山崎貴監督「永遠の0」で初めて描いた“狂気”、そして苦渋の決断で諦めたシーンとは?
2013年12月25日 12:43
[映画.com ニュース] 百田尚樹氏のベストセラー小説を山崎貴監督、岡田准一主演で映画化した「永遠の0」が、12月21日に全国430スクリーンで公開され、絶好の滑り出しを見せている。第二次世界大戦で特攻により命を落とした天才パイロットの生きざま、現代を生きる孫たちとかつての戦友たちがたどる60年間にわたる“旅路”を描ききった山崎監督に話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)
原作を読み、映画化を熱望した山崎監督だったが「いざ『やってください』となったとき、とにかくシチュエーションが多すぎて『これ、どうするんだよ』となっちゃって(笑)」と振り返る。その理由を、「主人公の宮部久蔵は戦地を転々としていることもあり、いろんな場所に現れている。ある意味でロードムービー調ですよね。バラエティに富んだ背景のなかで進んでいかないと物語が成立しない。そのためにも限られた予算の中で、出来るだけシチュエーションを削っていき、さらにひとつひとつの純度をあげていくことに注力していきました。かなり無理はしましたけどね」と明かす。
山崎監督といえば「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ、「SPACE BATTLESHIP ヤマト」などに代表されるVFXの第一人者として知られ、今作でも空戦シーンなどでその真骨頂を発揮している。さらに特筆すべきは、主演・岡田への演出が挙げられる。「生きて妻のもとへ帰る」と公言し“海軍一の臆病者”といわれた天才パイロットが、戦況の悪化に伴い狂気に陥っていくさまを演じきった岡田の演技は、新境地といえる。
「岡田君そのものに宮部的なものがある。ストイックさとか、求道的なところとか。パブリックイメージが優しそうなだけに、ポイントは狂気かなと思っていた。そこをちゃんと表現できないと、宮部がなぜ特攻を選んだかに対する解答を、お客さんに提示できないと思っていたし、岡田君も重々承知していた。本人も悩んでいたし、僕も悩んだけれど、彼は憑依型。宮部になっちゃう。宮部が追い詰められれば自分も追い詰められて、精神的にディープな世界に入ってしまう。それくらいのアプローチをしなければいけない作品だし、軽々しく扱ってはいけない内容。岡田君に対してもプレッシャーをかけたけれど、すごく頑張ってくれました」。
これまで、監督デビュー作となる「ジュブナイル」(2000)から前作「ALWAYS 三丁目の夕日’64」(12)までの8作全てが興行収入10億円を突破しており、興行面でも必ず結果を残してきた。予算面も含めてプロデューサー的な視野で動かなければ達成できる数字ではない。
山崎監督は、謙遜しながらも「賞をとることやマニアックなファンがつくこともすごく大事なことですが、商業作品をつくる人間が映画を撮り続けるためには、興行収入というのは絶対的な価値がある」と持論を展開。さらに、「自分の信念を曲げたりは絶対にしませんが、作りたい世界観のなかに選択肢が2つあって、1つの方が興行収入を確実に上げるというのならば、僕はそちらを選ぶ。それは、映画産業を衰退させないためにも大事なこと。『映画は儲かる』という思いがなければ、出資者の皆さんもお金を出しにくくなるし、スタッフも食い詰めちゃう。与えられた条件の中で一番いいものを作るということは常々考えています」と語った。
そのうえで、「永遠の0」製作渦中で断念した描写がある。それは原作にもある、専門に開発され実用化された航空特攻兵器「桜花」だという。「僕が最初に作ったプラモデルというのが、桜花と母機である一式陸攻(一式陸上攻撃機)のセットだったんです。特攻のためだけに作られたロケット戦闘機が日本にあったんだということが、当時の僕には衝撃でした。誰にも言ったことがなかったけれど、火だるまの中を飛び立つ桜花というシーンはすごくやりたかった。ただ、空母赤城を緻密に作りたかったから、桜花に回せる人員がいなかったこともあり、やらないという選択をしました。千載一遇のチャンスを逃したかもしれませんね」と笑みを浮かべる山崎監督からは、言葉とは裏腹に清々しさすら感じられた。
2014年には、八木竜一監督との共同メガホンによる3DCGアニメ「STAND BY ME ドラえもん」、累計発行部数1100万部を誇る岩明均氏の人気漫画を2部作で実写映画化する「寄生獣」が控えており、今後も目を離すことができない。
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