二組の夫婦の大人の恋「冬時間のパリ」 アサイヤス監督「世間が持つ婚外恋愛観の逆を描いた」
2019年12月20日 16:00
オリビエ・アサイヤス監督の最新作で、ジュリエット・ビノシュ、ギョーム・カネ、バンサン・マケーニュらフランスの名優が共演、秘密を持つ二組の夫婦が愛の行方や幸せを模索していく姿を、洗練されたウィットに富む会話で綴る「冬時間のパリ」が公開された。現実世界ではヘビーになりがちな題材を、人生のスパイスと言わんばかりに、軽やかな大人の恋愛映画に昇華させたアサイヤス監督。本作では、登場人物たちの人間らしい心の揺れとともに、現代社会とデジタル化についての関係も描かれている。来日した監督に話を聞いた。
前作「パーソナル・ショッパー」はネットの映像から人間関係を追及していく作品。ネットによって人間のイメージが作り出され、デジタルというのはそういった延長線上にあることを描きました。今作は、そういった世界ではなく、デジタル革命がもたらした人間関係や、これまで普遍だと思っていた価値を揺さぶるような変化について語ることに私は興味がありました。
どのように人間が生きてきたか、どのような人間関係が築かれていくのか、そういったことが私にとっていちばん興味のあることです。人間の生き方はその時々で変わっていくものです。現代人が感じている感情を描くにあたって、デジタルというツールを避けて通ることはできないなと思ったのです。インターネットとネット上で築かれる人間関係、そしてデジタルの影響を受けて変化する人間のアイデンティティ――それを無視して、今の人間関係を語ることはできません。
スーパー16は、現代の映画作りにおいてマイナーなもの。ピクセルではなく、フィルムの粒子がきちんと現れるスーパー16を今回選んだのも、そういった考えからです。
確かに、フランス人も不倫や浮気、パートナーの裏切りに苦しむ経験をしたり、このような恋愛をドラマチックに見せたり、社会がそのように提示することもあります。しかし、私自身はその逆を描きたかったのです。世界が持っている、婚外恋愛観のビジョンの逆をやりたかったのです。セックスや愛や友情、欲望は人それぞれ違うもの。夫婦やカップルでも10年、15年続けていれば、他の人に恋心を抱いたりすることはありうると思いますし、そういったことがあるからカップルが崩壊するとは限らないと思っています。こういったものの見方は不道徳とみなされるかもしれませんが、これは私の不道徳観。私自身、あまりに道徳的すぎる社会や考えに疑問を持っています。人間が欲望が持つことは人生の一部。それを悲劇的なもの、それに苦しむように生きることはどうかと思うのです。
悪い気はしません。私は彼をとても評価していますし、今の現代に生きる映画監督の中では素晴らしい監督だと思っています。彼は多作なので、もちろんその中で好き嫌いはあります。私がウッディ・アレンと似ていると言われるのは、彼がイングマール・ベルイマンとエリック・ロメールの中間にあるからで、私自身もそういったポジションを目指しているので、おのずと共通項が見えてくるのではないでしょうか。
私はいつも作品を作るときに、観客との対話を意識しています。しかし、最近の映画を見ていると、観客はこれくらいしか理解できないだろう、と観客の理解力に保守的な制限をつけて提供していると思うのです。この作品は、デジタル革命が人間にどのような影響を与えているかというベースのアイディアがありますが、それと同時にセンチメンタルな恋愛コメディです。観客もデジタル世界の中で生きているので、どちらにも興味を持ってもらえるだろうという信頼があります。私は観客の理解力は無制限だと思っています。そういった意味で著名な俳優を使うことは大切なこと。なぜなら、映画で語りたいことと、観客との仲介役をしているのが彼ら俳優なのです。
私は配信サービスで映画は見ませんし、Netflixにも入っていません。ブルーレイなどを購入し、モノとして所有することは好きです。しかし、鑑賞はもっぱら映画館です。ただ、私はオスカーの投票権を持っているので、アメリカの映画はネット経由で送られてきます。それは、小さなスクリーンではなく、少し大きめのスクリーンで見ます。もちろんそれは仕事としてですが。
「カルロス」はテレビの資本が入っていますが、私としては5時間の映画として製作しました。5時間半ということで、映画館での上映はかなり制限され、やはりストーリーミングで見てくださった方が多かったようです。「カルロス」はフォーマットの意味では、「ROMA ローマ」や「アイリッシュマン」と近いものがあると思います。今は映画界でお金を調達することが難しいので、おのずとそういうことになってしまうのです。
「冬時間のパリ」は、12月20日からBunkamuraル・シネマほか全国で順次公開。
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