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クローゼットやベッドの下などの暗闇に紛れ近付いてくる怪物“ブギーマン“の恐怖が描かれたホラー映画。
原作は『ショーシャンクの空に』や『IT/イット』シリーズの、小説家スティーヴン・キング。
1973年に発表された同名短編小説を基にしており、これは1982年にジェフリー・C・シロ監督により短編映画化もされている。この短編、現状では『スティーブン・キングのナイトシフト・コレクション』(1983)というVHSを手に入れるしか公式に観る手段はなく、半ば幻と化している。…が実はYouTubeにこっそりと転がっていたりする。無断アップロード、ダメ、ゼッタイ。…チラッ。
“ブギーマン“と言われても『ハロウィン』(1978-)のマイケル・マイヤーズか『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)のウギー・ブギー、もしくはドギーマンハヤシくらいしか思い浮かばないが、欧米圏では非常にポピュラーなオバケ。定まった形を持たず、ベッドの下やクローゼットの裏から子供達を驚かす。『モンスターズ・インク』(2001)はこの伝承を分かりやすく映像化している。
日本のオバケでこれに該当するものはあまり思いつかないが、強いて言うなら“隙間女“なんかが近いか。いずれにせよ、身近にある暗闇や隙間ほどなんかおっかないというのは全世界共通のものである様だ。
本作は前半と後半でブギーマンの描き方が変わる。
前半ではその姿を見せず、じわじわと染み込む様な恐怖演出が為される。なんかいや〜な空気が蔓延していく感じはJホラー的な味わいがあり、おそらくはそこから影響を受けているものと思われる。陰気な男が自宅で自殺し、そのせいで呪いが伝播するなんていう導入部はいかにもJホラーにありがちだが、効果的である事は間違いない。自殺する男がダストマルチャンというのも良い。一目見ただけで「こいつ絶対なんかやらかすぞ…」というのが伝わってくるもん。
確実に何かが家に忍び込んでいるが、その姿は決して見せない。想像力を掻き立てるブギーマンの描き方は笑っちゃうくらい怖いのです😱
しかし、後半は完全にモンスター映画にシフトチェンジ。ショットガンもったオバさんが出てきた辺りから嫌な予感はしていたのだが、やっぱりそうなってしまった。
不思議なもんで、姿が見えなかった時にはあんなに怖かったブギーマンが、一度その姿を現してしまうともう全然怖くなくなってしまう。「血が出るなら殺せるはずだ」とは『プレデター』(1987)の決め台詞だが、ショットガンとか炎でダメージが入るとわかってしまうと、そこからはもう異星人とのバトルものと大差はないのである。
本作の脚本/原案/製作総指揮を務めるスコット・ベック&ブライアン・ウッズのコンビは『クワイエット・プレイス』(2018)も手がけているが、そちらも最終的にはモンスター映画になってしまった。これはもうこの2人の作風なのだろうが、何でもかんでも怪物退治の物語にしなくても良いと思う。曰く言い難い存在の方が、目に見える怪物よりも怖いもんなんやで。
結局、前半の良さを後半が完全に打ち消してしまい、鑑賞後は「なんだったんだこれ?」という感想しか残らず。
翻って考えてみれば、本作の恐怖は主にジャンプスケアによってもたらされたものだった。もしかしたらこれ、怖がらされたのではなく驚かされただけだったのでは?恐怖とびっくりの違いとは一体何なんでしょうね。
※本作はブギーマンによる恐怖を縦軸に、哀しみに暮れる家族の再生譚を横軸に紡がれている。「Don't Think Twice, It's All Right」というメッセージ性はわかるのだが、考えてみればこの家族が事故で母親を亡くしたのはたった1ヶ月前である。それならもう少しくらい哀しませてあげても良くない…?