野球部に花束を : インタビュー
モテたくて芸能界入り 醍醐虎汰朗が語る俳優としての“現在地”「ようやくスタートラインに立てた」
醍醐虎汰朗、2000年生まれの21歳。10代半ばで一般公募のオーディションにて舞台「弱虫ペダル」の主人公・小野田坂道役に大抜擢され、さらに新海誠監督の「天気の子」でも2000人もの中からオーディションで主人公の少年・森嶋帆高役を勝ちとった。その後も次々と話題作に出演し、舞台版「千と千尋の神隠し」ではハク役を演じ、10月から放送開始の連続テレビ小説「舞いあがれ!」(NHK)への出演も発表されるなど、傍から見れば「順風満帆」としか言えない俳優人生を歩んでいる。
それでも本人はデビューからここまでを「すごく険しい道のりだったなと思います」と振り返る。そして「最近になってようやくスタートラインに立てたのかなって思います」とも。“ネクストブレイク候補”、“Z世代の新星”などといった周囲の声にも浮かれるところがなく、今後の目標についても「いまは、具体的に『これ』というよりも、目の前の作品に100%で取り組みたい」と21歳とは思えないほど冷静に自らを見つめる。
そんな醍醐が、実写映画初主演を果たしているのが、人気漫画を映画化した「野球部に花束を」だ。“時代逆行型”青春エンターテイメントと銘打ち、いまなお理不尽な伝統や謎ルールがまかり通る高校の野球部を舞台に、青春を燃やす高校球児を演じている(取材・文・写真/黒豆直樹) 。
――最初にオファーが届いた際はどんな感想を持ちましたか?
まずは、もちろん嬉しい気持ちでしたが、野球は未経験なうえ、高校球児を取り巻く環境やしきたりなども無知だったので多少の不安もありました。念入りに準備して臨まないと野球部員として説得力が生まれないので、まずは練習からだなという気持ちと初主演ということでのワクワク、それ以上にプレッシャーというか、どこかで背負うものもあったと思います。物語自体はすごく面白かったですね。原作も映画の脚本も笑いながら読みました。懐かしさ、理不尽さが混ざって「久しぶりだなぁ、この感覚」という感じでした。
――醍醐さんご自身は、中学までサッカー部に所属していたそうですね?
そうなんです。「100本ダッシュ」というのがあって、それを思い出しましたね。ひたすら走らされるというペナルティなんですけど、連帯責任でよく走らされました……(苦笑)。
――今回演じられた黒田は入学当初は野球に別れを告げて茶髪で“高校デビュー”を果たしますが、結局、野球を捨てられず、すぐに強制的に坊主にさせられます。坊主頭になっていかがでしたか?
清々しくて気持ちよかったですね。お風呂に入る時間が体感2分くらいになりました(笑)。頭も身体も全部ボディソープで洗って、拭くのも一瞬で、そこは最高でした。昔は坊主頭に抵抗があったんですけど、それは異性にモテたかったからなんですよね……(笑)。いまは、そういう気持ちもなくなって、抵抗は全くなかったです。2日くらい、なかなか自分に慣れなかったんですけど、周りもみんな坊主でしたからね(笑)。
――今回、実写映画初主演でしたが、どんなことを意識して撮影に臨まれたんでしょうか?
今回、メインキャストの中でも最年少だったんですよね。最初は「どうしようか?」と考えてたんですけど、飯塚(健)監督から「最年少なんだから、周りを引っ張っていくなんて考えなくていいよ。そんなこと、誰もしないし、求めてもいないから。自分のできる範囲で、やれることを探せばいいんじゃない?」と言っていただけて、それで気持ちが楽になりました。
――同じ1年生部員の“いつメン”と一緒の時間が最も長かったかと思いますがいかがでしたか?
やっぱり過酷な練習だったこともあって、すぐに仲良くなりました。でも、歳は離れているので(※醍醐21歳に対し、黒羽麻璃央が29歳、市川知宏は30歳、駒木根隆介は41歳!)、高校生ノリでワイワイ! という感じではなく、普通に会話する感じでしたけど(笑)。ただ、歳が離れていてもやりづらさみたいなものは一切なかったです。最初は「このメンバーで高校1年生に見えるのかな?」って思ってたんですけど、やっているうちにもはや見えるかどうかとかどうでもよくなってきて(笑)、慣れちゃって同い年の感覚で接していましたね。
――黒田という役に関しては、どういう部分を大事に演じましたか?
「とにかくカッコつけてイキってやろう!」という気持ちでしたね。でも、黒田はカッコつけでイキってるけれど、中身はすごく純粋なんですよ。映画の最初と最後でどれだけ変わったかという振り幅の大きさを見せられたら面白いなと思って、だからこそ序盤の部分で、周りの目を気にしながらどれだけイキれるか? ということは意識しました。
――ご自身と似ているところや共感できる部分はありましたか?
