大泉洋とムロツヨシが解き明かす、福田雄一監督作と「水曜どうでしょう」の酷似点

2020年12月5日 12:00

爆笑続きのインタビューを牽引した大泉洋とムロツヨシ
爆笑続きのインタビューを牽引した大泉洋とムロツヨシ

大泉洋ムロツヨシが、映画「新解釈・三國志」で初めて真っ向から対峙した。コメディ界屈指のヒットメーカーとして知られる福田雄一監督が、長年にわたり構想を温めてきた渾身のオリジナル企画。映画.comでは主人公の武将・劉備を演じた大泉、天才軍師・孔明に扮したムロに取材を敢行したが、ICレコーダーに録音した音声がかき消されるほど爆笑が沸き起こる盛り上がりをみせた。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基

今作は、日本でも小説、漫画、ゲームなど多くのコンテンツが作られ、親しまれてきた「三國志」の物語に、福田監督流の新解釈が盛り込まれている。劉備ならば「ぼやきっぱなし」、孔明ならば「人脈だけでのし上がる」というアクセントが加わっている。

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大泉は、福田監督から「劉備を大泉洋さんがやらないんだったら、これはもう全然やる必要のないものだ」とラブコールを受けての出演となった。一方のムロは、福田監督がメガホンをとった映画作品に出演するのは今作で15本目。もはや常連と形容しても誰も反論しないだろう。

大泉「福田さんとはプライベートで交流がありましたし、たまにひっそりと仕事をしたりしていて、今回がっつり映画をやるのは初めてでしたが、アウェイ感はなかったですね。とても楽しかったんだけど、ムロくんの風格というんですかね、『福田組の現場では俺なんだ!』という風格がすごいわけですよ。僕が抱えるものとは異なるプレッシャー、追い込まれている様子は気迫すら感じましたね。俺なんかゲスト的にチヤホヤしてもらっている部分もありましたけど、ムロくんは15本目でしょう? 『もう俺、なんも出ないんだけど…』みたいなところから、更に出さなきゃいけないというね。いやあ、大変だなあと思いましたよ」

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「風格なんてないですよ」と謙遜するムロだが、そのプレッシャーが福田監督からかけられるものではないと前置きしながら、説明する。

ムロ「福田組全体から『ああ、またこれか』みたいな顔とか、『あれやってくんないの?』という顔とか、これやるとまたか!って顔するでしょう? だからこっちをやってみたら『今のはなんですか?』みたいな率直な疑問がきたりとか(笑)。その中で戦うのは大変なんですけど、福田さんが笑っていればアリになるんです。洋さんも2回目、3回目になったとき、同じような空気を感じ取ると思います。そういうアンテナを持っていない方が楽なんですけど、僕や佐藤二朗さん、賀来賢人のように持っている人は大変です。洋さんもそのアンテナ、持っていらっしゃいますから……(笑)」

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大泉「2回目、3回目で受けなくなってきたら、映画なのに思い切りカメラマンを見て『何が気に入らないんだよ!』とか言っちゃいそうだよね(笑)。録音部にも『全然受けねえなあ!』ってぼやきそうだし」

ムロ「昔はもっと笑いをこらえてたじゃないか! ってね(笑)」

爆笑を差し挟みながら、テンポ良く展開されていくトークは実に小気味良く、時間を忘れそうになる。筆者は昨年、都内で行われた撮影の様子を見ているが、終盤だったのにもかかわらずピリつくことはなく、スタッフも含めて活気がみなぎっていた。

ムロ「福田組の絶対ルールは、ピリつかないということなんですよ。ピリッと緊張感のある現場を福田さんは好まない。肩の力を抜けるんだったら抜いてやりましょう、というスタンス。そして、アクションみたいなところは任せてしまう。人任せというところのバランスが明確なので、任された方も責任感が芽生える。『なんでだよ?』ではなく『やるしかない』。カット割りしているとき、監督は俳優部と今日の差し入れについて話していても、誰も怒らない。なぜなら、任されているからなんです」

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「でもね、ピリついた瞬間、あったんだよ。すごかったんだよ」と大泉が切り出すと、ムロは信じられないといった面持ちで身を乗り出す。

