モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン : 映画評論・批評
2023年11月14日更新
2023年11月17日よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかにてロードショー
チョン・ジョンソの瞳を通して世界を新鮮に見ることができるピュアなおとぎ話
Netflixで配信中の「バレリーナ」が話題沸騰中のチョン・ジョンソが、純粋でありながらエキセントリックでミステリアスな主人公モナ・リザを演じ、ハリウッドデビューを果たした作品。長編映画監督デビュー作「ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女」(2014)で、“次世代のタランティーノ”と注目されたアナ・リリー・アミールポアー監督とタッグを組み、これまで演じてきた役柄とはまた違う、キュートな魅力も発揮し、第78回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品された。
赤い月の夜、隔離された精神病棟から始まり、まるで傑作ホラー「ソウ」(2004)を想起させるが、突如、特殊能力が覚醒するモナ・リザを演じるジョンソの瞳に観客は一気に引き込まれてしまうだろう。そして、そこから最後まで彼女に“操られて”しまっていたことに気づかないかもしれない。12年もの間隔離されていたモナ・リザは、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた有名な肖像画のようには微笑まず、自由と冒険を求めて施設から飛び出し、彼女の逃走劇が始まる。
しかし、彼女がたどり着いたのはジャズの発祥地としても有名なニューオリンズ。社会(世界)から隔離されていた少女が、サイケデリックな音楽が鳴り響く、刺激と快楽の街に放り込まれ、そこでワケありな者たちと出会うことによって、それまでのダークな雰囲気から、不思議な可笑しさを持つポップなおとぎ話へと変化する。赤ちゃんのような可愛いらしさと、自らのパワーを発揮していくモナ・リザの逃走が、スタイリッシュな映像と絶妙なサウンドトラックともに展開していくのだ。
そんなモナ・リザの特殊能力を利用するシングルマザーのポールダンサー、ボニー・ベルを、「あの頃ペニー・レインと」で第73回アカデミー賞助演女優賞にもノミネートされたケイト・ハドソンが演じているのも見どころのひとつ。スター俳優のハドソンにとっても挑戦的な役柄だが、生きることだけに精一杯な女性の人間味を味わい深く演じている。また、エバン・ウィッテン演じるボニーの息子チャーリーとモナ・リザが結んでいく絆にも胸を揺さぶられる。
イ・チャンドン監督「バーニング 劇場版」(2018)への出演で数々の映画賞を受賞し、Netflixで配信の「ザ・コール」や「ペーパー・ハウス・コリア 統一通貨を奪え」などの作品でも高く評価され、ブレイクを果たしたジョンソ。どこかミステリアスでクールな美しさを持つ彼女が、本作で魅せる無邪気さと恐ろしさをあわせもつ表情は確かな演技力を示している。アミールポアー監督は「生まれたばかりの赤ん坊のようなキャラクターであるモナ・リザを、この世界に放すことによって、新鮮な目で世界を見ることができた」と述べており、今の社会に息苦しさを感じ、今とは違う居場所を求めている人は共感してしまうのではないだろうか。
(和田隆)
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