僕も高校生くらいの頃はイキってた記憶があるので(苦笑)、なんだかんだ自分と似てるなとは思ってました(笑)。
――ちなみに醍醐さんは中学時代・高校時代はどんな学生でしたか?
基本的に自分中心でしたね。「世界は俺を中心に回っている」くらいの感覚で、イキり散らかしてましたね(笑)。女の子に「モテたい」という気持ちと、周りの男たちに「ナメられてたまるか」という気持ちで自分を取り繕っていたのかなと思います。でも部活をやっている時は本気でやっていました。
――そんな中で、芸能界を志すようになったきっかけは?
中学3年生で進路を決める段階で、周りは「高校に行かずに就職する」という人もいれば、「○○になりたいから専門の学校に行く」という人もいて。でも、僕自身は夢がなかったんです。「まだ何をやりたいのか見つからないからとりあえず高校に進学する」という友達もいましたが、そういう進路の選び方は僕には合ってない気がして……。「何か探さなきゃ」と思っていた時に友達から「芸能界は?」と言われて、そこで思ったのは「モテそうだな」って(笑)。ただそれだけ、本当にそれだけで決めました。思春期まっただ中だったので「○○がやりたい!」というより「モテたい」だけでスタートしたんです。
――「うまくいかなかったら」といった恐怖はなかったんですか?
謎にポジティブだったんですよね(笑)。オーディションに応募してる段階から、頭の中ではスーパースターになった気分で進めていましたね。
――そうして見事に舞台「弱虫ペダル」の一般公募で小野田坂道役に合格し、その後も「天気の子」のボイスキャスト、舞台「ハイキュー!!」、同じく舞台版「千と千尋の神隠し」のハク役など、映画、ドラマ、舞台と多彩な活躍をされています。まだデビューから5年ほどですが、ここまでの足跡をご自身ではどう捉えていますか?
自分の中では結構、険しい道のりだったなって思ってます。出演作だけを見たら受かってる感じで見えますが、実際はオーディションを受けても落ちまくっていました。当初はエキストラもやってましたし、オーディションで何をやっても受からない時期もあって……。最近、少しずつですがコンスタントに仕事ができるようになって、ようやくスタートラインに立てたんじゃないかって感じています。もちろん、これまでに出演した作品はどれもかけがえのない大切なものだし、ひとつひとつにたくさんの思い出や学びがありますが、決して第一線で華やかにやってきたという感覚は自分自身に全くないんですよね。ここからが本番というか、これから何をやっていくかが大事なのかなと思いますし、過去にしがみつかずに前を向いてやっていきたいと思います。
――「モテたい」から始めた俳優人生ですが、いま俳優として仕事をする上でのモチベーションややりがいについて教えてください。
最近までそれを言語化するのが難しかったんですけど、ようやく見つかった答えのようなものがあって、僕の同い年の友人たちで、大学に進んだ人たちがちょうど就職活動をしてる年齢なんですね。もう既に働いている友人もいますが、ようやく全員が社会に出るタイミングになっていて、ただ周りを見ていると、自分の好きなこと、やりたいことが仕事につながっている人って決して多くないんですよね。そんな中で、僕はやりたいことを仕事にさせてもらえている。しかも、作品を通して他人に影響を与えたり元気にしたり、誰かの日常を彩ったり、もしかしたら人生を変えることができるかもしれないというのは、役者という仕事ならではの魅力だと感じていて、それを仕事としてやらせてもらえている喜びは、すごく大切にしていきたい感情だなと思っています。
――この先の目標ややってみたいことなどはありますか?
いまは「これ」と具体的に目標を決める時期ではないなと思っています。まだまだ第一線という立ち位置からは程遠い位置ですし、これからの積み重ねが大事だなと感じているので。いまは作品も自分で選んではいないんですが、ひとつひとつマネージャーさんが選んでくれた仕事に100%で取り組んできた結果として、幸運なことにここまで順調にステップアップはできているなと思います。今後、本当に第一線で活躍している方たちと肩を並べられるようになって、目標とか自分は何をやりたいのか? を考えられる立場になったら考えたいです。いまはとにかく目の前の仕事に一生懸命向き合う時期だなと思っています。
――先ほど、同世代が就職活動をしているという話もありましたが、新たな一歩を踏み出すことを躊躇してしまったり、恐怖を感じる人も多いと思います。醍醐さんは新たな挑戦に踏み出す時、どんなことを大切にして、プレッシャーや恐怖とどう向き合っていますか?
僕は挑戦って慣れだと思っていて、やっている時に「挑戦してる!」と感じていることってあんまりないんですよね。後になって振り返ったら「これはすごい挑戦だったな」と思うことはあるんですけど、さっきの話じゃないけど集中して精一杯取り組んでいると、それを挑戦とも認識しないものなのかなと。逆に身構えすぎて、萎縮しちゃうと良いパフォーマンスが出ないタイプなので、あんまり気にせず「俺はできる!」とか「いま、できる範囲で俺なりにやれることをやろう」と思いながら常に100%で臨むようにしています。
「野球部に花束を」は、8月11日から公開。