大泉「助監督同士が喧嘩になりそうになってね。なんかやってんなあ……と思って見ていたら、ああああああああ!って。俺が止めに入ったよ。『ダメだダメだダメだ、それはダメだ』って」

ムロ「格好いいじゃないですか!」

大泉「いやあ、止めましたよ。喧嘩はダメだからね。それに、俺の近くで始まったんだもん」

ムロ「主役の近くでやる事じゃないですよね(笑)」

大泉「なぜか、俺しかいなかったんだよ(笑)。主役感がないよね。普通、主役の前で喧嘩はしないでしょう?」

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我が意を得たり、とばかりにトークのペースを上げる大泉は、香盤表(撮影時に手渡されるスケジュール表で現場への入り時間など詳細が明記されている)にまつわるエピソードについても語り出した。

「その日は午前中に別の現場があって、早く終わったから家に帰ろうと思ったら『すみません、今日の香盤表に洋さんの〇を付け忘れていました』って(笑)。そりゃあね、ピリつくでしょう、普通は。ただね、ピリつかない。ピリつけないのよ。ちょっと怒ってやりたいくらいなのに、福田さんは笑ってるもんね。『あ! 来た来た来た! 出番ないのに来ちゃった!』みたいな。でもまあ、本来会えないはずの橋本環奈ちゃんに会えたから、いいかと(笑)」

ムロ「橋本環奈ちゃんの何がいいって、本番以外はずっと笑っていますからね。あの笑い声がずっと響いているんですよ。それにしても、香盤表に〇を付けないわ、主演の目の前で喧嘩しそうになるわ、福田組、ちょっとだれていますねえ(笑)」

会話の端々から、福田組の現場がいかに満ち足りたものだったかをにじませるふたりだが、ムロは仕事を共にし続けてきたからこそ福田監督の変化も感じ取っているようだ。

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「一緒にいて分かることは、『みんなに認めてもらおう、知ってもらおう!』という頃は凄く力が出るし、モチベーションも高くなる。ただ、ずっと見てきたドリフターズも、ひょうきん族もがある日終わりを迎えたわけです。時代の流れを分かっているからこそ、そこへの恐怖との戦い方が年々増しているんだろうなと思います。いまはミュージカルもやっていますが、そこから得た新しいものを映像の方に持ってくるでしょうし、映像でうまくいったことをミュージカルに持っていくはずです。飽きられてしまうかもしれないという恐怖と戦いながら、さらに新しいものを生み出さなきゃいけないという重圧とも向き合わなければいけない。僕も二朗さんも、一緒にやってきた者としてそれは感じていますし、作品が終わるごとに『一緒に戦いますよ』と伝えるようにはしています」

大泉は、また別の角度から福田監督をとらえていた。「みんながこんなに安心して楽しくやっている現場って初めてでした。楽しいの度合いが違う。それは、福田さんがどしっとしているからなんでしょうね。新しい映画作りの現場を見た気がします」と前置きしたうえで、興味深い発言をしてくれた。

「福田さんの監督ぶりを見ていると、自分もやりたいと思える。福田さんは怒るかもしれないけれど、『これなら俺でも出来る』と思わせるというか(笑)。『カメラマンだって本当は撮りたい画があるんだからさ』と言われたら、確かにその通りだなあと。そこはプロにお任せして、監督はやりたい事を口にするだけという映画作りが許されている。『おまえみたいな映画を知らないやつがなんで監督するんだよ!』と言われたら、確かにそれもその通りなんだけど、『でもやりたいからやらせて。好きなことやっていいから言うこと聞いてよ』みたいに出来るんだったらいいなあって。『ここは戦いの凄いところだから、格好良く撮って!』ってね。俺だったら、そのあと家に帰ってもいいかなと思っている。そういう監督になりたいなあ」

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この話に、ムロは大喜びだ。「福田さんを通して、監督をやりたくなりましたか! でも、家に帰っちゃったら、やっぱり助監督は喧嘩になるでしょうねえ(笑)」

