【コラム/細野真宏の試写室日記】「ラーヤと龍の王国」。ディズニーと映画館の関係が激変!一体何が起こっているのか?【後編】
2021年3月4日 22:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末の3月5日(金)から、ようやくディズニー映画の最新作「ラーヤと龍の王国」が映画館で上映されます。
ただ、本作は、新型コロナウイルスの影響が依然として大きいアメリカに合わせて、日本でも劇場公開と同時に「Disney+」での有料配信を行なうことになっています。
そのため、【前編】で解説したような動きがあり、通常のディズニー大作映画らしからぬ状態になっているのです。
かく言う私も、ディズニー映画からしばらく離れていたため、「だんだん自分の中で興味が薄くなってきているのかも…?」と思ったりもしていました。
そんな中で、本作「ラーヤと龍の王国」が映画館でも上映されるため、中立的に判断するために試写で見てみました。
まず、驚いたのは当初の心配をよそに「ディズニー作品のオリジナリティーの凄さ」です。
「ラーヤと龍の王国」は、ディズニー・アニメーション初の「東南アジアからインスピレーションを受けた作品」なので、正直、最初のパッと見は違和感がありました。
ところが、メキシコからインスピレーションを受けた「リメンバー・ミー」や、南太平洋の島々からインスピレーションを受けた「モアナと伝説の海」などと同様に、すぐに馴染むことができました。
そして、物語が進むにつれて新たなキャラクターがどんどん増えていきます。あえてネタバレ回避のため「誰」とは言いませんが、不朽の名作「ファインディング・ニモ」で活躍したドリーのような雰囲気のキャラクターが出てきます。
もちろん、ドリーのように「すぐに忘れる」といった同設定のキャラクターではなく、あの独特な「ムードメーカー的な存在」が登場するのです。
そこから物語は、さらに面白味を増していきます。
吹替版と字幕版の両方がありますが、私の感覚では、吹替版の方が「ドリーっぽさ」が溢れていて、どちらかと言えば吹替版をお勧めしたいです。(もちろん、字幕版の出来も良かったです)
ちなみに、本作では、「日本版主題歌」のようなものが無かったり、ゲスト声優のようなものがいなかったりと、私はこのような「プロ仕様な作り」にとても良い印象を持ちました。
ラーヤは、ある出来事をきっかけに旅に出て、徐々に仲間が増えていきますが、どのキャラクターも独創的で魅力があり、「さすがディズニー」と思わずにはいられませんでした。
このように、本作については、文句なく「見るべき名作」と言えます。
また、本作にはディズニー映画としては5年ぶりに、最初に短編映画が付いています。
ちなみに、この短編映画「あの頃をもう一度」は音楽だけの映画なので、吹替版と字幕版で基本的には区別はありませんでした。
今回、改めてディズニー映画をスクリーンで見て実感したのは、この短編映画を長編アニメーション映画の前振りとして見ると期待感が膨らみますし、「これぞディズニー映画!」という気になります。
このように、やはりディズニー映画は“スクリーン映え”するものなのです。
本作「ラーヤと龍の王国」は、これまで通りの体制で公開されると、おそらく興行収入30億円は十分に狙えるポテンシャルがあります。
ところが、【前編】で解説したように、たまたま新型コロナウイルスという100年に1度級のパンデミックが世界を襲い、ディズニーの本国アメリカを中心に大きな影響が出続けています。
そのため、本作は、本国アメリカと同様に、「劇場公開」と同時に「Disney+での有料配信」という形式になりました。
その結果、大手のシネコンチェーンを中心に劇場公開がされなくなり、(いくら作品の出来が良くても)興行的には厳しい状況になりそうなのです。
ここで、【前編】の経緯を踏まえつつ、改めて整理したいのは、おそらく日本のウォルト・ディズニー・ジャパンには決定権がなく、基本的にはアメリカ本国の方針に従わざるを得ないのだと思われます。
そこで、ディズニー映画が、かつてのように日本全国の多くの劇場で公開されるようになるためにも、本作「ラーヤと龍の王国」には重要な意味合いがあります。
それは、この「ラーヤと龍の王国」では、結果的に「劇場公開」と「Disney+での有料配信」が争うことになるからです。
日本の多くの観客が、「やはりディズニー映画は映画館がいい」と動き、「Disney+での有料配信」よりも「劇場公開」のほうの動きが良ければ、ウォルト・ディズニー・ジャパンがアメリカ本社に対して劇場公開への発言権を得られることにつながります。
そうなっていくと、これまでのように「最初に劇場公開」、「その後に配信などの2次利用」といった流れができて、大手のシネコンチェーンなども問題なくディズニー映画を映画館で扱えるようになるわけです。
このように考えていくと、新型コロナウイルスのパンデミックを機に日本で起こった今回の「劇場」vs「配信」といった問題の本質は、今後の私達の、映画館とディズニー映画への愛情が試されている話と言えるのかもしれません。
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