「予兆 散歩する侵略者」黒沢清監督、夏帆×染谷将太×東出昌大の演技合戦に驚嘆
2017年9月10日 10:00
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[映画.com ニュース] 劇団「イキウメ」の人気舞台を映画化した「散歩する侵略者」が公開中の黒沢清監督が、同作から生まれたスピンオフドラマで、連続ドラマW「贖罪」以来5年ぶりのWOWOWドラマ監督作となる「予兆 散歩する侵略者」の舞台裏を明かした。
映画版では、夫が人間から概念を奪う“侵略者”に体を乗っ取られた状態で帰宅したことから生じる妻の葛藤や、世界が崩壊していく過程を、ラブストーリー要素をまじえて映し出したが、本作では夏帆と染谷将太が演じる夫婦が、東出昌大扮する侵略者にじわじわと生活を脅かされていく姿をサスペンスタッチで描出。「リング」シリーズで知られる脚本家・高橋洋が「蛇の道」以来およそ19年ぶりに黒沢作品に参加し、黒沢監督の真骨頂ともいえる恐怖演出が存分に盛り込まれた怪作に仕上がっている。
本作では、「映画の物語がある町で起こっていたとしたら、その隣町では何があったか」をコンセプトに、高橋によるオリジナルのストーリーが展開する。黒沢監督も「真逆のテイストが楽しめる」と語るほど、両作のカラーが異なっているのが大きな特徴だ。中でも印象的なのは侵略者の立ち位置で、映画版では松田龍平が温厚な侵略者をひょうひょうと演じていたが、ドラマ版の東出扮する真壁は、概念集めに異常なほどの執念を見せ、“ガイド”と呼ばれる協力者の辰雄(染谷)を恐怖で支配する冷徹なキャラクターとして描かれる。東出の鬼気迫る怪演も相まって、「一言で言うとダーク」な、より侵略される恐怖を強めた内容といえる。
黒沢監督は「高橋テイストが爆発しました(笑)。東出さん演じる恐ろしい侵略者にずぶずぶと引きずられていく染谷さんの設定は、いかにも彼の作風ですよね。(染谷演じるガイドは)侵略者を使って悪事を働いてやろうというずるいことを考え、自らわなにはまっていく。あそこは高橋くんの発想ですね。僕はああいうがんじがらめな感じはなかなか思いつけない」と久々のタッグに顔をほころばせる。
高橋とのコラボレーションは、映画版と本作で“家族の概念”の描き方が異なる、という副産物も生み出した。「前川(知大)さんの原作は『家族の概念を奪われる』というところから始まるんですが、これはどちらとも取ることができるんですよ。映画では、家族の概念を奪われたことで自由になってしまうという方向に寄せました。これは僕の解釈です。対して高橋くんは、家族の概念を奪われた人は『家に幽霊がいる』と思うといった鬼気迫る状況に陥る、というところからこの物語を進めていった。同じ原作を読んで、『家族』という概念をとられた人間が陥る状況を、まったく違うように解釈したところは面白かったですね」。
加えて、黒沢監督は、東出、染谷、辰雄の妻・悦子役の夏帆の3人の演技が、作品のレベルを引き上げたと手ごたえを語る。「染谷さんが(善悪の)中間的なところで揺れ動く。それを東出さんは利用しようとし、夏帆さんはなんとか人間の側に引き戻そうとする。この3人があそこまで強烈に演じてくれるとは思ってなかったので、やっていてとても迫力を感じました。3人の鬼気迫る芝居を見ているだけで、十分満足していただける仕上がりになったなと感じています。覚悟して見ていただければうれしいですね」。
中でも、「散歩する侵略者」に牧師役で出演している東出には、映画版と別役をオファーしてまで再タッグを熱望。「『予兆』の脚本が出来上がったときに、もし東出さんでやったら、映画版も見た人が気持ちよく混乱したりするかもしれないと思ったんです。映画版でも十分怪しい存在でしたので、色々と想像できて楽しいかなと思って」と厚い信頼を寄せる。
自身のありようとしては「映画とはテイストを変えようとは思っていましたね。高橋くんが脚本を書いたということもあって、ごく自然に陰惨なホラー色が出ました。もちろん、どぎついシーンはひとつもありませんが。映画はもう少しコミカルだったり、すがすがしい感じにしたつもりなので、こちらの薄気味悪さと並べると、僕にとってはちょうどいいバランスなんです」と語る。その結果、カーテンや照明の揺らぎを効果的に用い、不穏さをあおる“黒沢ワールド”が前面に押し出された。
独自の作風が世界的にも高く評価されているが、本人が奪われたくない概念は意外にも「劣等感」。「劣等感を奪われると、映画なんか作れなくなるかもしれません。作った映画が1つも面白くないってことになるかもしれない(笑)」と柔和な笑みの奥に気概をのぞかせた。
「予兆 散歩する侵略者」(全5話)は、9月7日の深夜0時からWOWOWメンバーズオンデマンドで先行配信を開始(毎週木曜日配信)。9月18日から、毎週月曜深夜0時にWOWOWプライムで放送(第1話のみ無料放送)。「散歩する侵略者」は、公開中。
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