【パリ発コラム】舞台は現代、ルパンは黒人 大胆にリブートしたオマール・シー主演Netflix「Lupin ルパン」が好評
2021年1月31日 14:00
Netflixで1月に配信が始まった、オマール・シー主演によるフランスのオリジナルドラマシリーズ「Lupin ルパン」が評判だ。配信されるや、視聴ランキングのベスト1の座を獲得。フランスのみならずイタリア、スペイン、ドイツなどのヨーロッパ諸国や南米、アジアでも好評で、Netflixの予測では1カ月以内に、世界で7000万人が視聴すると見込まれている。
もっとも、加入者が2分以上視聴すると視聴率にカウントされるNetflixのシステムでは、実際観た者がどの程度評価しているか、というのは別の問題だ。アルセーヌ・ルパンの故国フランスでは賛否両論で、厳しい評も出ている。
20世紀初頭に作家、モーリス・ルブランが生み出したこの人気キャラクターは、これまでも映画やアニメに脚色されているが、本シリーズでは初めて黒人の設定にし、現代を舞台に大胆にリブートしていることで話題を集めた。セネガルからの移民で、大富豪ペレグリニ家の運転手として働く父とその息子、アサン。だが腹黒い主人の陰謀により、父は宝石泥棒として無実の罪を着せられ、刑務所で自殺。アサンは復讐を誓う。やがて大人になった彼は、ペレグリニが所有する宝石がルーブルで競売に掛けられると知り、好機とばかりに一計をめぐらす。
オマール・シーのスタイリッシュで飄々とした怪盗ぶり、エンタメ・ドラマらしいスピーディでアクションも盛り沢山な展開、ルーブル美術館の全面的な強力のもとに、「モナ・リザ」までお目見えする贅沢なロケーションや、パリの観光名所をそれとなく拝ませてくれる作り(アサンの家からはサクレクール寺院が拝める)など、見どころが沢山ある。だがその一方で作品評としては、「神話に新しい息を吹き込もうとした意欲は買うが、アイデンティティや人種差別のテーマが表層的でステレオタイプであるのは残念」(バニティ・フェア誌)、「(ルパン本来の)エレガンスにも、新奇の醍醐味にも欠ける。怪盗紳士は気のいいマジシャンになってしまった」(ル・フィガロ紙)といった声もあがっている。
とはいえ、むしろクラシックなルパンを知らない若い層には、親しみの湧くオマール版は人気のようだ。さらにドラマシリーズの影響で、原作も飛ぶように売れている。Netflixのシリーズ化を聞きつけてさっそく新装版を出版したアシェット・ロマン社は、10万部の売り上げを見込んでいるという。
すでにパート2(シーズン2ではなく、第1部に続く第2部とか)も撮影済みというから、ブームは当分続きそうだ。
Netflix絡みでもうひとつ話題なのは、1月14日にNetflixが、フランスの映画の殿堂シネマテーク・フランセーズ(映画博物館)を支援するメセナとなることを発表したこと。第1弾のプロジェクトとしては、アベル・ガンスの記念碑的大作「Napoleon」(1927)の修復が挙げられている。本作は、現存するコピーは約5時間半だが、本来は7時間に及び、欠落した部分は各国に散らばったという。シネマテークでは2008年からそれを収集して再構築する作業を開始したが、多大な労力とともに費用も掛かるため、メセナを必要としていた。
昨年からのコロナ禍の影響も加わり、低迷する映画業界を尻目に飛ぶ鳥を落とす勢いの配信企業が、こうした映画遺産の支援に乗り出すことは、一見皮肉ではあるものの健全でまっとうなことと言えるだろう。Netflixはこれまでも、マーティン・スコセッシの「アイリッシュマン」やデビッド・フィンチャーの「Mank マンク」など、ハリウッドのスタジオでは受け入れられなかった作家主義的な作品をサポートし、実現させてきた。その意味ではシネマテークとのコラボレーションも十分納得できる。
日本でも同様に、一人勝ちの企業が同業者を助け、業界全体の活性化を目指すというような動きが出て来ないものだろうか。(佐藤久理子)
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