「今夜、ロマンス劇場で」ロケ地・足利東映プラザに込められた文化の匂い
2017年12月4日 09:00
[映画.com ニュース] 綾瀬はるかと坂口健太郎が初共演するラブストーリー「今夜、ロマンス劇場で」の撮影が5月下旬、栃木の旧映画館・足利東映プラザで行われた。物語の舞台となる1960年代のクラシカルな映画館「ロマンス劇場」に生まれ変わった同施設には、メガホンをとった武内英樹監督率いるスタッフたちのこだわりが細部にまで反映されていた。
有楽館の名称で運営していた映画館を建て替え、77年に開館、その後惜しまれながらも99年に閉館した足利東映プラザ。外には「劇場通り」と書かれた映画館時代のアーケードが残されており、劇場の壁を覆うツタ、各所に見受けられるサビが“映画が娯楽の王様”だった頃の古き良き時代を感じさせる。映画監督を夢見る青年・健司(坂口)の前に、長年あこがれ続けてきたスクリーンの中のお姫様・美雪(綾瀬)が現れ、次第に惹かれていくというオリジナルストーリーを企画した稲葉直人氏は「当初イメージしていたのは『ニュー・シネマ・パラダイス』に登場するような映画館でしたが、そこにこの映画ならではのアイデアが次々と加わっていきました」と話し、物語の核となる「ロマンス劇場」に数々の意匠を凝らした。
劇場正面に立って見上げると、まず目につくのはネオンサインで表示された「KINEMA SCOPE ロマンス劇場」の文字。闇夜にも映える赤と青の光は、本編でも印象的にインサートされている。その下部に設置されていたのは、今では見る機会も少なくなった手描き看板。劇中では、実在する「カサブランカ」「女王蜂の怒り」などに加え、架空の作品「ハイティーン主婦」「不機嫌な季節」という風合いのある看板が観客を出迎えてくれる。
中央階段から2階へ上がると、目の前には入場券売り場。「御入場料」は、一般(150円)、早期割引&学生割引(130円)、小学生(75円)という設定のようで、劇映画以外にも「シネスコ版 毎朝ニュース」というニュース映画も上映されているようだ。約1畳ほどの売り場内に入ってみると、映像に映るかどうかわからない部分にまで貫かれた“リアリティ”に驚くばかり。入場券やもみ消された灰皿の煙草、売り上げを記録するノート、オールナイト上映の予定を記したメモ書きなど、俳優陣の芝居をサポートするアイテムが並んでいた。
「文化の匂いがする古き良き映画館を目指した」という稲葉氏の言葉は、売店に並ぶ商品のラインナップにも反映されている。あんぱん、クリームパン、かりんとう、甘納豆、キャラメルやビスケットがショーケースに陳列され、透明な瓶の中には1枚売りの煎餅のほか、ラスクや殻付きのピーナッツ。ちり紙やタオル、手ぬぐいも販売されており、銀幕のスターたちを活写したブロマイドはノスタルジックな雰囲気を醸し出していた。
劇場内に掲出された劇中映画のポスターは、北村一輝演じる大スター・俊藤龍之介の人気作「ハンサムガイ」シリーズが強烈なインパクト。小林旭主演の「銀座旋風児」(ギンザマイトガイ)シリーズなどをモチーフとした作品となっており、1度目にしたら忘れられない個性的なデザインだ。さらに「島の女」「静かなる男」といった内容が気になる作品のポスターが貼られていたが、そのデザインには遊び心があった。劇場外に設置されていた架空の作品の看板を含め、描かれている人物は、本作のスタッフがモデルになっているのだ。
この日撮影されたのは、美雪がモノクロ映画のなかから現実世界に飛び出してくるというファンタジックなシーン。「色のない世界からやってきた美雪は、まず色に興味を示します。スクリーンから出てきて、最初に遭遇する“色のついた世界”がロビーなんです」と稲葉氏が説明するように、劇場内のロビーは様々な“色”に満ちあふれている。赤いダイヤマークのパターンをあしらった床、シックな青や緑が基調となった壁紙、そして等間隔に配置されたランプは温かみのあるオレンジ色。「美雪が心躍らせる配色を心がけています。嘘っぽくなりすぎない絶妙なラインです」という言葉通り、モノクロ映画から現れたお姫様の好奇心をくすぐる仕上がりになっている。
9年間も企画を温め続けてきた稲葉氏は「この物語を考えていた時、小説よりも漫画よりも、絶対映画で見るほうが面白いストーリーにしたいという思いがあったんです」と胸中を吐露。「大きなスクリーンで映像を見て、初めて面白いと感じることが大事。色彩的な遊び心やCGは、文字や漫画の絵では感じとれない部分だと思うんです。その点は明確に意識していますね。映画のためだけにつくった物語じゃなくてはいけなかった。是非映画館で本作を見ていただきたいです」と思いの丈を述べていた。
「今夜、ロマンス劇場で」は、18年2月10日から全国公開。
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