マリグナント 狂暴な悪夢 : 映画評論・批評
2021年11月9日更新
2021年11月12日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
ワン監督の牙は抜け落ちていない。あらゆるジャンルを行き交う“狂暴” ホラー!
「マリグナント 狂暴な悪夢」はジェームズ・ワンの集大成だ。彼のこれまで撮った作品のあらゆるエッセンスが詰まっている。ワン監督は、リー・ワネルと共に「SAW」で名を上げ、続く「デッド・サイレンス」では若干失速するも(個人的には大好きな作品ですが)、「インシディアス」と「死霊館」の2大シリーズを立て続けにヒットさせてホラー映画監督として不動の地位を築いた。一方、アクション映画方面でも結果を残す。ここでの決定打は「ワイルド・スピード スカイミッション」だろう。これは本当に凄かった。ロックボトムに合わせて動くカメラワークなど、斬新で見やすくド迫力な演出が炸裂。彼は大作アクションも撮れることを証明した。そして「アクアマン」で遂にアメコミ実写を撮る実績まで解除。こちらも文句なしの傑作だ。そんなホラーとアクションの両方を極めたワン監督が、再び純ホラーの世界に舞い戻って作り上げたのが本作である。それもR-18指定の超ハードコアホラーだ!!
主人公マディソン(アナベル・ウォーリス)の夢の中に現れる殺人鬼。ソイツは超人的な動きで人を襲い、一瞬で命を奪う。だが彼女が夢の中で見た事件が現実世界でも発生する……。それは霊か、人間か、または全く別の存在か。その正体を巧みに隠しながら畳みかけるようにストーリーが進む。超カッコいいOPで心を掴まれると、後はもう最後までずっと目が離せなくなる。
そして実は本作、控え目な予告からは中々感じ取れないが、とにかく異常なまでにテンションが高い! 序盤は王道ホラーな感じだが、段々と様子がおかしくなる。とにかく謎の存在がアグレッシブなのだ。これまでワン監督が手掛けたホラーでも、悪霊が張り手で人を吹っ飛ばすといったアグレッシブな要素はあったが、本作はその比ではない。パルクールまでしてしまう! ここで彼がワイスピ等で培ったアクションスキルが抜群に活きてくる。豪快だけど見やすいカメラワーク。激しい動きが次々飛び出すが、何が起きているのか手に取るように分かる。スリラーにホラー、そしてアクション。あらゆるジャンルを縦横無尽に行き交い、最後までどこに連れていかれるのか分からない面白さ! サプライズが得意なワン監督ならではの展開に心が躍り、斬新なアイデアに満ちた見せ場に圧倒される。クライマックスはあまりに興奮しすぎて、気付けば握り拳を作っていた……。“狂暴”という文字がここまで似合う作品はない。
ホラーとして文句なしの仕上がりでありながら、更にジャンルを越境する衝撃的な映像と展開まで用意。全てをブチ込んだ闇鍋っぷりが本作の醍醐味だ。前半にも書いた通り、ホラーとアクションの両方を極めたワン監督だからこそ撮れた作品である。ヒットメーカーの仲間入りをした後に、ここまで超攻撃的な作品を出せるのが凄い。ジェームズ・ワンの牙は抜け落ちていない。それどころか、むしろ増えてるんじゃないか。本作を観て、改めて彼に一生付いていこうと思った。