ジュリアン・シュナーベル、ゴッホの晩年描く新作を語る
2018年10月6日 14:00
[映画.com ニュース]ウィレム・デフォーがヴァン・ゴッホに扮する8年ぶりの新作、「アット・エターニティズ・ゲート(原題)」の公開が待たれるジュリアン・シュナーベルが、スイスのチューリッヒ映画祭を訪れ、マスタークラスを開催した。
シュナーベルといえば、自身と交流のあった画家、ジャン・ミシェル・バスキアの自伝「バスキア」で監督デビューを果たし、国際的に高い評価を得た「夜になるまえに」や「潜水服は蝶の夢を見る」で知られる。この日は新作の話題のみならず、過去の作品の苦労話や知られざるエピソードを語った。「バスキア」では、キャスティングディレクターがバスキアのことを知らなかったため、ハイチ系アメリカ人にも拘らずヒスパニック系のベニチオ・デル・トロを推薦したこと。このとき彼に脇役を演じてもらったのをきっかけに、「夜になるまえに」では主人公の詩人、レイナルド・アレナス役に彼を考えていたものの、諸々の事情で流れ、当時はまだ世界的には知られていなかったハビエル・バルデムを起用したことなど。「バルデムのことは『ハモンハモン』で知った。これを観て、この俳優はまんまこの役のような人物か、素晴らしい演技者かどちらかだと思ったが、後者だった(笑)」。
シュナーベルは「夜になるまえに」にカメオ出演を果たしたジョニー・デップにも触れ、「彼は本当に素晴らしい。しかもノーギャラで出演してくれたんだ。いまの彼に何が起こっているかはわからないけれど、僕にとって彼は本当に天使のような存在だ」と語った。
また、一時映画化を考えていたパトリック・ジュースキントのベストセラー小説「パフューム」について、「実現できなかったのはとても残念だ。映画化されたもの(トム・ティクバの「パフューム ある人殺しの物語」)を観たけれど、全然良くないと思った」と忌憚のない意見を披露。さらにモーリス・ピアラの「ヴァン・ゴッホ」について、「ピアラはフランスで偉大な監督として認められているけれど、この映画はありきたりな自伝でがっかりした。(ゴッホ役の)ジャック・デュトロンも良さが発揮されていないと感じた」と、こちらも率直な意見を語った。
シュナーベル版のゴッホはたしかに、ゴッホの半生を描いたクラシックな伝記とは異なる。彼の晩年に的を絞り、あくまで彼の視点を通して描き、その感性を観客に感じとらせるようなユニークなアプローチだ。今年のベネチア国際映画祭のコンペティションに出品され、デフォーが男優賞を受賞したことでも話題になった。
シュナーベルはさらに、パリのオルセー美術館で、10月10日から開催される展覧会のキュレーションも務める。これは画家であるシュナーベルの眼を通して、オルセーが誇るゴッホ、ゴーギャン、印象派の画家たちの作品を紹介するもの。「個々の作品は有名なものばかりだが、ビジターには今回の新しい展示空間を通して、新たなパースペクティブから作品を感じて欲しい」と語っているだけに、どんな展覧会になるのか楽しみだ。(佐藤久理子)