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物語論を研究する大学教授アリシアと、瓶に閉じ込められていた魔人ジンとの語らいを描いたラブ・ファンタジー。
監督/脚本/製作は『マッドマックス』シリーズや『ベイブ』シリーズの、オスカー監督ジョージ・ミラー。
3つの願いを叶える事が出来る魔人、ジンを演じるのは「MCU」や『ズートピア 』の、名優イドリス・エルバ,OBE。
ジンを解き放ってしまった物語論学者、アリシア・ビニーを演じるのは『ナルニア国物語』シリーズや「MCU」の、レジェンド女優ティルダ・スウィントン。
偉大なる監督ジョージ・ミラーが実娘オーガスタ・ゴアを脚本家として起用し、親子二代で現代に「千夜一夜物語」を蘇らせた。…コッポラにしろシャマランにしろ、巨匠も娘には甘いのである。
本作は大傑作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)の次に公開されたジョージ・ミラー作品。当然その流れを受け継ぐ超スペクタクル娯楽大作なんだろうと期待していたのだが、内容としてはそれとは真逆の超こじんまりおしゃべり映画だった。
メインキャラクターは2人だけ。ほぼイスタンブールのとあるホテルの一室だけで展開する密室会話劇という、まるで舞台のような映画である。
ここまでスケールの小さい地味な映画はミラー監督としては異質。期待を裏切られたという気もしないでもないが、アクション/ヒューマンドラマ/ホラー/コメディ/動物/アニメーションと、作品ごとにガラッとジャンルを変えるのが監督の持ち味であるわけで、ガッカリしたというよりもむしろ「おっ!こういう映画も撮れるのか!」と膝を打ちたくなる気分の方が強かった。
「孤独な女学者とロマンチストなジンの恋物語」という建て付けではあるが、これを素直に受け取ると大切なものを見落としてしまう気がする。正直、ラブストーリーとしてはあまりにも不細工。第一の願いまでに時間がかかりすぎだし、そこから第三の願いでジンを自由にするまでは性急すぎる。この2人のロマンスに胸を躍らせた観客は1人も居ないんじゃない?
近年観た映画では一番の難物。一体この作品はどう捉えるのが正解なのか、鑑賞から数日経った今でもわかっていないというのが本音。
ただ一つ言えるのは、どうやらこれは「物語」とは何なのかについて言及している作品なのだということ。
三千年もの永きに渡り、物語を溜め込み続けたジン。彼がアリシアに語る物語は、「愛」「嫉妬」「欲望」「戦争」「悲しみ」「学問」と、まさに人類の歩みを凝縮したかのような内容である。「口承」によって伝えられるその物語を受け取ったアリシアは、最終的にそれを書物に認める。これは口承文学から記載文学への発展を表しているのみならず、人類の遺してきた歴史を受け継ぎ、それに自分の体験や経験を付け加えることで初めて物語は物語たり得るのだということの示唆にもなっている。
また、ジンを物語が擬人化した存在だと捉えるならば、彼を愛するということは物語自体を愛することだと言える。物語はその人を癒し、また他者に対して寛容になる優しさも与えてくれる。しかし、一方的な搾取はだんだんと物語を痩せ衰えさせる。物語の豊かさを維持するためには、自らも新たな物語を生み出すより他はないのだ。
愛とは与えられるものではなく与えるものである、という言葉を実践するかのように、アリシアは物語を描き始めるわけだが、これはミラー監督から新たな物語を紡ぎ出そうとするクリエイターへ、そして何より80代を迎えようとしてなお第一線の映画監督として歩み続ける自分自身へと送るエールであり、死ぬまでオレはストーリーテラーを辞めへんで!という宣言なのではないだろうか。
まるで監督の所信表明演説のような作品で、老境に入った監督の意地と覚悟が表れている。
ただ、独り身の女性には愛する男性が必要だ、という異性愛至上主義的なメッセージの映画に見えてしまうきらいはある。多分にフェミニズム的な要素を含んでいる作品な分、そこがちょっと気になるような気もするがまあ許容範囲内か。
爽やかな映画だし映像も美しい。『アラジン』(1992)みたいな冒険活劇を期待しなければそこそこ満足できるんじゃないでしょうか。期待しすぎは禁物!💦