吉永小百合&ケラリーノ・サンドロヴィッチが語る「北の桜守」で挑んだ異色の“映画内演劇”
2017年7月20日 05:00
![KERAの演出を心から楽しんでいた吉永小百合](https://eiga.k-img.com/images/buzz/66718/556086df5137d4f1/640.jpg)
[映画.com ニュース] 吉永小百合が主演する映画「北の桜守」の撮影現場が6月28日、東京・大泉学園の東映撮影所で報道陣に公開された。この日行われたのは、演劇界の鬼才ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が演出を務め、吉永演じる江蓮てつの心情を象徴的に表現する舞台パートの撮影。120本目の出演作という記念すべき作品で初めて“舞台の芝居”に挑戦した吉永にとって、KERAとの共同作業は驚きと興奮の連続だったようだ。
「おくりびと」(2008)で米アカデミー賞外国語映画賞を戴冠した名匠・滝田洋二郎監督がメガホンをとる今作は、北海道を舞台にした「北の零年」(05)、「北のカナリアたち」(12)に続く“北の三部作”の最終章。戦中から戦後にかけて北の大地で懸命に生きた江蓮てつと、アメリカで成功をおさめ帰郷した息子・修二郎(堺雅人)の生涯を描く。
撮影されたシーンの背景は、45年の南樺太。てつ、そして夫・徳次郎(阿部寛)やふたりの息子たちの幸福な日常が、日本との不可侵条約を破棄したソ連の侵攻によってもろくも崩れ去っていく様子を活写している。阿部、舞台初挑戦の岸部一徳らが芝居に臨んだセットは張り物もなく、ほぼ“素舞台”に近いシンプルなルック。ステージ上に設置されたライトから発せられる光によって激しい空爆などのシチュエーションが表現され、シーンの始まりから備えられていた椅子は場面の転換によって様々な“意味”が与えられていく。役者の身体表現に重きが置かれた、まさに演劇空間が眼前に広がっていた。
![画像2](https://eiga.k-img.com/images/buzz/66718/0746570460310038/640.jpg?1500432297)
KERAと共に取材に応じた吉永は、「(舞台パートは)初期のシナリオの段階ではまったくなかったアイデア。もっと具体的に描かれる予定でした」と意外な事実を告白。「樺太の悲劇は非常に重い出来事ですが、今の若い方々はその事実を知らないはず。このような歴史もあったんだということを舞台という形で抽象化することで、わかりやすく受け止めてもらうことが大事なのではないかと思ったんです」と意図を説明した。
「女優さんが主人公の映画というわけでもなく、ましてや演劇をモチーフにした映画でもない。大作なのにこんな冒険をするとは。今回オファーをいただかなければ、このような形で映画に関わることは一生ないはず」と滝田監督が仕掛けた“映画内演劇”という手法に驚嘆するKERA。撮影チームを率いる滝田監督によって、自らの演劇が切りとられていく光景を「まるで舞台中継」と言い表した。「通常の映画で舞台シーンを撮影するとなると、もっと細かく場面を割りますが、今回はある程度芝居をつなげたものを撮影するというスタイル。僕は『芝居を好きに切りとってください』というスタンスですが、その代わりカット割りに合わせてつくっていくことは一切していません。だからある意味バトルのようなもの。『さあ、どう切るの?』という感覚があって、スリリングです」
横浜放送映画専門学院(現:日本映画大学)に通っていた頃、何度も「キューポラのある街」(62)を見ていたというKERAは「小百合さんは特別な存在ですよね。一徳さんと同じく、今後も舞台には出られないと思うんです。接点を持ち得なかった方」と思いの丈を述べた。そして「僕が言うのもおこがましいのですが、役者さんとしての勘所もお若く、年齢を感じさせない。もしも20年前に僕が小百合さんより年上だとしたら、絶対に演劇界に引きずり込んでいると思う」と舞台女優としての才能に舌を巻いていた。
中学生時代、演劇部に所属しながらも「これまでは自分が舞台に立っている姿があまり想像できなかったんです」と謙虚な姿勢で言葉を紡いでいた吉永だったが、本作の撮影については「抽象と具象がどのように絡み合って作品になるのかがとても楽しみなんです」と表情をほころばせた。小椋佳の作詞・作曲による「花、闌(たけなわ)の時」をコーラス隊と一緒に高らかに歌い上げるといった舞台ならではの抽象的な表現を嬉々として楽しみ、特に共演したパフォーマーたちの動きには「ある時は人間なのに、次の瞬間は車輪になったり。椅子を並べてくださるのも物凄くスピーディ」と驚くばかり。休憩中には率先して彼らに意見を求め、細かな動きを何度も確認する姿が印象的だった。
![画像3](https://eiga.k-img.com/images/buzz/66718/20a8f3c2525541e1/640.jpg?1500432303)
吉永の芝居をサポートしたのは、KERAが信頼を寄せる「カンパニーデラシネラ」主宰の小野寺修二だ。「シナリオに書かれていることをそのままやってしまうと、単なる新劇になってしまうし、僕が演出を手がける意味がない。パントマイム出身の小野寺君や、彼がいつも組んでいるパフォーマーの方々が参加してくれたことで、より多くの“見せ方”を試すことができたんです。小野寺君の力はかなり大きいと思っています」とKERA。「本当によく訓練されていらっしゃいますもんね」という吉永の言葉に同調して「まさに阿吽(あうん)の呼吸ですから」と話していた。
改めて吉永の舞台を演出したことについて問われたKERAは「言い難いなんてことはなくて、素直に光栄です。一生の宝ですよ」と感動の面持ち。撮影日数も残りわずかだったことから「もっとやりたかった」と残念がっていたが、突然吉永に対して「でも、僕は映画もやってますから。これが最後のタッグとは言えませんよ。ちょっと変わった作品があってもいいんじゃないんですか? 是非121本目に(笑)」と言葉を投げかけた。「1980」(03)、「おいしい殺し方 A Delicious Way to Kill」(06)、「グミ・チョコレート・パイン」(07)、「罪とか罰とか」(09)で描かれた特異な“KERAワールド”に吉永の姿。まるで想像もつかないコラボレーションだが「そういう作品も楽しそうですよね」という吉永の発言からも、その“まさか”が実現する可能性はゼロではないようだ。
「北の桜守」は、18年3月10日から全国公開。
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