宮沢氷魚が同性愛者を演じた「his」 生きづらさを抱えた人々と世界の優しい関係を語る
2020年1月23日 19:00
[映画.com ニュース] 社会のいわれなき差別や偏見にさらされながらも、一緒に生きていこうとする同性カップルの姿を描いた映画「his」が、1月24日から公開となる。ドラマ「偽装不倫」で一躍注目を浴び、本作で映画初主演を飾った宮沢氷魚が挑んだのは、ゲイであることを胸に秘め孤独な日々を過ごしていたが、昔の恋人と再会し心をかき乱される青年という役どころ。出演を決意させた日本社会のLGBTQ受容への問題意識と試行錯誤を重ねた役づくり、生きづらさを抱える人々に手を差し伸べる優しい世界をめぐる物語について、話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/松蔭浩之)
「愛がなんだ」「mellow」で知られる恋愛映画の旗手・今泉監督が、「恋愛のその先」を描き出す物語。ゲイだと知られることを恐れ、ひっそりと田舎で暮らしていた井川迅(宮沢)の前に、6歳の娘・空を連れた元恋人・日比野渚が現れる。「しばらくの間、居候させて欲しい」という渚の言葉を聞き入れ、同居を始めた3人は少しずつ絆を深めていく。しかし、渚は妻・玲奈と離婚協議の真っ最中。そんなある日、東京からやってきた玲奈が空を連れて行ってしまう。「渚と空ちゃんと3人で一緒に生きていたい」と訴える迅だったが、離婚調停の中で、自身を取り巻く過酷な環境や、偏見に満ちた眼差しに改めて向き合うことになる。
待望の初主演映画で、本当の自分を隠しながら生きてきた主人公・迅を演じた宮沢。インターナショナルスクールに通い、アメリカの大学に通っていた宮沢は、セクシャルマイノリティと接する機会も多かったといい、「自分とは違う人間を受け入れることが当たり前でした」と語る。日米のLGBTQの受け入れ方に大きなギャップを感じ衝撃を受けたことがきっかけとなり、本作への出演を決めた。宮沢の目に、日本社会が抱えるマイノリティへの不寛容さは、どのように映っているのだろうか。
「日本の教育はもちろん良い点もあるんですが、皆が同じ方向を向いていればいいよね、という価値観がある気がします。どこかに自分と違う考えを持った人を、皆で追いつめてしまう風習が残っている。『自分と違うものは受け入れられない』という考え方の根本は、教育にあるのかもしれないですね」
迅が一途に思い続ける元恋人・渚役を務めたのは、藤原季節。ふたりはクランクイン前に一度だけ顔を合わせたが、撮影が始まると、ロケ地となった岐阜・白川町のコテージで共同生活し、距離感をつめていった。さらに「お互いの足りない部分を補う」という点でも、宮沢と藤原の芝居とキャラクターの関係性がリンクした。「僕は役のことが分からなくなったら『分からないままやればいいや』と思ったんです。自分でも自分のことが分からない瞬間って、いっぱいあるじゃないですか。季節くんは、めちゃくちゃ熱くて、勉強熱心。役について分からない状態がすごく怖かったみたいで、とにかく台本と向き合っていた。僕が悩んだ時は季節くんが助けてくれて、逆に季節くんが考え過ぎている時は僕がカバーして、ふたりのバランスがすごく良かった」
迅と渚も、お互いの持っていないものを補い助け合う関係だ。宮沢は「迅は自分の中に閉じこもって、自分で何もかも解決して、ひとりでも生きていけるんだと思いこんでいる。一方で渚は自分というものをしっかりと持っていて、やりたいことがあって、夢を叶えるためにすごく努力する。迅は自分にないものを持っている渚を羨ましいと思うと同時に、彼の弱いところは補い、守ってあげようと思っている。そのバランスが、渚を好きになるポイントだったんじゃないかな」と思いを馳せる。
渚と空を受け入れ、やがて「家族になりたい」という思いを抱くようになる迅。集落の人々の前で「自分が優しくなれば、世界も優しくなるかもしれない」とゲイであることをカミングアウトし、全てを曝け出し暴かれる裁判に臨むなど、大きな変化を見せる。
宮沢は「カミングアウトをするまでは、迅が自分自身と周りの人間と戦っていく物語。集落の人に認められて、ある意味迅は解き放たれたと思うんですよ。ずっと何年も言えなかったことをやっと言えて、すっきりしていたなと思います。セリフにもあるように、偏見の目も多いですが、ちゃんと分かってくれる人も中にはいると思います。『分かってくれないんじゃないか』とどんどん壁を作っていくと、自分で自分を苦しめてしまう。そうせざるをえない生活を送ってきたことは理解できますが、だからこそ壁を乗り越えていけた、というのは大きなステップだと思います」と、心情の変化を紐解く。ゲイである自分を特別視していたのは、他ならぬ自分自身だった。周囲を拒絶し全てを諦めていた迅。「普通になりたい」と考え、一度は結婚し子どもを設けるが、偽りの自分に耐えられなくなり家族を失いかけている渚。しかし、異なる道を歩んできたふたりがフラットな目線で社会と向き合ったからこそ、見えてきた希望があった。
「結局、人間はひとりじゃ生きていけないなと思ったんですよね。迅はひとりで生きる覚悟をしていましたが、そんなに人間は強くないですし、人に頼らなければ死んでしまう。どんなに孤立していったとしても、集落の皆さんのように、救いの手を差し伸べてくれる人が必ずいるんだと感じました。分かってくれる人、助けてくれる人がいることはすごく重要で、迅にとっては希望になると思います。(カミングアウトのシーンは)強いメッセージ性があり、セリフも美しかったので、作品のターニングポイントになったと思います」
渚や空への愛を胸に、強く、そして優しく成長していく迅という人物を、悩み苦しみながら体現した宮沢。役者を初めてから約2年が経過した今、挑戦してみたい役がいっぱいあるという。「狂気的な男を演じてみたいんですが、コメディ作品にも出てみたい。今は自分がどういう役者になるのか、探っているところです。20代でいろいろ経験して、自分に似合うもの、やりたいものがはっきりしてくるんじゃないかなと思います。英語を話せるので、いつかは海外でお仕事がしたいという夢はあります。ハリウッド映画も、チャンスがあれば……」とはにかみながらも、言葉に熱をこめ、今後の飛躍を誓っていた。
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ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
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