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第4回大島渚賞記念上映で鑑賞。
岡山県北部の山間に位置する真庭市。
ヴェトナム人労働者たちとともに採石場で働いている韓国人チャンス(カン・ユンス)は、多額の借金返済に追われている。
彼には、共に暮らす女性(和田光沙)がいるが、彼女は幼い娘とともに夫から逃れてきた身。
採石会社から正社員のハナシが来て喜んだチャンスだったが、ある日、山道で落石に遭い、車は転倒、片脚を骨折するという重傷を負い、正社員のハナシは立ち消えとなった・・・
といったところからはじまる物語で、そこへ中年刑事(川瀬陽太)と娘やまぶき(祷キララ。いのり、と読む)の物語がからむ。
やまぶきの母親は不在で、死別なのか別離なのかはわからない。
それもあってか父の刑事は中国人女性と不倫関係にあるが、日陰に咲く山の花・山吹のことが好きという一面もある。
高校生のやまぶきは一本気なところがあり、父親に対して反感を抱いている。
まだ何者でもない彼女は、ある日、交差点で見かけたサイレント・スタンディング(抗議文を掲げて、無言で立つ行為)の一行を見かけて、かれらに加わる。
さて、先に示したチャンスが遭遇した落石事故は、登山途中で山吹をみつけた父の刑事が採取の際に起こした小さな落石がきっかけだった・・・
と、ふたつの家族が絡んで物語がダイナミックに展開するのかと思いきや、この映画ではそのドラマ展開を採用しない。
父の刑事は、自分の行為が落石事故を引き起こしたことを後々知るのだが、そのことは誰にも告げない。
知っているのは、登山に同行した若い刑事だけ。
同行した娘やまぶきにも告げず、やまぶきも気づかない。
この口を閉ざす、黙っている、観て見ぬふりをする、というのが、日本の現在の姿なのだろう。
ぶつかり合っても黙っている。
チャンスもやまぶきも、彼女に思いを寄せる少年も、やまぶきの父も、ぶつかり合っているが沈黙している。
ベルイマン映画では沈黙するのは神だが、本作では沈黙するのは人間だ。
やまぶきが続けるサイレント・スタンディングを父は快く思っていない。
やめろというが、やまぶきは続ける。
ちいさな片田舎の町での抗議の声は遠くに届かないだろうが、もしかしたら届くかもしれない。
黙っているけど、黙っちゃいない。
その原点は、やまぶきの母親にあった。
母はジャーナリストだった。
海外の紛争地域に赴き、その様子を伝えるジャーナリスト。
黙っちゃいないやつらは海外では紛争を引き起こすが、紛争の陰では沈黙せざるを得ないひとびとがいる。
その声を届けたかった・・・
が、母親は戦場で散ってしまった。
第4回大島渚賞の総評で黒沢清が「社会を写すのは難しい」と語っていたが、本作では無骨ながらもその片鱗は写っていたように思いました。
怒りを込めて沈黙する。
黙して怒る。
黙っているからといって、なにもかも受け入れているわけじゃあないんだよ。
やまぶきの眼がそう語っていました。
<追記>
画面の風合いがデジタルと異なるなぁと思っていましたが、16ミリフィルムでの撮影でした。