イ・チャンドン、村上春樹原作の「バーニング 劇場版」は愛弟子の提案&脚本で実現したと明かす
2019年2月1日 15:00
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[映画.com ニュース] 第71回カンヌ映画祭国際批評家連盟賞受賞作で、名匠イ・チャンドンが村上春樹氏の短編小説「納屋を焼く」を原作に、舞台を現代の韓国に移して物語を大胆にアレンジした「バーニング 劇場版」が公開された。映像化が難しいといわれる村上作品を見事に換骨奪胎し、韓国の若者の失業や格差など、社会問題も織り交ぜたミステリードラマに仕上げたイ監督が、映画化までの道のりを語った。
「シークレット・サンシャイン」「オアシス」などの傑作を発表してきたイ監督にとって、8年ぶりの新作だ。その間、後進育成にも力を入れており、「冬の小鳥」ウニー・ルコント、「私の少女」チョン・ジュリらの作品でプロデューサーを務め、若手監督を育て上げてきた。今作の共同脚本としてクレジットされているオ・ジョンミ氏も、イ監督とは師弟関係にある若手脚本家だと明かす。
「彼女は私が映画の大学で教えていたときの生徒で、優秀な人たちが集まる大学の中でも、顕著に創意工夫性を持つ人物だと評価していました。彼女はもともとは文学と演劇を専攻し、その後映画の勉強をしに学校に来たので、もともと物語作りの素養があったのです。広くて分厚いベースがあり、私と話が通じるので一緒に作業をすることになりました。たくさんの会話を通して、私の伝えたいこと、悩んでいることを最も理解してくれる人です。この作品は、若い人に関する物語なので、私が持っていない部分を、彼女が満たしてくれました。そもそも村上春樹さんの小説で映画を撮ったらどうかとアイディアを出してくれたのも彼女だったのです。オリジナルはもちろん村上春樹さんの原作ですが、映画化する上でのオリジナリティの部分は彼女によるところが大きいのです」
オ氏にとって、今作が劇映画のデビュー作となった。共同脚本の役割分担については「ブレインストーミングをしながら、一緒に企画について語り合いました。相談しながら、まず彼女がシナリオ書き、それを私が見て、もう一度話し合って、書き直してもらう。そして彼女がシナリオを作り上げて、最終的にできたものを更に私がまた手を加える、そういった工程で進めました」と振り返る。
しかし、わずか数ページしかない短編を2時間半の映画にすることに苦労はなかったのだろうか。「韓国で翻訳された村上さんの短編はほぼ読んでいますが、その中でも、主観的な要素が比較的低く、リアルな描写が多いと思ったので、他作品よりは映画化しやすいと感じています。原作では男性が納屋を本当に燃やしたかどうかはわかりませんよね。結末が明確ではないミニマムな話だからこそ、映画にすることができたのです。その余地があったからこそ、ミステリーを拡大させることができたと思います。難しかったのは、解決しなかったままのミステリーを物語にして拡大し、そのテンションを維持し、さらに強化しなければならなかったことです」
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「俳優の力を信用している」とそれぞれ好演を見せた若手の3人の俳優には特別な演出を行わなかった。国内でもトップクラスの人気と実力を誇るユ・アインは「これまで強烈なキャラクターを多く演じ、極端な感情を表すような演技を見せて人気や名声を得ました。そういう彼だからこそ、感情を隠し、どういった行動をするか内面が見えない、受身的な人物であるジョンスを演じたら興味深いものになるのではないかと思いました」という。
一方、ヘミ役のチョン・ジョンソは、全くの新人で、映画のオーディションを受けることも初だったそう。「新人ですから彼女がどういったものを持っているのか、私もなかなか最初はわかりませんでした。しかし、まるで幼い子供のような、綺麗な純粋さを持っている、そんな印象を受けました。ヘミは、どういった行動をするのかが見えない分、見ている側としては何を考えているのだろう、どんな気持ちなのだろうと気になるのです。そういう思いを、呼び起こさせてくれる役だと思いました。ヘミは途中で姿を消しますが、ただ単に姿を消す女性ではなく、自分の人生の意味と自由を求めて、主体的に生きる女性という位置づけです」
謎めいた男、ベンを演じたスティーブン・ユァンは、人気シリーズ「ウォーキング・デッド」などハリウッドで活躍している俳優だ。「私は『オクジャ okja』しか知らず、俳優としての判断材料が最初はなかったのですが、オ・ジョンミがユアンは、30代女性にとても人気があると言いまして。ベンというのは、非常な大事な役。映画全体のミステリーを引っ張っていける俳優でないといけないと思っていたのですが、そういった内面の力も感じました。彼の日常生活の中での韓国語はつたないのですが、この映画の中で使っている韓国語は完璧です。ただ、どこか少しだけ妙なところがあるのです。ほんの少し妙なところのある韓国語なので、そこもベンの持つミステリーとつながる気がしました」
主人公のジョンスの自宅は、軍事境界線(38度線)ほど近くのパジュにある設定だ。この地を選んだ理由をこう語る。「パジュはソウルから車で1時間ほどの場所です。昔は伝統的な農村だったのですが、今は農村の共同体が解体され、倉庫や工場や外国人労働者が目に付く場所に変化し、農村としてのアイデンティティを失ってしまった空間といえると思います。休戦ラインの川向こうの方には、北朝鮮が見え、対南放送のスピーカーの音が聞こえてくるのです。南北関係が今は良好になっているので最近は静かですが、撮影中はずっと聞こえていました。韓国社会の日常を象徴するような場所でもあると思います。表向きに、南北の緊張状態は目には見えないかもしれませんが、あの場所に行くと、それが日常になって、見えてくるような気がします。そういう意味で、韓国の現実を見せられる場所だと思うのです」
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