フラッグ・デイ 父を想う日

劇場公開日:

フラッグ・デイ 父を想う日

解説

名優ショーン・ペンが初めて自身の監督作に出演し、実娘ディラン・ペンと父娘役を演じた人間ドラマ。ジャーナリストのジェニファー・ボーゲルが2005年に発表した回顧録を原作に、愛する父が実は犯罪者だったと知った娘の葛藤と家族の絆を、実話を基に描き出す。

1992年、アメリカ最大級の偽札事件の犯人であるジョン・ボーゲルが、裁判を前にして逃亡した。ジョンは巨額の偽札を高度な技術で製造したが、その顛末を聞いた娘ジェニファーが口にしたのは、父への変わらぬ愛情だった……。

父の正体を知り苦悩しながらも弱さや矛盾に満ちた父への愛情を深めていく娘をディランが熱演。共演に「ボーダーライン」のジョシュ・ブローリン、「ウィンターズ・ボーン」のデイル・ディッキー。「フォードvsフェラーリ」のジェズ・バターワース&ジョン=ヘンリー・バターワースが脚本を手がけた。2021年・第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。

2021年製作/108分/PG12/アメリカ
原題:Flag Day
配給:ショウゲート
劇場公開日:2022年12月23日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第74回 カンヌ国際映画祭(2021年)

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コンペティション部門
出品作品 ショーン・ペン
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映画レビュー

3.5幻想の果てに残された過ちの傷跡

2023年1月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 どんなに無様であろうとも、世の中からどんなに罵声を浴びようとも、父を置き換えることは叶わない。娘は父と対峙するために回顧録を書いた。映画の原作「Film-Flam Man: The True Story Of My Father‘s Counterfeit Life」である。

 どうしようもなさを抱え込む。不器用というひと言では語り尽くせない男を描く。監督として決めるのは簡単だが、実際に写し撮るのは容易ではない。映画なら尚更、だからこそ挑む価値がある。

 『こわれ行く女』(1974)のジョン・カサヴェテスには、盟友であり妻であるジーナ・ローランズがいた。『汚れた血』(1986)のレオス・カラックスには、分身的な俳優ドニ・ラヴァンがいた。ショーン・ペンが選んだのは、愛娘ディラン・ペンだった。

 高揚と失意が入り混じり複雑な様相を見せる。ある時は胸を張り娘を担ぎ上げる。ショパンの調べに酔い、希望に満ちた明日を確信する。だが、一度事態が窮すると逃げ出す。かつての勇姿は跡形もなく消え去り、目の前の相手を直視することもできない不様な姿に成り果てる。牧場経営、ジーンズの引き伸ばし器、印刷関係の事業、思いつきを次々と繰り出しす父と、酒に溺れた母と執拗に迫る義父の攻撃を、髪の色を変えて偽りの自分としてやり過ごそうとする娘。

 映画化の構想から15年、既に二度のアカデミー賞に輝いていた父は、この脚本を娘に読ませた後、映画出演を続けながら時が熟すのを待った。まだあどけなかった少女は30歳を過ぎた女性へと歳を重ねた。
 掴みどころのない父に翻弄されながらも、彼のどうしようもなさを引き受けようとし、時には頼ろうとする娘。演じるのはショーンの愛娘ディラン・ペンである。

 父と娘、それぞれの時が交わっていく。その軌跡とは、持て余された自分の居場所を探す旅なのか。

 この世界には楽園などない。あるのは幻想の果てに残された過ちの傷跡だけなのかも知れない。だけど、心に焼きついた父との光景は決して色褪せることなく今も胸の内にある。
 逃げずに生きいてく。父のどうしようもなさを内包した娘は、現在、新作の小説を執筆中だという。

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高橋直樹

4.5ブレることなく人生の落とし穴を見つめ続けるS・ペンの作家性。

2022年12月31日
PCから投稿

ショーン・ペンといえば、世間から見向きもされない人間たちを好んで演じてきた俳優だし、それ以上に監督作を通じて人生の落とし穴に落ちてしまう人間の性を見つめ続けてきた。そこには確実にアメリカン・ニューシネマやテレンス・マリック監督の初期作への憧憬があり、アメリカの負け犬カルチャーの担い手という自覚もあったのではないかと思う。

