に応じた(左から)三木孝浩監督、藤木直人、山崎賢人、清原果耶
取材に応じた(左から)三木孝浩監督、藤木直人、山崎賢人、清原果耶

夏への扉」は、ロバート・A・ハインラインが1956年に発表して以来、色褪せぬ名作として世界中で読み継がれてきたSF小説だ。この名作が日本で実写映画化されると、2020年6月29日に発表された際、耳を疑った映画ファン、文学ファンは少なくなかったはずだ。そう思われてしまうほど難解に思われた企画に並々ならぬ思いで臨んだ山崎賢人清原果耶藤木直人、メガホンをとった三木孝浩監督に話を聞いた。(取材・文/大塚史貴)

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舞台を日本に移しストーリーを再構築した今作は、人生の全てを奪われた科学者が、時を超えて未来を取り戻す姿を描く。1995年の東京、ロボット開発の分野で将来を嘱望される若き科学者・高倉宗一郎(山崎)は早くに両親を亡くしているが、亡き父の親友・松下の愛娘である璃子(清原)と愛猫ピートを家族のように大事に思っていた。そんななか、研究の完成を目前に控えながら、信頼していた共同経営者と婚約者に裏切られ、“冷凍睡眠”させられてしまう。2025年の東京で目覚めた宗一郎は、璃子が謎の死を遂げていたことを知り絶望するが、ロボット(藤木)の力を借り、30年の時をさかのぼって璃子を救おうとする……。

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タイムトラベルものの焦点となってくるのは、「未来もしくは過去の自分や親族、知人との遭遇」「過去や未来を変えることによる歴史改変の是非」ではないだろうか。ましてや原作は、その後のタイムトラベル作品やSF作品に大きな影響を与えてきた古典中の古典。小川真司プロデューサーからオファーを受けた際、三木監督は何を思ったのだろうか。

三木監督「ずっとやりたいと温めてきた企画として小川さんから話をされたとき、タイトルを聞いた瞬間は正直抵抗がありました。日本を舞台に映画化するということに想像がつかなかったんです。1956年に発表された小説で、舞台は70年と2000年。僕らは更に未来を生きているという状況で、どう描くのか。ただ、もう1度読み直してみたら『物語が持つテーマは普遍的だし、未来のディティール云々よりも時代を超えても伝わるストーリーテリングの魅力を持った作品だな』と思いました。日本に置き換えるという設定の作り込みは当然必要でしたが、根っこの部分はいつの時代でやっても楽しめる作品だし、今まで映画化されていなかったのが不思議なくらいでしたから、ぜひやりたいと思うに至りました。そもそも僕が映画を好きになったきっかけが大林宣彦監督の『時をかける少女』でしたから、スタートの段階から僕は“時をかけて”いたのかもしれませんね(笑)」

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一方、八面六臂の活躍が続く山崎にとっても、SFものへの挑戦はもちろん、自らの役どころに対しても感じ入る部分があったようだ。

山崎「大切な人をことごとく失ってきて悲しみにも慣れているから、今の状態が他人から見たら不幸せであったとしても、それに対してそんなに卑屈になっているわけでもないんですよね。相棒ともいえる猫のピートがいて、近くにいてくれる璃子の存在がある。なんか近くにいるからこそ気づけない恋というような、そういうひと言では片づけられないような深い関係性が作れたらなと思ったんです」

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キャスト陣もオファーを受けてから撮影まで、心の移ろいは様々だったはずだが、最も動揺を隠せなかったのはロボット役の藤木ではないだろうか。

藤木「まさか自分にロボット役のオファーが来るとは思わなかったですね。最初に伝え聞いた話では、人間っぽいけど実はロボットなんだと。それであれば出来るかもしれないと思って三木さんに会いに行ったら、ロボットパフォーマーの方がふたりいらっしゃって、ロボットの動きを見せられたんです。『いやいや、やっぱロボットじゃん!』って(笑)。ロボットっぽさってアプローチや表現は様々だし、すごく迷ったし探りもしました。それはクランクインしてからも続いたし、難しかったですね」

