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人気脚本家・吉田智子が語り尽くす「わろてんか」、そして飽くなき映画愛

2018年3月30日 08:30

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取材に応じた吉田智子氏
取材に応じた吉田智子氏

[映画.com ニュース] 人気脚本家の吉田智子氏が執筆したNHK連続テレビ小説「わろてんか」が、3月31日に最終回を迎えようとしている。2016年11月10日の制作発表以降、常に作品に寄り添ってきた吉田氏が、現在の胸中を映画.comに告白した。

コピーライターを経て脚本家になった吉田氏がこれまでに手がけてきた作品は、数知れず。1999年に日本テレビのドラマ「君といた未来のために ~I'll be back~」で脚本家デビューを果たすと、その後は「美女か野獣」など軽快なタッチの作品からヒューマン系ドラマまで縦横無尽の活躍を見せる。映画脚本は「Life 天国で君に逢えたら」(07)を皮切りに、「クローズド・ノート」(07)や「奇跡のリンゴ」(13)を担当。近年は泣ける恋愛系映画が続けてヒットし、興行収入35.2億円を記録した「君の膵臓を食べたい」は第41回日本アカデミー賞の優秀脚本賞に輝いている。

朝ドラの脚本は、これまでの作品と流れる時間軸が全く違ったといい「いやあ、ハードでしたね。ハードだったんですが、でもそれ以上に楽しかった。(最終稿を)脱稿したときは『このキャラクターたちと、もう会えなくなるのか…』と思って、泣いてしまいました。長い期間、一緒だったのでね」と明かすと、感極まったのか大粒の涙を流す。葵わかなが扮した主人公の北村てんは、吉本興業の創業者・吉本せいがモデルとなっているが、吉田氏の同キャラクターに対する思いは愛情と形容しても言い過ぎではない。

「日本の演芸の歴史を作ってきた会社としての面白さって間違いなくありますよね。オリジナルのキャラクターを立てたといえど、せいさんが作り上げてきたものに関してはきちんと辿ってきたつもりです。てんちゃんという主人王に関しては、朝ドラでは珍しく、受けのタイプにしてみたんです。というのも監督がどこからか、せいさんのインタビュー記事を探してきてくれたんです。そうしたら、以外と聞いていたものと違っていて健気な方だったんですね。夫を献身的に支えていたけれど、その夫が亡くなってしまったから自分が立たざるを得ず、頑張る!みたいな。せいさんのインタビューで感動したのが、何が楽しかったのか振り返ってみると、ご主人と一緒に働けたことなんですって。当時はそういう風潮がないなか、一緒に切り盛りしていくことをふたりでやれたことが、何よりも楽しかったそうなんです」

今後は、「少しお休みをいただいた後は、映画をやりたいと思っています。幾つかあるオファーの中から選ばせていただくことになる」という。吉田氏にとって、脚本家を志すにあたって原点にあったのは映画だと言い切る。

「子どもの頃に随分とクラシック映画を名画座などで見させられまして……。始まりは『戦艦ポチョムキン』で、『市民ケーン』などを小学校低学年で見させられたのですが、よく理解できるはずもないですよね。なのに、映画館を出た後に父に『面白かっただろう?』と聞かれまして、『全然わからなかった』と正直に答えたら、『おまえ、バカだなあ』と(笑)。それで、じゃあもうちょっとわかりやすい作品ということで、『サウンド・オブ・ミュージック』を見せてやろうかと(笑)。そんなこんなで、私にとっては映画がずっと原点にあるんです」

それだけに、手塩にかけて“育てて”きた作品が「キラキラムービー」とひと括りにされてしまうことに対し、思うところはあるようだ。「すごく簡単に表現されてしまっていますが、自分自身はそんなつもりは全くありません。東宝さんで『クローズド・ノート』をやらせて頂いた時に盛り上がったのは、フランス・ポーランド合作の『ふたりのベロニカ』について。ああいう時空間を生かしたものっていいよねと。作り手みんなのベースにあるのは、映画が大好きなんですよ。そういった回顧主義的な部分を持って作っている感じです」。

だが、「アオハライド」(14)のオファーを受けた時は、躊躇したことを明かす。「(設定が若すぎて)さすがにこれはできません!」。そんなとき、岡田恵和氏のラジオ番組に出演した際に「こういう青春映画って、若い人が書くんじゃなくて、設定より20歳上の人が書くのがちょうどいいんですよ」と言われ、東宝の臼井央プロデューサーからも「宝箱のように思っている青春時代、その宝箱のふたを開ける感じで、ひとつひとつ大事に取り出すように書いてください」と後押しされ、引き受けた。

「僕等がいた」や「ホットロード」「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」など仕事を共にする機会の多い三木孝浩監督にも、「ちょっと恥ずかしくないですかね?」と聞いてみたことがあるという。三木監督からは「そんなことありませんよ! 僕らは真正直に、正々堂々とやっていいと思います。僕は50になっても、70になってもこういうものが撮りたい」と返答があったそうで、「それで私も吹っ切れました。堂々とやっていこうと思えるようになりました」。

それでも、オリジナル企画に対する熱い思いも抱き続けている。「コピーライターをやっていた時点で、商業というものに意外とどっぷり浸かってしまった部分がある。“売るためのもの”ということを理解し、受け入れる。クリエイティブな面において頑ななひととは違う位置づけでここまできた気がします。卑下すべきなのか、誇りとしていいのか迷いはあります。ただ、自分の中で絶対に揺らぐことのない愛情があるんです。人に対する愛情、映画に対する愛情、ストーリーに対する愛情。これは絶対になくしようがない。ここだけ、自分だけが信じていれば、他人が何と言ってもいいなあって感じています」。(取材・文/映画.com副編集長 大塚史貴)


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