A・アジャ監督に聞く「コブラ」「富江」実写化&インタラクティブ・フィルムの構想
2019年10月11日 19:00
[映画.com ニュース] 「ホーンズ 容疑者と告白の角」「ルイの9番目の人生」を発表し、新作「クロール 凶暴領域」(公開中)が控えるフランスの映画監督アレクサンドル・アジャ。このほどインタビューに応じ、寺沢武一氏の漫画「コブラ」、伊藤潤二氏による「富江」の実写化、次世代の新たな映画手法インタラクティブ・フィルムについて語った。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
「コブラ」は、1978~84年にかけて「週刊少年ジャンプ」で連載され、その後「スーパージャンプ」「コミックフラッパー」と掲載誌を変えながら物語が描かれた作品。鋼のような強じんな肉体を持ち、左腕のサイコガン、葉巻がトレードマークの宇宙海賊・コブラの活躍が、アメコミタッチ風に描出された。
寺沢氏の著作権管理を扱う「株式会社エイガアルライツ」は、2000年以降、映画化のオファーを数多く受けたが、それらは漫画の版権を抑えようとするものばかり。寺沢氏をはじめとした関係者は、それらのオファーを断り続けてきたという経緯がある。しかし、あるフランスの製作者が「コブラ」に深い興味を示し、スタジオ「Onyx Films」のもと、アジャ監督が水面下で映画化を模索してきた。
ところが、14年に「原作を忠実に描くためには、1億5000万ドル(約165億円)以上の予算が必要」「ハリウッドの大スターとの製作であれば可能性はあるが、スケジュールの調整が難しい」と語っていたアジャ監督。あれから5年の歳月が経過した。現在の状況はどうなっているのだろうか。
「『コブラ』の映画化は、僕のドリームプロジェクトのひとつだ。アニメ版『コブラ』を子ども時代に見て、漫画も読んで育った。大人になってから、実際に寺沢武一さんにも2、3回会ったんだ。だが、残念なことに、今のところ企画は何も進んでいない」と語る。現在、企画はストップしているようだ。「個人的には、最も素晴らしいスペース・アドベンチャー・シリーズだと思っているので、いつか製作に取り掛かりたいと思っている。ただ難しいのは、『コブラ』自体(マーベル作品などのアメコミに比べ)知名度がないし、製作費もかかる。今のところは、どうにか製作にこぎつけようと頑張っている」と足踏みしている要素を教えてくれた。
日本のホラー漫画界をけん引してきた伊藤氏が、87年から「月刊ハロウィン」「ネムキ」などで発表した「富江」は、何度殺されても蘇る絶世の美女・川上富江と、彼女と出会ったことで運命が狂っていく人々の姿を描いたもの。日本では、中村麻美と菅野美穂が共演した「富江」、荒井萌、仲村みうが出演した「富江 アンリミテッド」などを含む8本の映画版、オムニバスドラマ「富江 アナザフェイス」が製作された。アジャ監督は、米国のストリーミングサービス「Quibi」でのテレビドラマ化を検討している。
「僕は、彼(伊藤氏)のことを“日本のスティーブン・キング”だと思っているんだ。その世界観は、誰にも真似できない。彼の作品は、読者の心の闇を突いてくるような感覚を有している」と答えたアジャ監督。伊藤氏も、アメリカで開催された「Crunchyroll Expo」の場で「日本の映画版『富江』はいくつかあったが、今度はアメリカ版になる。アメリカで、どの女優を主演にすえ、どのような設定でストーリーが展開するのかが、不思議で、とても楽しみです」とコメントしているため、企画は順調に進んでいるようだ。
インタラクティブ・フィルムとは、鑑賞者がまるでゲームのように“物語の展開を選択する”ことによって、その後描かれるストーリーが変化していくというもの。Netflixのオリジナル作品「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」で、その実験的な試みが行われ、次世代の鑑賞方法として注目されている。アジャ監督が手掛けるインタラクティブ・フィルムは、スティーブン・スピルバーグの製作会社「アンブリン・パートナーズ」とタッグを組んで製作される予定だ。
「今作について、あまり語ることはできないが――技術について、少し明かすことができる」と前置きしたアジャ監督。「例えば、視聴者がホラー映画を見ている際、『なぜ主人公は照明をつけて、(脅威に襲われる可能性のある)部屋に入ってしまったのか』と疑問に思うことがあるだろう? 僕が手掛ける新作では、そんな観客の疑問に選択肢を与えることができるんだ。観客の行動に同意するか、しないか、その判断でストーリーが変化していく。(新作で描く舞台が)お化け屋敷だからこそ、成り立つ設定でもあり、サスペンスな状況も作れる。『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』はNetflixだけで視聴できる作品だが、僕らの作品は、映画として公開する予定だ。つまり、映画館で僕の映画を鑑賞するたび、観客は自身の選択次第で、毎回異なる体験をすることになる」と説明する。それぞれの映画館が、このようなインタラクティブ・フィルムに対して、どのように対応していくのかにも注目していきたいところだ。
最新作「クロール 凶暴領域」は、ワニの巣窟と化した家に閉じ込められた父娘の運命を描いた作品。「『ヒルズ・ハブ・アイズ』のようなハイテンションの恐怖映画に回帰したかった」と振り返ったアジャ監督は、「フロリダでハリケーンのカテゴリー5(風速70メートル以上)に直面し、ワニが大量発生する中で、娘が父親を助け出す」というアイデアを基にした脚本と出合うことに。そんな世界観を作り上げるうえで、プロデュースを務めたサム・ライミの協力は欠かせなかったようだ。「僕のビジョンをしっかりと把握し、それを実現させるためのサポートをしてくれた。僕の描いたビジョンにできる限り近いものにさせてくれた」と感謝していた。
同作を描くうえで重要だったのは「ワニを描くCGのクオリティと、主役を演じるカヤ・スコデラーリオの存在だ」と明かしたアジャ監督。さらに、カテゴリー5のハリケーンに直面したフロリダを描くため、セルビア・ベオグラードで発見した巨大な倉庫に、7つの巨大なタンクを建設した。それぞれのタンクに、家の1階や地下、ガソリンスタンド、外観のセットを作り上げ、水を注入。時間の経過とともに水を加え、水かさが増していく様子を表現したようだ。最後に「アメリカ自然史博物館でワニの標本を見たり、書物で生態を研究した」と教えてくれたアジャ監督。本作では、まるで「ジョーズ」のような、息をもつかせぬ展開が繰り広げられる。
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