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レア・ミシウス監督はフランスの国立映画学校ラ・フェミスの卒業生で、セリーヌ・シアマ監督の後輩にあたるが、このフランス人女性監督2人の新作、シアマ監督の「秘密の森の、その向こう」とミシウス監督作「ファイブ・デビルズ」がともにタイムリープを扱っているのは興味深い。2人は「パリ13区」(2021)で共同脚本を務めたことからも少なからぬ交流があるはずだが、タイムリープに関してインスパイアされるような共通の体験があったのだろうか。さらに言えば、9月に日本公開されたフランス・ベルギー合作「地下室のヘンな穴」にもタイムリープの要素がある。近年の仏映画界にタイムリープのブームが来ているのか。
さて、本作の主演はジョアンヌ役のアデル・エグザルコプロス(2013年のカンヌ・パルムドール受賞作「アデル、ブルーは熱い色」では19歳で少女っぽさを残していたが、あれから10年近く経ちすっかり大人の女性の風情)だが、ジョアンヌの娘ヴィッキーが過去へと繰り返しタイムリープし、ジョアンヌとジュリア(ヴィッキーの父ジミーの妹)という2人の秘密を知る、つまり観客の目の代わりになってストーリーを伝える役割を担うので、ヴィッキーが実質的な主人公と考えられなくもない。
ヴィッキーはもともと鋭い嗅覚を持ち、ジュリアがひそかに携行していた小瓶の液体の香りを使うことで、過去にリープする能力を発現させる。過去にいる時のヴィッキーの姿はほぼ誰からも見えないが、唯一ジュリアにだけは幽霊のような姿に映るらしい。ジュリアも、彼女のベッド下にヴィッキーが隠した調合物の香りをかいだことで、過去にリープする。どうやらジュリアとヴィッキーの家系の女性にだけ受け継がれる特殊能力のようで、ラストシーンもそのことを示唆している。
映画は、ジョアンヌとジュリアという女性同士の関係と、山麓の小さな村の閉鎖的なコミュニティーにおける同性愛差別や人種差別などの要素も絡んで展開するのだが、要素が多い割にはそれらの有機的な連動性が物足りない。ジョアンヌがジュリアと別れた後になぜジュリアの兄ジミーと結婚してヴィッキーを生んだのかもあいまいで、ジミーがなんだか都合よく利用されただけの男のようで不憫だ。意欲作ではあるが、詰め込んだ要素をうまく整理できていないのが惜しい。