その最たるものが監督デビュー作『インディアン・ランナー』だったわけだが、その後、監督としては少しずつ手を変え品を変えながら『イントゥ・ザ・ワイルド』のような傑作をものにしてきた。

本作が描いているのは、人生の軸を定められない詐欺師の父親と、父親を愛しながらも傷つけられ続ける娘のドラマ。ショーン・ペン自身が得意のダメな父親役を演じており、主人公である娘役に実娘であるディラン・ペンを起用。さらに息子のホッパー・ジャックまで出演している。近年キャリアが低迷気味だっただけに、家族で固めた布陣にいささかの不安を抱いたりもした。

しかし蓋を開けてみれば、まるで『インディアン・ランナー』に先祖返りしかのような、庶民のままならない人生にスポットを当てた良作。かつては主人公の少女時代を10代だったディランに演じさせたがっていたというから、長年温めていた企画だったのだ。さらに『イントゥ・ザ・ワイルド』のロードムービー感もあって、本当にブレてないことに安心するやら感心するやら。主演俳優としてのディランも繊細だが堂々たる存在感で、親の七光りなど微塵も感じさせない。

前述のニューシネマやマリック作品に影響を受けたセンチメンタルな演出は、気恥ずかしくなる寸前だとも思うが、それでもどのカットも本当に美しく、観たいものを全力で作っている喜びが伝わってくる。また、アメリカ文学の伝統を継承する映画監督として、ショーン・ペンが本来進むべきだった道に帰還したようにも思える。ペンの最高傑作ではないにしても、最近では珍しいタイプの、実にアメリカ映画らしい作品だと思う。

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村山章

3.5偽札犯の娘(=原作者)の心情に寄り過ぎたか

2022年12月26日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

1992年、約2000万ドル相当の偽札事件(米史上4番目の額だとか)を起こした犯人ジョン・ボーゲルの娘、ジェニファー・ボーゲルが書いた回顧録が原作。企画が発表された2012年にはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(「21グラム」でショーン・ペンを起用していた)が監督する予定だったようだが、何らかの事情でイニャリトゥが降板し、ショーン・ペンが出演だけでなく監督も兼ねることになった。

ペンは過去の監督作6作では自身は出演しておらず、本来ならば兼任するより、演技であれ演出であれ専念したいタイプなのだろう。だが今作では自身のみならず娘ディラン・ペン、息子ホッパー・ジャック・ペンも家族の役で出演させ、私的なプロジェクトのような趣も感じさせる。

16ミリフィルムで撮影された映像のノスタルジックな質感が味わい深い。ただなんだろう、いわば社会不適合者で真っ当に働き家族を養うことができなかったが、本人なりの愛情で接してくれた父親に対する原作者の心情に寄り過ぎた気がする。ジョン・ボーゲルという人物にもっと客観的に迫り、偽札事件の経緯や影響などもより社会的な視点で伝えてくれたなら、映画自体もより興味深いものになったのではなかろうか。

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高森 郁哉

3.5大人になり切れない男を演じたらショーン・ペンの右に出る者はいない

2022年12月22日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

 ショーン・ペンが演じる、子どもたちが幼い頃のジョンは、“平凡な日々を見違えるほど驚きの瞬間に変えてくれる”父親で、子どものような心を持って家族を喜ばせようとした。そんな父親との思い出は、子どもたちにとってかけがえのないものとして鮮烈に記憶に残っている。監督ペンは思い出のシーンを8ミリフィルムなどで撮影し、楽しく輝いていた幸せな日々を表現。映画を見ている者のそれぞれの懐かしい記憶を呼び覚ますのではないか。

 しかし、やがてジョンの素顔が、家族から逃げ、事業の失敗を他人のせいにし、言い訳ばかり並べ、無意識に嘘をつくような、どうしようもない男だということが明らかになるのだが、役者ペンはこの良き父親と落ちぶれてしまった男の二面性を見事に演じ分けてみせる。大人に成長し、久しぶりに会った娘ジェニファーの前で良き父親を演じようとする様は切なく、役者ペンの真骨頂と言えるだろう。

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和田隆
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