【コラム/細野真宏の試写室日記】歴代1位確実「鬼滅の刃」の配給アニプレックス最新作「FGO」のポテンシャルは?
2020年12月5日 13:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
12月4日(金)には、社会現象化している「鬼滅の刃」の単行本最終巻である23巻の発売日で、朝からニュースになるレベルだと思います。週末は「約400万部の争奪戦」のような非常に景気の良いイベント化し全国の書店も賑わい「鬼滅の刃」ブームが加速するでしょう。そして、最終巻を読むと再び最初から作品の世界観を味わいたくなる現象が起こるなどし、今週末の週末ランキングは「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が「V8」となるのは、ほぼ確実だと思います。ただ、今週末からは冬休みに向け毎週のように大作が多く公開されるので「座席配分」が変化していきます。「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の座席数にも影響が出るため、興行収入のスピードが、やや遅くなっていくのは避けられないのかもしれません。
(とは言え、「興行収入歴代1位」を年内に達成できるのは確実だと思います)
そんな中、今週末に注目しておきたい作品は、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」を送り出したアニプレックスの最新作「劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 前編 Wandering; Agateram」でしょう。
まず、本作と「鬼滅の刃」との関係などについて簡単に解説しておきます。
実は「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が公開される直前まで上映され話題となっていたのは、2020年8月15日から公開されていた「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」という作品で、これは「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」を作った「ufotable」の作品だったのです。
そもそも私は、この「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] 」シリーズを見て、「ufotable」というスタジオのクオリティーの高さを実感し「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が凄いことになりそうだと察することができました。
「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] 」シリーズというのは、2004年から始まったPCゲーム「Fate/stay night」をベースにしたアニメーション映画で、「アニプレックス」配給×「ufotable」制作で3本の映画が作られました。
この作品が映画館にもたらした利益は大きく、2017年10月14日に公開された第1弾である「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] I. presage flower」は、全国でわずか128館での上映にもかかわらず、週末2日間の興行収入は4億1300万円で週末ランキング1位を記録しています。
そして、2019年1月12日に公開された第2弾である「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] II. lost butterfly」も、全国でわずか132館での上映にもかかわらず、週末2日間の興行収入は4億9000万円で、こちらも週末ランキング1位を記録しています。
さらに、2020年8月15日に公開された第3弾である最終章「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」も、全国156館での上映で週末2日間の興行収入が4億7000万円と、まだ公開2週目だった「映画ドラえもん のび太の新恐竜」を抜き去り、週末ランキング1位を記録しました。そして、第1弾は興行収入15億円を突破し、第2弾は16億円を突破し、第3弾は19億円を突破しました。
このように、公開館数が300館以上である大作を、半分以下の劇場数の公開で抜いてしまうほどのポテンシャルを秘めていたのです。
(当然ながら、「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] 」シリーズを上映した映画館は、他の作品以上に多くの観客が来てくれたので利益が大きくなりました)
さて、今週末の12月5日(土)から公開される「劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 前編 Wandering; Agateram」は、同じ「劇場版 Fate」であっても、この3作品と異なる点があります。
まず、「劇場版 Fate/Grand Order」は、「Fate」シリーズの最新作で、2015年から始まったスマートフォンゲームがベースとなっています。
そして、制作会社も違っています。
そのため、本作のクオリティーは未知数だったのですが、実際に見てみると、納得の完成度でした。
これは、製作の中心であり、配給も務めるアニプレックスの存在が大きいような気がしています。
アニプレックスというと、数年前までは小さな規模のアニメーションを手掛けるソニー系列の会社、というくらいの認識でしたが、歴代1位確実の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が象徴するように、もはや映画業界の中核を担えるくらいの映画会社にまで成長してきています。
近年アニプレックスの映画を見ていて、ずっと感じていたのは特に「キャラクターの目が独特で綺麗」ということでしたが、これは、そこまで丁寧に描いている、ということで、妥協を感じさせない作品が多くあると思います。
本作も、直前にリテイク(一部の完成度に不満が出て、作り直し)が発生し、最終的に作業が終わったのはギリギリ公開1週間前となっていました。
直近では、現在公開中の「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来」が象徴的ですが、「羅小黒戦記」は、中国のアニメーション映画で、2019年9月に中国で公開され興行収入49億円を稼ぎ出していました。
実は日本でも2019年9月から「日本語字幕版」が上映されていたのですが、ほとんど存在が知られていませんでした。
それをアニプレックスが日本の声優を使って日本語吹き替え版を制作し、2020年11月7日から公開して、週末ランキングでは1週目8位、2週目8位、3週目5位、4週目6位と、見事に復活させることに成功しているのです。
そんなアニプレックスが新たに放つ「劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット」は、前編と後編に分かれています。
(本作ではエンドロールの後に後編の予告があるので席を立たないようにしておきましょう)
私は、オンラインゲーム「Fate/stay night」や「Fate/Grand Order」をしていないので、見る前はついていけるのか不安もありましたが、本作においてはほとんど問題なく世界観に入り込むことができました。
どちらかと言えば「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] 」シリーズのほうが、入り込むのに苦労したのかもしれません。
本作は、最も人気の高いエピソードである第6「特異点」(時空が異なる領域)を映像化していて、舞台は西暦1273年のエルサレムで、主人公は宮野真守が声優を務めるベディヴィエールという「サーヴァント(英霊)」となっています。
物語のベースには、「現代の人類を救うため、人類史において異常が起きている過去の7つの時代の特異点に向かい、それぞれの時代の偉大な伝説や功績を残した『英霊』と呼ばれるサーヴァントらの力を借りながら、その異常を修復していく」という設定があります。
キャラクターがそれぞれ魅力を持っているので、見るたびに引き込まれるものがあると思います。
ゲームのユーザーでキャラクターや設定を知っている人はすぐに入り込めるのでしょうが、それぞれのキャラクターが重要なので、あまり知識のない人は、事前にホームページなどで人物相関図くらいは把握しておいたほうがいいと思います。
注目点としては、現在も進行中の「Fate/Grand Order」のゲーム版は、今や全世界で5400万ダウンロードを突破していて、ゲームでも連動企画があるようなので、この層がどこまで映画館に足を運ぶことになるのか、です。
(リスク要因としては、もしもゲームの連動企画のほうが盛り上がってしまうと時間の食い合いが起こって、映画が後回しになってしまうことかもしれません)
公開館数は178館と中規模公開なので、通常だと週末ランキングのベスト10にギリギリ入れるかどうか、という規模感ですが、本作は出来が良いですしアニプレックス配給の底力で上位にランキングできるのでは、と思います。
個人的には、すでに「後編」が楽しみになっていますが、まずは本作の「前編」が、一般的な映画のヒットの基準である興行収入10億円を突破できるかどうかに注目です。
劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 前編 Wandering; Agateram
劇場公開日 2020年12月5日
上映時間 89分 (G)
評価・レビュー (66件)
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。