「アースクエイクバード」監督が小林直己のスター性を大絶賛!「世界中に素晴らしい才能を見てほしい」

2019年11月23日 11:00


取材に応じたウォッシュ・ ウエストモアランド監督
取材に応じたウォッシュ・ ウエストモアランド監督

[映画.com ニュース] Netflixオリジナル「アースクエイクバード」(配信中)のウォッシュ・ウエストモアランド監督が来日。これまで「アリスのままで」「コレット」などを手掛けてきたウエストモアランド監督は、1980年代に8カ月間福岡に留学しており、今も博多弁を操る筋金入りの日本好き。このほど映画.comの取材に応じ、日本への強い思い、主演女優として日本語のセリフに挑んだアリシア・ビカンダーの女優魂と、英語のセリフに挑んだ小林直己(「EXILE」「三代目 J Soul Brothers」)のスター性について語った。(取材・文・写真/編集部)

※編集部注:本記事には「アースクエイクバード」のネタバレ・解説が含まれています。作品を未見の方はご注意ください。

今作は、80年代の日本を舞台に、日本人の写真家と恋に落ちた外国人女性が、三角関係に悩まされ、行方不明の末に殺された友人の殺人容疑をかけられてしまう様子を描いたサスペンスミステリー。ある時、日本で暮らしていた外国人女性リリー(ライリー・キーオ)が行方不明になり、やがてリリーと思われる死体が発見される。友人であるルーシー(ビカンダー)に容疑がかけられるが、ふたりの間にはミステリアスな日本人カメラマン禎司(小林直己)の存在があった。原作は、日本在住経験のあるイギリス人作家スザンナ・ジョーンズが2004年に発表した同名小説。リドリー・スコットが制作総指揮を務めた。

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――西洋の映像作品で描かれる「日本」はときにステレオタイプ的ですが、本作では真実味のある日本の姿が描かれていました。どうアプローチされましたか?

日本で外国人が経験する感情に忠実であろうと心掛けました。“外国人シンドローム”というものがあると思っていて、それに触れたかったのです。リリーのようなキャラクターの人たちは、日本に対して“みんなそうだよね”というように括って話したがる。彼らは、日本を異国情緒あふれる自分たちとはまったく違う文化を持った国として捉えているんだけれど、一方のルーシーは、誠意を持って、素直に日本とつながりたいという深い思いを持っているキャラクターなんです。

今回、美術や衣装などそれぞれの部門のトップが日本の方でした。美術は素晴らしいビジョンを持ったアーティストである種田陽平さんが担当していて、(セットの)通りを見たときに僕が「これでいけるかも」と思っても、「漢字のフォントがちょっと違う」と言って直したりしていましたね。日本を表現するのに1番正しい方法を見つけられる経験値を持った方々でした。今作は、そういった素晴らしい方々とコラボして作り上げました。

――それは監督の日本に対する思いの表れなのでしょうか?

私は、今作の舞台と同じ89年に8カ月間日本に住んでいました。そのとき、たとえ外国人同士が集まっていても、私は日本の友人と交流したかった。外国人が、日本のことをステレオタイプ的な視線から「こうだよね」と決めつけたりすると、「そうじゃないよ!」と反論していたんです。ルーシーのようであろうとしていた、と言えるかもしれないですね。

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――Jホラーを思わせるカメラアングルやシーンがありました。意識されたことはありましたか?

