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「男と女」クロード・ルルーシュ監督が語る、キャリア、音楽、映画製作と人生哲学

2019年6月23日 18:12

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13年ぶりに来日したクロード・ルルーシュ監督
13年ぶりに来日したクロード・ルルーシュ監督

[映画.com ニュース]開催中の「フランス映画祭2019 横浜」の一企画として、クロード・ルルーシュ監督によるマスタークラスが6月22日、早稲田大学で開催された。映画監督になる前のドキュメンタリーカメラマン時代や従軍経験、そして、出世作「男と女」から最新作についてまで自身のキャリアと人生観を語った。

男と女」「愛と哀しみのボレロ」など、初期作からその卓越した音楽の使い方が、後の映画人やアーティストに大きな影響を与えている。「音楽は私の映画と人生に重要な役割を果しています」といい、「音楽は知性とは異なる非合理的な部分に訴えるからです。私はすべての作品において、音楽を前もって録音し、音楽を主要俳優のように扱います。映画を撮ってから、音楽を入れることはしません。それは映画の欠点を隠すこと、穴を埋めることになるからです」とこだわりを語る。

「音楽は人々の心の非合理的な部分に無意識に訴え、脚本は人々の知性、合理的な部分に訴えかけます。私は2種類の知性があると思います。合理的な知性は人は死ぬということを理解しており、非合理的な知性はわれわれにその逆のことを教えます。無意識を目覚めさせるのです。私の映画はなるべくこうして非合理的なもので観客の意識に訴えたいのです。合理的知性のほうはあまりにもビジネス的で、非合理的なものは冒険を好みます。私はそちらのほうが好きなのです。知性ではなく、観客の心に訴える時に、音楽は重要なツールになるのです」

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キャスティングは「監督にとって、一番重要な仕事」と断言する。「私は決して人任せにはしません。『男と女』を作るときに、ひとりの男性とひとりの女性のポートレイトを撮りたいと思いました。ひとりの俳優とひとりの女優のものではありません。そのために演技をしない俳優、街の人のような、そういう人を探していたのです。それまでの映画に出てくる人物は、きちんとヘアメイクをして、衣装を着ており、市井の人には見えません。人生が見せてくれるショーとは程遠いものがスクリーンに映されるのです」

「私は真実の顔を見るのが好きです。それは、真理の香りといってもよいでしょう。長年それを捉えることに苦労しました。俳優の自発性を撮る時にすべてが出るのです。自発的であるということは、うそと真実のほぼ中間のようなもの。キャスティングの時には自発的になることができるような俳優を探します。そういうタイプの俳優は脚本のセリフにあまり重きをおきません。自分の人生をきちんと生きている、そして楽しむことができる人。人生の後ろ側に傷跡があり、その傷跡を撮影することを許してくれる人を探します」

撮影現場での監督の役割については「私が愛し、撮影したいと思った人の自発性を取り戻すこと。それには彼らと戯れ、遊ぶことが大事です」と言い、俳優たちには脚本をあらかじめ渡さずに撮影に臨むという。

「私はテイクの間にセリフをささやくのです。それは、彼らがセリフを覚えてこないようにするためです。覚えたテキストを読み上げるのは演劇で、実際に話すことと矛盾があったりします。私が撮りたいのは生きている様子で、脚本を撮影するのではないので、俳優に脚本を渡しません。誰も自分の人生の脚本を書くことはできません、脚本を書いてしまうと、俳優たちは自分が演じる人物が勝つか負けるかあらかじめわかってしまいます。それはごまかしです。実人生が私を扱うように、俳優を扱うのです」

「すなわち、誰が主演なのかも分かりません。私はラストを決めないので、ストーリーを変えることができます。私にとって生きているのと撮影しているのは同義語です。私を全面的に信頼してくれる俳優を選んでいます。ラストを知らずに撮影に入ることは怖くありません。そして、ラストは不幸すぎても幸せすぎるのも好きではありません。希望を持って観客たちが生きたいと思うような映画を作ります。撮影は順撮りで行い、映画と同じように進行しています。撮影の進行に応じて毎晩シナリオを書き換えます。その日に俳優がもたらしてくれるもの、もたらさなかったものに応じて書き換えるのです」

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1966年の「男と女」の53年後を描いた新作「男と女III 人生最良の日々(仮)」の原題はビクトル・ユゴーの言葉「Les plus belles annees d'une vie sont celles que l'on n'a pas encore vecues」(人生最良の年はまだ生きたことがない年)からタイトルをとった。

「現在だけが自分に属しているのです。過去というと、その腕の中で自分が死んだように感じます。そして未来はあまりにも大きな疑問符であるので、恐れを感じます。現在は単純明快です。私は歳をとるにつれて、現在の重要性がわかるようなりました。20歳のとき、このユゴーの文章に感銘を受けました。過去よりも現在の力が強いとはっきりと示しています。私は20歳の頃より、81歳今の方が人生が容易に思います。そして、今の世界の方が良いと思うのです。今になって生きる喜びが大きくなっています。人生というひとつのジョークをまじめに受け止めなければいけません。良いことも悪いこともありますが、過ぎていく時と戯れることができるようになりました。時に逆らって戯れることはできません。こうやって過ぎていく時間が映画にとって最も重要です。過ぎていく時に打ち勝つ映画、それこそが良い映画です。私は過去より、現在を愛し続けてきました。このユゴーの言葉が、私の人生を導いてくれました。この言葉をタイトルにできたことをうれしく思います」と“現在”を生きることの重要性を説く。

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この日のマスタークラスに、是枝裕和監督が参加していると紹介し、「私は是枝監督の映画がとても好きです。なぜならストーリーが信じられるからです」と褒め称える。「私は見る人たちが、私が抱えているストーリーを信じてくれるような映画を作るために、ものすごく苦労しています。真実を捉えるのはとても難しいことです。演技はとても簡単です。ですから、私の作品に出演する俳優は一人の人間存在に戻らなくてはならない。だから、ジャン=ルイ・トランティニャンアヌーク・エーメは、ひとりの男性として、女性として、人間として存在し、本物でありえたのです」と、真実を表現できる俳優の力が重要であることを強調する。

そして最後に、「私は50年かけて、このように映画を撮ってきました。その度に、自分のシステムを改良し続けています。毎回新しい作品を撮る度に、映画学校に戻ったような気がします。一生をかけて映画を習得し、学ぶことがたくさんあると感じるのです。これが“現在”の力を表すのではないでしょうか。これまで49本映画を撮りましたが、今、私にとって、一番重要なのは今準備している50本目の作品。それがあるから、生き続けて、この仕事を続けていく力を持つことができます。人生が世界でもっとも偉大な監督です、私はその助監督であることをうれしく思います」と締めくくった。

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