劇場公開日:2022年9月9日
解説
「淵に立つ」でカンヌ国際映画祭ある視点部門の審査員賞を受賞するなど、国際的に高い評価を得ている深田晃司監督が、木村文乃を主演に迎えて描く人間ドラマ。ミュージシャンの矢野顕子が1991年に発表したアルバム「LOVE LIFE」に収録された同名楽曲をモチーフに、「愛」と「人生」に向き合う夫婦の物語を描いた。
再婚した夫・二郎と愛する息子の敬太と、日々の小さな問題を抱えながらも、かけがえのない時間を過ごしていた妙子。しかし、再婚して1年が経とうとしたある日、夫婦は悲しい出来事に襲われる。そして、悲しみに沈む妙子の前に、失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパクが戻ってくる。再会を機に、ろう者であるパクの身の回りの世話をするようになる妙子。一方の二郎も、以前つきあっていた女性の山崎と会っていた。悲しみの先で妙子は、ある選択をする。
幸せを手にしたはずが、突然の悲しい出来事によって本当の気持ちや人生の選択に揺れる妙子を、木村が体現。夫の二郎役に永山絢斗、元夫のパク役にろう者の俳優で手話表現モデルとしても活躍する砂田アトム。第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。
2022年製作/123分/G/日本
配給:エレファントハウス
オフィシャルサイト スタッフ・キャスト
全てのスタッフ・キャストを見る

- ×

※無料トライアル登録で、映画チケットを1枚発行できる1,500ポイントをプレゼント。
2022年9月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
すごい。驚嘆した。オセロの得意な息子が不慮の事故で死ぬ。プレイしかけのオセロ盤はそのままに団地の部屋に残される。くるくると白黒に反転するオセロが息子の死によって動くことがなくなったと同時に、今度は人間関係がオセロのようにくるくる反転し始める。結婚を認めず主人公につらくあたっていたはずの義父が孫の死で歩み寄り、同性の苦労を知るはずの義母が今度はつらく当たりだす。主人公の元夫がふらりとやってくると、彼を巡って今の夫との関係が反転し始める。夫の方も同僚の元恋人との関係を取り戻そうとするなど、こちらの人間関係にも大きな変化が訪れる。最後に強烈などんでん返しが待ち受ける。
現夫は、手話で会話する主人公と元夫の間に入れない(けれど、カメラは現夫を2人の間に捉えるのが上手い)。2人だけにわかる世界があることを示す。それだけわかりあっている2人と見せて実は何もわかりあっていなかったのだ。
舞台に団地を選んだのが良かった。新たな団地映画の傑作。
2022年9月14日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
深田晃司監督が本作のモチーフにした、矢野顕子の楽曲「LOVE LIFE」。loveを動詞とするなら、「命/人生/暮らしを愛しなさい」という解釈になるだろうか。
映画「LOVE LIFE」は、木村文乃と永山絢斗が演じる妙子・二郎の夫婦を中心に、過去と現在(および、かすかに示唆される近い未来)の人生のままならなさを、少し上から俯瞰するような、見守るでもなくそっと眺めるような映像で描いていく。それは出会いであったり、突然の別れであったり、思いがけない再会であったり。
登場人物らが一様に、物語で描かれがちな“善人”ではない点も興味深い。妙子と、再会した前夫・パクの関係。二郎とかつての交際相手・山崎の関係。子連れで再婚した妙子に対する、二郎の両親の態度や言葉。観客の心をざわつかせる、あるいは逆なでするようなエピソードが頻出するが、人生のままならなさがぎゅっと2時間に凝縮されたようでもある。
建前やきれいごとでなく、そんなままならない自分の人生と、ままならない身近な命(大切な誰か)を、あなたは愛することができますか。流れる矢野顕子の歌とともに、映画がそう問いかけてくるように思えた。
2023年3月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
ネタバレ! クリックして本文を読む
昨年9月のベネチア国際映画祭でノミネートされ、NHKニュースや『ハートネットTV』"#ろうなん"という番組での取り上げられ方は、当事者俳優が演じたことを強調していた。本作を観てみると、その俳優は主役ではなく、途中から出演し、主役たちの生活に波風を起こす役割を果たしていた。主演の二人は、役所の福祉課と別棟の社協のようなホームレス支援事業を担当している部署に勤務していた。エンドクレジットによると、抱樸の協力を受けているという。妻は連れ子と夫にきかれたくない内緒話を手話で行っていた。妻は夫の両親から認められておらず、息子の事故死にも感情的に拒否を受ける面があった。警察でも虐待死を疑われる面があった。妻の元夫が突然現れたが、韓国手話を使うため、コミュニケーションを取れる者が妻しかおらず、現夫も理解を示す。そのうち妻は現夫に内緒で元夫を守らなければならないと思い込むようになってしまい、韓国に帰ると言い出した元夫についていく。現夫は元夫に背を向けたまま、妻が元夫のことを心配して探し回る活動をしてきたかを説明するが、元夫にはきこえていないというコミュニケーション断絶が表現されていた。釜山行きフェリーが発着する町という設定なのだろうか。しかし、韓国に行ってみると、元夫には家族がいて、妻が付き添う必要性はなかった。韓国手話が多様なコミュニケーションの一つとして使われ、登場人物が韓国に行ってしまうという展開は、確かに『ドライブ・マイ・カー』と共通していると思った。事後に監督の深田晃司氏とアナウンサーの笠井信輔氏のトークがあり、出発点は、深田氏が20代のときに矢野顕子氏作の同名の歌を知ったときに構想をもちながら、中途で保留しておき、近年『淵に立つ』を制作したことから本作脚本の展開を考え、主演二人をオファーしてから、二人と違う言語を使う人物としてろう者に行き当たり、障がい者が出演することの必然性や当事者の考え方を取材してつくりあげていったという。笠井氏は、木村氏の気の強さの表れる場面を評価し、本人に取材して、出産後、映画での子を失うショックよりも、生まれてきた子を大事にしたいという、まさに歌詞の表すような心情を書いてくれたことを報告していた。
2023年1月14日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館
目黒の家族特集で鑑賞。
幸せな雰囲気から一転、二転、三転としていく。
夫婦、親子関係を通じて、血のつながり、人は何に惹かれるのか、何を選択するのか、自分の境遇と重ね合わせて考えられる。
たぶんそれぞれの人生のステージで感じることも違ってくる。映画のタイトルの通り。
カメラワークがとてもよかった。
遠目なアングルからの俯瞰、窓の外、のれんのこっち側など、感情移入というより、ある家族を覗き見している感覚になる。
さらに、冒頭のサプライズの画角を出すことで自然とその視点になるのも上手い。
一見ドロドロな関係になるところに、主題歌の矢野顕子の優しい曲が包み込み、なんとも不思議な感覚になる。
聾唖の人に対して背を向けて話すシーン
結婚式のなんとも言えないシーン
など、印象に残る演出も多い。
飽きない展開、カメラワーク、そして観た後、決してスッキリはしないが考えさせられるとてもいい映画だった。
2023年劇場鑑賞10本目