「ヒッチコック/トリュフォー」ケント・ジョーンズ監督「脈々と繋がる映画文化の話を描いた」
2016年12月9日 17:00
[映画.com ニュース] 「映画の教科書」として長年にわたって読み継がれている「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」を題材にし、マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャー、黒沢清、ウェス・アンダーソンらヒッチコックを敬愛する10人の名監督たちにインタビューを行ったドキュメンタリー「ヒッチコック/トリュフォー」が、12月10日に公開される。批評家としても活躍するケント・ジョーンズ監督に話を聞いた。
ジョーンズ監督と「「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」(以下「映画術」)との出会いは、なんと12歳の頃。その後のジョーンズ監督の人生に多大な影響を与えた。本ドキュメンタリーはビジュアル版「映画術」というよりも「映画術」を愛し、影響された映画人に関する作品に仕上がっている。
「そもそも、本のビジュアル化ということには興味がありませんでした。本の映像化で終わってしまうことは、映画としての行き場がありません。この映画では、『映画術』を愛する人や、ヒッチコックの作品に対して繋がりを感じさせる人にコメントを頂きましたが、『ヒッチコックは重要な映画作家です』とか『このショットが素晴らしい』といった感想が欲しかった訳ではありません。ヒッチコックを愛しているということだけでなく、映画作りとは何か? ということについて語れる人が必要でした。インタビューした映画監督たちは、皆そのような方々です」
本作ではヒッチコック作品のフッテージが多数用いられており、そのカットの長さからはリズムが感じられる。「小津安二郎がストップウォッチを使って演出した、というエピソードと同じということですね(笑)。まずひとつに、この映画を早いペースで見せたかったということがあります。そして、ボールが転がってゆくようなエネルギーが生まれる構成にしたいと思っていました。そうすることで、別々の作品から抜き出したはずのフッテージ同士に関係性が生まれ、そこからヒッチコック作品における共通点を見出せるという意図があります」
また、自作にミニュチュアを多用するウェス・アンダーソンの発言に、ミニチュアの列車が走るカットを重ねるなど、モンタージュが巧みに使われている。「この映画の中では、特定の映画のことを話している部分もあれば、より広い意味で映画というものを話している部分もあります。なので、ウェス・アンダーソンが話している部分に『第十七番』(32)のカットを使ったことで、そのような効果が生まれたのかも知れませんね。実は、デビッド・フィンチャーが『ソーシャル・ネットワーク』(2010)でやったモンタージュを意識しながら、この映画で実践しているんです」
アメリカンニューシネマの監督はトリュフォーらのヌーベルバーグに影響され、そのトリュフォーはヒッチコックに影響された。ヒッチコックもまた助監督時代にドイツ表現主義の影響を受けている。点と点が繋がって線になり、映画史が形成されているということを、この映画で描いた。「芸術というのは、全部が繋がっています。ヒッチコックの影響を語り出すと、おそらく“映画の誕生”にまで話が及ぶと思います。映画は脈々と続くムーブメントなんですね。映画作家は、自身の作品の中にある刻印のようなものを語りたがる傾向にありますが、実は何かに影響を受けているものなのではないか? と私は考えているんです」
そして、最後に日本の観客へメッセージを寄せた。「私は“古い映画”という表現が、そぐわないものだと思っています。例えば、美術館に行くのに『古い絵を見に行く』なんて言い方はしませんよね。この映画は、古い時代の古い映画監督の話をしている訳ではなく、脈々と繋がる映画文化の話を描いています。若い人で『古い映画は見なくていい』と言う人がいたら、そういう意識は捨てるべきです。この映画をきっかけに映画に対する見方を変えて、まずはヒッチコックの作品に触れて頂けると嬉しいです」
「ヒッチコック/トリュフォー」は12月10日から、新宿シネマカリテほか全国で順次公開。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。