リーアム・ニーソンが語る演技論「真実を口にするだけ」の真意とは?
2018年4月1日 17:00
[映画.com ニュース] 第42回トロント国際映画祭での「アクション引退宣言」と早々の撤回が話題となったリーアム・ニーソンが、公開中の主演作「トレイン・ミッション」で、65歳にして現役のアクションスターぶりを見せつけている。13年ぶりに来日したニーソンが、今作で“ジャンル映画”という枠を超越して訴えた道徳観や、自身の演技論を語った。
映画は、ニーソンと「アンノウン」「フライト・ゲーム」「ラン・オールナイト」でタッグを組んできたジャウム・コレット=セラ監督が、走行中の電車内を舞台に描くサスペンスアクション。元警官のマイケル・マコーリー(ニーソン)は、10年間勤めてきた保険会社を突如リストラされてしまう。そんなとき、見知らぬ女から「終点までに、乗客のなかからある重要な荷物を持った人物を捜して欲しい」と持ちかけられる。高額な報酬に目がくらみ誘いにのってしまうが、裏には巨大な陰謀が隠されていた。そしてマイケルの家族が人質に取られていることも発覚し、人探しはタイムリミットつきのデスゲームへと発展していく。
米ニューヨークに家を持つニーソンは、舞台となったハドソン線に「この20年で80~90回は乗っている」といい、「よく知っている電車を舞台にした映画に出演するのはシュールだったし、さらに撮影したのはロンドンのスタジオだったからすごく奇妙だったよ(笑)」と撮影時を振り返る。今作では、なじみの通勤客同士の会話が謎を解く鍵になっているが、日本の通勤電車事情を知るニーソンは「日本で撮影したら、皆がくっついてしまっているよね! そのバージョンも見たいな」と笑う。
「今はニューヨークの電車も、劇中のような作りではないんだ。ちゃんとした席のある電車は、ちょっと前の時代のものだね。通勤時間に乗ったことはないけれど、ニューヨーカーはオープンで、知らない人とでも話すことはあると思う。ロンドンは日本と一緒で、そんなことはありえないけどね(笑)」
4度目のタッグとなったコレット=セラ監督への信頼は厚く、「とにかくジャウムとの仕事が大好きなんだ。どの作品も、回数を重ねるごとに良くなっていく」と手放しで賞賛する。「監督としてインスピレーションを与えてくれるし、彼自身の力量もどんどん向上している。多くの監督たちにはできないことだけれど、彼には作品全体の形が見えているんだ。稀有な存在だと思うね。(スティーブン・)スピルバーグ監督みたいだ。ジャウムは特別だよ」
「脚本家が大好きで、尊敬している。どんなジャンルであろうと、脚本の質で出演するかしないかを決める」と断言するリーアム。今作も、アクションという“ジャンル映画”の枠を超えて、観客の道徳心や倫理観を試すような脚本が魅力的だ。
「マイケルは、自分が正しいと思うことをしようとする男だ。だからこそ道徳的なジレンマに苦しめられてしまう。お金が必要な時に、見知らぬ人から自分にとっては些細なことを頼まれて、大きな報酬があったとしたらどうするだろう? 多くの人と同じように、マイケルはそのお金を手にしてしまう。間違った判断だけれども、彼はそれによって起きた結果を引き受けて、それから起こることをちゃんと見通すんだ。それが映画として娯楽性のある形で楽しめればいいなと思うよ。悪魔と契約をしたとも言える行為の後だけれど、責任放棄はしない。そういう意味で、すごく道徳的な男だと思う」
そんなマイケルを体現するため、アクションは“リアルさ”にこだわったという。
「マイケルもその敵たちも、誰も格闘技のエキスパートという設定ではないからね。楽しくて、エンタテインメント性も持たせながら、できる限りその状況に根ざしたリアリティを追求したよ」
演技派俳優として「シンドラーのリスト」でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、「マイケル・コリンズ」で第53回ベネチア国際映画祭ボルピ杯(最優秀男優賞)を受賞しているニーソン。「映画における演技の定義について話をすると長くなってしまうけれど……」と前置きし、自身の演技論を語った。
「年齢を重ねるごとに、役に自分の人間としての本質を少しずつ注入したくなってきたんだ。役を特徴的にするために、偽の鼻をつけるとか、変なアクセントで話すとかではなくね。自分自身を役に取り入れることによって、脚本家が書いたセリフが自分の口から発せられたときに真実味を帯びる。観客が信じられるリアルさを持つことが大切なんだ。歌って踊って、シェイクスピアもできてスリラーもこなせるジェームズ・キャグニーが、映画における演技を聞かれたときに『ただ部屋に行って、しっかりと足を地に据えて、真実を口にするだけだ』と言ったんだ。その通りだと思う」
最後に、ニーソンにとって“魅力的な映画”とは何かを聞くと、シリアスで、思慮深く、お茶目さを忘れない回答をしてくれた。
「世の中を反映しているような、ただの娯楽を超越した何かがあるものにひかれるようになってきたんだ。もちろん楽しいだけの映画もいいけれど、映画は時に心の肥やしになってくれたり、人生で合点がいかないことを説明してくれたりする。“人間であること”は、非常に普遍的で複雑で魅力的なテーマで、いつだって素晴らしい。特にワールドシネマでそういうテーマが掘り下げられることが多いと思う。だからこそ、映画祭が重要な意味を持っているんだ。アフガニスタンや日本、中国、アメリカなど様々な人々のビジョンを世界と分かち合える機会だからね。映画は、人間であるとはどういうことなのかを掘り下げられる、素晴らしいメディアなんだよ……って、ちょっと良いこと言っちゃったな(笑)」
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。