僕にとって今作は心理ミステリーです。もちろん、犯人は誰かというようなサスペンスな瞬間はありますが。本当のミステリーは事件そのものではなく、ルーシー自身であり、ルーシーの過去。そのことは、物語が進むにつれて明かされていきます。そのなかでカメラワークは非常に重要で、それぞれのショットにはっきりとした意図があり、ルーシーが体感していることにカメラワークが呼応しているのです。最初、ルーシーは自らの“リアリティ”が何なのかはっきりとわかっている女性でしたたが、禎司やリリーと出会い、自らのつらい過去へのスイッチがオンになってしまいます。そのせいで、自分がリアルだと思っていたところから、ゆらゆらと遠ざかって行ってしまう。カメラは、そんな様子をとらえています。

アクション、サスペンスのようなシーンは、近年のアジアの作品の様式を取り入れています。今回は、カメラマンとしてにパク・チャヌク監督の「オールド・ボーイ(2003)」や「お嬢さん」を担当したチョン・ジョンフンが入っているのも大きいですね。黒沢清監督の「CURE」、石井岳龍監督の「エンジェル・ダスト」のような捜査モノでありながら、超自然的なものが組み合わされている作品を意識しました。

――アリシア・ビカンダーさんとの仕事はいかがでしたか?

アリシアとの仕事は素晴らしい経験でした。彼女がやってのけたことを同じようにできる女優は、世界中を探してもなかなかいないでしょう。ルーシーが、過去のトラウマについて日本語で3分間以上独白するディープなシーンがあって、セリフの練習中に本当に流ちょうに言えていたので、1カット長回しの編集なしで撮りたいと思ったんです。それでアリシアに提案したら、「私もそれがいいと思っていた」と言ってくれました。そのシーンは撮影最終日に警察署のセットで撮影したのですが、9テイクすべて同じところでつまずいてしまって、アリシアは「あー!」って叫ぶほどストレスを感じていましたね(笑)。「編集することもできるよ」と伝えましたが、彼女は「もう1回だけやらせてください」って。そして、日本語で3分間1カットという素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。スタッフは口をあんぐりと開けて驚いていたし、誰も信じられませんでしたね。カットがかかった瞬間のアリシアといったらもう…、あんなに幸せそうな表情の女優は見たことがありません(笑)。

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――日本での撮影はいかがでしたか?

最高! 全部の映画を日本で撮りたいくらいです(笑)! ロケハンやキャスティングもあって5カ月間滞在しましたが、撮影自体は8週間。6週間半は東京、あとの1週間半は佐渡島で撮影しました。原作通りの場所で撮影できましたし、本当に特別な時間でしたね。ただ、禎司が工場地帯のような場所に住んでいるのは、黒沢監督の「CURE」から得たアイデアです。ソシオパス(社会病質者)が住んでいそうな、少し社会から離れた場所という感じが、禎司の心理的状況を反映しています。

――小林直己さんとのお仕事はいかがでしたか?

素晴らしかったです! 彼はすごく集中力があって、キャラクターを自分の内側に取り込むことができる。劇中の写真は自らフィルムで撮影して、現像もしていました。蕎麦を作ることもできるようになったし、禎司のバックグラウンドを知るために鹿児島に1週間住んでいました。タバコを吸うシーンでは、「本当に吸わなくていいんだよ!」って言ったのですが、「いえ、やらないといけません」と聞きませんでしたね(笑)。役にコミットしてくれている様子が、見ている人に伝わるのではないでしょうか。彼には、“スター”としての信じられないほどの力があると思います。世界中に彼の素晴らしい才能を見てほしいですね。

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――今作に込めたメッセージを教えて下さい。

ルーシーは、いくつものトラウマを抱えていますが、日本語を学び始めたことで新しい人生を自分の手で作り、過去から逃れてきました。それが、禎司らとの人間関係が生まれたときに過去の出来事が蘇ってきてしまい、とてもつらい思いをする。親しい人が事故で亡くなったりすると、自分に何かできることがあったのではないかと責任を感じたり、なぜ自分は生き残ったのかと考えてしまうことがあります。いわゆるサバイバーズ・ギルトです。ルーシーはそんな経験を4回もしたことで、人生観が罪悪感に縛られたものとなってしまいました。でも彼女は、同じような悲しみを抱いている日本人女性と通じ会えたことによって、心の平穏を得ることができました。要は、人間は人生経験や他者との繋がりを通して癒される、ということなんだと思います。

アースクエイクバード」は、Netflixで独占配信中。

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