劇場公開日 2019年11月8日

アースクエイクバード : 映画評論・批評

2019年12月10日更新

2019年11月8日よりアップリンク渋谷ほかにてロードショー

日本を舞台にしたノワールな映像世界に揺らめく、オスカー女優の儚げな新境地

今や“日本を舞台にした外国映画”は珍しくないが、これはちょっと特筆すべき作品ではないか。今は亡きリチャード・グラツァーとのコンビで「アリスのままで」などを手がけてきたウォッシュ・ウエストモアランド監督が、東京と佐渡島、東宝スタジオで撮影を行い、イギリス人作家スザンナ・ジョーンズの同名小説を映画化。

オールド・ボーイ」「IT イット “それ”が見えたら、終わり。」の撮影監督チョン・ジョンフン、「キル・ビル」などの美術監督、種田陽平らの一流スタッフが集ったNetflixオリジナル映画である。おまけに製作はリドリー・スコット率いるスコット・フリーだ。

都内の翻訳事務所に勤めるスウェーデン出身の女性ルーシーが、謎めいた写真家の日本人青年、禎司と恋に落ちる。しかし奔放な新参者のアメリカ人女性リリーを交えた三角関係の果てに、殺人容疑者になってしまうという物語である。

まず驚かされるのは、このプロジェクトに対する主演女優アリシア・ヴィキャンデルの並々ならぬ入れ込みよう。古めかしい日本家屋で暮らし、布団で寝起きするルーシーは日本滞在歴5年2カ月なのだが、演技力に定評あるオスカー女優はその設定にまったく違和感がない流暢な日本語セリフをしゃべり、微妙な抑揚の変化で感情的なニュアンスさえも豊かに表現してみせる。愛らしい振り袖姿を披露する一方、小林直己(三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)との激しいセックス・シーンも披露。Netflixでは日本語吹替の選択も可能だが、ヴィキャンデルのバイリンガル演技を堪能するためにオリジナル音声での鑑賞をお勧めしたい。

カラオケ、フジヤマ、オンセンといったエキゾチック・ジャポンを象徴するイメージもちりばめられているが、路地などのロケ地選択にも作り手のディープなセンスがうかがえる本作は、単なる痴情のもつれを描く陳腐なミステリー・スリラーではない。佇まいからして儚げな主人公ルーシーは、少女時代のトラウマゆえに“死”のオブセッションに取り憑かれており、事あるごとに悪夢的な予兆や幻視に身を震わせる。重要な小道具であるカメラは、まるで魂を吸い、死を招く不吉な装置として描かれる。これは異国の地で内なる恐怖と闘い、孤独と混乱の中で救済を求める女性の行く末を見つめたモダンなフィルムノワールだ。実はこのジャンルと相性抜群だったことを証明するヴィキャンデルの新境地とともに、妖しさに満ちた映像世界を細部まで味わい尽くしたい一作である。

高橋諭治

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