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朗らかに笑う三木監督が「編集段階になってビックリしたんですが」とおもむろに話し出した。ここからは、しばらくクロストークをお楽しみいただきたい。

三木監督「藤木さんに撮影中、そんな指示はしていなかったつもりなんですが……。素材を見たら、本番テイク中は一切瞬きをしていなかったんですよ。すごい引きのロングテイクの時も、『あれ? これ、ずっと瞬きしていないのかな?』と思って。それって、自分に課せていたのですか?」

藤木「なるべく最小限の動きにしたいなとは思っていました。本当は一切しないでおきたかったのですが、そうはいっても意識して見られると『あれ? これは瞬きじゃない?』という部分もありますから、あまり強調するところでもないんですけどね。それよりも、人間っぽさを消したいと思って、カラーコンタクトを入れました。グレーとか青を提案したら却下されまして(笑)、黒いカラコンを入れました」

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三木監督「ちょっとした違和感なんですよね。よく見ると“人ならざる者”なんだなという立ち位置で演じていただきたかったので、その微妙なバランスは現場でも藤木さんとお話しさせて頂きながら作っていった感じですね」

山崎「藤木さんが演じられたロボットのPETEって、ちょっと人間っぽいポンコツなところがあるじゃないですか。藤木さんが意図してやっていたのか分からないのですが、浜辺で僕の隣に座るシーンで、座るときに手に付いた砂をパンパンって払い落としているんですよ。それが意図的なものなのか、無意識にやったものなのかが分からなくて、すごく僕は好きなんですよ」

三木監督「あれは、僕が『座る瞬間は使わないんで』って説明したんですが、カットがすごくかわいかったので使っちゃいました。すみません」

藤木「本当ですか? いま言われて、初めて気づきました。そんな事をしていたんですか。本当にポンコツだなあ(笑)」

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和気あいあいと始まったインタビューで、三木監督とキャスト陣の関係性がいかに良好であったかをうかがい知ることができる。この後も、筆者の問いかけに対してキャストが答えると、三木監督が補足の合いの手を入れるなど話題は尽きることがない。

現在では日本映画界を牽引する立場へと成長した山崎は、三木監督がメガホンをとった「管制塔」で銀幕デビューを果たし、主演を飾っている。それから約10年。着実にキャリアを構築してきたわけだが、久々の三木組で得た収穫、課題について聞いてみると……。

山崎「『管制塔』の撮影で覚えているのは、監督の優しさと(ロケ地)北海道の寒さです(笑)」
 三木監督「当時は自分のことでいっぱいいっぱいだよね。いまは本当にタフになったし、それでいて現場の空気や僕の演出にすっと馴染ませてくれる。その柔軟性は、今までに培われてきたものが身になっている証ですよね」
 山崎「監督が、鈍感力みたいなのがいいって言ってくださったことがあって。それで『よし、鈍感でいよう!』って思いました」
 三木監督「何とかなる感というか、なんくるないさあ感みたいなのがあって(笑)。それって、主人公としてすごく愛される要素だと思うんですよ。役を演じる以前に、賢人くんが持っている素養の部分だから、大事にしてほしいなと思います」
 筆者「以前、『劇場』の監督を務められた行定勲さんが全く同じことをおっしゃっていましたね」
 藤木「すごく大事なことだよ。賢人くんの魅力ですよ」

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また同様に、清原も実写映画デビュー作は三木監督がメガホンをとった「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」。今作ではヒロインとして再タッグとなっただけに、期するものがあったようだ。

清原「私もあの頃は何も分からないまま台本だけ読んで現場へ行き、監督に指示を出してもらっていました。今回は、自発的に何か残せたらいいなと思いながら現場にいました。三木さんとまたご一緒できることが嬉しくもあったのですが、芝居を始めてから4~5年、その日々が璃子としてうまく作品に反映できたらいいなと考えながら演じていました」

