坂本龍一「戦場のメリークリスマス」からこだわり抜いた映画音楽の流儀

2017年11月1日 18:30


ベルトリッチ監督との爆笑秘話を 明かした坂本龍一
ベルトリッチ監督との爆笑秘話を 明かした坂本龍一

[映画.com ニュース] 第30回東京国際映画祭のマスタークラス「坂本龍一スペシャルトークイベント」が11月1日、六本木アカデミーヒルズで行われた。

時代を切り開く、革新的な作品を世界に発信し続けてきた映画人に贈られる「SAMURAI賞」を受賞した坂本。同イベントは、アカデミー賞をはじめとする数々の国際的な賞を受賞し、常に時代をリードする坂本の軌跡をたどるとともに「映像と音の関係」を題材にしたトークを展開。モデレーターを、音楽・文芸批評家の小沼純一氏が務めた。

特別招待作品としてドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto: CODA」も上映される坂本が、初めて映画音楽に携わったのは、大島渚監督作「戦場のメリークリスマス」。「道(1954)」「太陽がいっぱい」のニーノ・ロータが生み出した音楽が大好きだったという坂本は「音楽もつくらせてくれるなら出演してもいい」と未経験ながらも強気に出たようだ。タイトルにちなみ「クリスマスソング=鐘の音」を想起しながらも「この映画は南洋が舞台なので、教会的な音ではいけなかった。今作ではワイングラスの音を基本としています」と理詰めでメロディを構築した。そして2週間程度の作業の後、運命の瞬間は訪れた。「突然意識がなくなって、目が覚めたら譜面が書いてあったんです。ハーモニーの調整はありましたけど、まさに自動筆記みたいだった」と振り返っていた。

「『戦場のメリークリスマス』は一種の神話的な映画」と説明すると、「僕も特定の場所を想起させるのではなくて、具体性を排してしまった」という坂本。「反復的な音楽になっていますよね?」と問われると「(当時は)ありきたりな音楽にしたくないというのがあって、わざとぶっきらぼうにリピートしたところもあったはず。また、シーンに対して“切り貼り”的なんですよね。つまり同期させてしまっている。まだ自分で気づいていない頃ですね」と語っていた。

「主人公は自然だった」として、動物の鳴き声、環境音を強調するために、無音状態を重要視したアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作「レヴェナント 蘇えりし者」では「作業は半年くらい。(監督は)なかなか言うことをきいてくれませんでしたね」と苦笑いを浮かべた坂本。だが、今まで最も苦労したのはベルナルド・ベルトルッチ監督との仕事だったようだ。オーケストラ演奏を中心とした「ラストエンペラー」は「本当はシンセサイザーでやりかったんです。でも、ベルトルッチの前で演奏を披露したら『演奏者の衣ずれの音はどこなんだ? 椅子のきしむ音がしないじゃないか』と却下された。でも、デビッド・バーンはシンセやサンプリングマシンでやっていたんですよ!(笑)」「使用されたのは45曲中、半分ほど」と驚きのエピソードを披露した。

会場の爆笑をかっさらったのは「リトル・ブッダ」のクライマックスシーンの音楽を「5回も書き直した」という逸話だ。オペラ調に歌われた般若経が使用されている同パートは、ベルトルッチ監督の無茶ぶりを経て完成に至ったようだ。「監督が最初に『龍一、僕はティッシュカンパニーを起業する。世界中の人が大泣きして、莫大な富を得るだろう。だから世界一泣ける曲を書け』と。1、2曲目は『もっと悲しく。これじゃ儲からない』、3曲目は『悲しすぎる。希望がない』と言われて、さすがに僕も本気で怒ってしまって(笑)。4曲目で却下されたものは、別のシーンで使用されていますよ」と笑いながら振り返っていた。

「良い映画ってあまり音楽は必要ないんですよ。自分の職業を否定するみたいですけどね。僕はそう信じています」と意外な考えを抱いていた坂本。「音楽のみで存在している場合と、映画というコンテンツの中に組み込まれた場合では、その役割は違うと思っている。映画音楽というのは、仮に役不足でも充分機能を果たす場合も多々あります。その点がわかると、映画の見え方が変わってくるじゃないかな」と思いの丈を述べていた。

第30回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。

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