丁々発止のやり取りを眼前で繰り広げているふたりだが、まるで長年の相棒であるかのように“あうんの呼吸”で会話の主導権を互いに明け渡し、空間を支配していく。共演という意味では「アフタースクール」(内田けんじ監督)以来、約12年ぶりとなるが、当時は芝居としての絡みはほとんどなかった。その後も、今作まで同じ土俵に上がる機会には恵まれなかったわけだが、筆者には「いつか実現する日が来るだろう」という確信とともに、ふたり揃って取材する日まで大事に寝かせていたエピソードがあった。

それは、2019年1月13日に本広克行監督がディレクターを務める「さぬき映画祭」のプレイベントとして「さぬきムロツヨシ映画祭」が、香川・高松で開催された日のことである。この日はムロの銀幕デビュー作「サマータイムマシン・ブルース」が上映されたのだが、日中に「水曜どうでしょう」のディレクターとして知られる北海道テレビ(HTB)の藤村忠寿氏、嬉野雅道氏とともに同映画祭のクロージング作品に該当するスペシャルコンテンツの撮影に臨み、嬉野氏は「いよいよ我々がムロツヨシとやった。大泉洋もウカウカしていられませんよ」と手応えのほどをうかがわせ、不敵な笑みを浮かべていた。

撮影された映像は「さぬき映画祭に見参!!」というタイトルで、同年2月11日にお披露目された。「違和感」をテーマにした約10分間の映像は、殺害された家長の無念を晴らすために決起した妻と娘の周辺に必ずランニングウエア姿の「通行人ムロツヨシ」が見切れて見守り、仇討ちにまでついて来てしまうというコメディ。会場に詰め掛けた約1500人のファンの爆笑を誘い、藤村氏も「ムロくんが出てくれたので、気品のある作品に仕上がっています」と目尻を下げていた。

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この時は大泉のホームグラウンドともいえる「水曜どうでしょう」の生みの親ふたりとムロがタッグを組み、今回はムロの本拠地といっても過言ではない福田組に大泉が参戦したことになる。「さぬき映画祭に見参!!」鑑賞時から感じていた、良い意味での“違和感”が何を意味していたのか、今回の取材で拭い取ることが出来たような気がする。

大泉「今の話を聞いていて実に面白いなと思うのは、なぜか分からないんだけど、全くジャンルが違うのに『水曜どうでしょう』と福田組って似ているんだわ。僕もこの作品の取材を受けていて、どうしても『水曜どうでしょう』の話が出ちゃうときがあって、『映画の取材で何で?』と自分でも思うんだけど、似ているからなんだろうね、追い込まれ方が。ムロくんが福田組に追い込まれている感じと、『どうでしょう』で僕が追い込まれている感じが。だから、今の話で『どうでしょう』班がムロくんと結びつくというのも、どこか必然なのかもしれないなあという気がします」

ムロ「僕は『水曜どうでしょう』をオンエアでしか知りませんが、『さぬき映画祭に見参!!』を撮ったときは、『ムロさん、ここから歩いていただいて、何もしないで、それじゃあいきましょう!』って、何も聞かされずに物事が進んでいきました。いやあ、これはこれで洋さん、大変だなあと思いながらやっていました」

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大泉「僕は福田さんの映画に出たけど、ムロくんも『水曜どうでしょう』、やってみてもいいんじゃないかな? という気がするよ」

ムロ「いやいや、もう出来上がったものですし、ファンの皆さんは洋さんを待っているはずですから。でもいつかある日、『どうでしょう』班の皆さんと、洋さんとの待ち合わせ場所にいるっていうことはしてみたいですけどね」

大泉「『水曜どうでしょう』の笑い、福田雄一の笑いというのが何かというと、笑わせているのはスクリーンの向こう、テレビの向こうじゃないんだよね。我々の笑いというのは、ある意味で藤村忠寿用であり、福田雄一用なんだよね。他の人を笑わせにいっていないから。だから別の監督で『この人の好きなのはこっち』となったら、僕らも違う商品を出すと思うのね。ムロくんや二朗さんは福田さんとの相性がめちゃめちゃいいんだけど、他の人とやると違う笑いの芝居になっていくと思うんです。そこも含めて、どうにも似ている。うーん、出てほしいなあ。俺なしで『水曜どうでしょう』、行ってほしいなあ。3人で四国八十八カ所とか巡ってほしいなあ。ムロくんがやられているところ、見たいもん」

(執筆者:大塚史貴)

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