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藤木は昨年、俳優生活25周年を迎えた。表現者としていま、どのような境地に至っているのだろうか。

藤木「長年やっていれば、どんどん良くなるわけでもないと思うんですよ。感性が鈍ることもあるでしょうし。年を取るというのは、ある種の諦めというか、思い描いた通りにはいかなかった自分を受け入れることでもあると思うんです。だからこそ、難しいですよね。他人様にひけらかせるような25年ではなかったかもしれないな。毎回手探りというか、いまも悩みながらやっています」

本編には、「過去は未来と繋がっている」「諦めなければ失敗じゃない」など、シンプルながら含蓄のあるセリフがちりばめられている。誰にも等しく第一歩があるが、そこから如何に過ごしてきたかでその後の方向性が決定づけられたりする。そこで4人に聞いてみた。これまでのキャリアを振り返ってみたとき、「あの時の自分を褒めてあげたい」「あの時の自分に伝えてあげたい」と思うようなことはあるだろうか。

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三木監督「もともと映画を撮りたいと思っていたんですが、最初はミュージックビデオのディレクターとして仕事を始めたんです。レコード会社の会社員として過ごすなかで、もちろん生活は安定していますが、映画を監督するという夢がかなわないかもしれないと思ったとき、会社を飛び出す決意をしました。1年くらい出るか、出ないかで悩んだ時期があったのですが、そこがターニングポイントだったなと思います。そこで決断をした自分は、褒めてあげたいですね」

山崎「僕はプロになりたいなと思うくらい、サッカーに打ち込んでいたんですね。でもスカウトされたことをきっかけに、サッカーはきっぱり中3でやめて、この世界に入ったんです。母が後押ししてくれて、最終的に『やる!』と。その時は、この仕事の魅力に気づいてもいない状態だったのに、あんなに好きだったサッカーをやめなくても良かったのになあと思うこともありますけど、すごく充実した日々を過ごしているよって伝えてあげたいですね」

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三木監督「それは、自分が引き寄せているんだよ。その頃から、なんくるないさあ感というか、ポジティブさが良いチャンスに巡り合わせてくれたり、賢人くん自身が引き寄せている気がするけどね」

清原「お芝居を始めたての頃、言われたことが難しくて出来ない、笑えない、涙が出ない……。そういうことで随分落ち込みましたけど、どの現場に行っても『大丈夫だよ』って言ってくれる監督さん、スタッフさんがいらっしゃった。そういう優しい人たちに恵まれるから、いつどこへ行っても支えてくれる人がいるから自分なりに頑張れ! 大丈夫だよ! と当時の自分に言ってあげたいですね」
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藤木「芸能界のこと、よく知らなかったんですよ。僕は双子で、兄の影に隠れているような人間だったからこそ、華やかな世界に憧れみたいなものがあった。そんな時、『メンズノンノ』の読者モデルの募集があったんです。大学2年生の頃だったかな、兄に相談したら『そんな恥ずかしいことをしたら兄弟の縁を切る』と言われたんですが、やっぱりやりたいと思って、最終選考までいきました。結局選ばれなかったんですが、紙面に掲載された写真がきっかけとなって、事務所に声をかけていただいた。それが93年なんですよね。だから、28年経ってもまだ芸能界にいるよって言ってあげたいですね」

三木監督「お兄さんに対するコンプレックスからスタートしているわけじゃないですか。クリエイティブの仕事って劣等感、コンプレックスが表現者として糧になることがあるんですよね。悔しい思いを表現に転化させたときに、共感してもらえる作品がつくれたりする。役者と監督と立場は違うけれど、スタートラインというか思いの端緒は近い気がします」

最後も、見事なまでに三木監督が締め括ってくれた。さて、そろそろお後がよろしいようで……。SF小説の古典中の古典を日本で映画化するという意欲的な企画に対し、それぞれの思いを胸に秘めながら作品世界で躍動してみせた勇姿を見届けてほしい。

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