ショーン・ペンが娘ディランと撮り上げた感動作を語る「フラッグ・デイ 父を想う日」インタビュー

2022年12月24日 11:00

ショーン・ペンと実娘ディラン・ペン
ショーン・ペンと実娘ディラン・ペン

ショーン・ペンが監督、出演し、第74回カンヌ映画祭コンペティション部門に出品された「フラッグ・デイ 父を想う日」が公開された。

ジャーナリストのジェニファー・ボーゲルが2005年に発表した回顧録「Film-Flam Man: The True Story Of My Father‘s Counterfeit Life」が原作で、父ジョンはアメリカ最大級の贋札事件の犯人だったという衝撃の実話を映画化。ペンが自身の監督作に出演したのは今作が初であり、ジョンの娘ジェニファー役は、彼の実娘であるディラン・ペン。ヒーローのように思っていた父の実像を知り、苦しみながらも弱さや矛盾に満ちた父への愛情を深めてゆく娘を熱演した。このほど、ショーン・ペンディラン・ペンのインタビューを映画.comが入手した。

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――おふたりにとって、本作はどのような作品でしょうか?

ディラン:私にとってこの映画は、父と娘の愛の物語ですね。ジョンとジェニファーの間に存在するエネルギーの複雑さは、ほとんどの娘は共感できると思います。それに、ふたりともがリーダー的な存在である場合、ふたりの間には格闘する力があると思いますから。ジョンにとっての目標は、娘が自分を尊敬し、自分の後に続くことであることは明らかです。しかし残念ながら、彼は間違いを犯し、詐欺師という人生を送ります。でも、それでも彼は彼女の父親なのです。それに、彼は自分の経験を子どもたちに伝えたいと思っている人なので、そこは私も共感する部分ではあります。

ショーン:僕にとっては、アメリカを切り取ったものを描く作品という感じかな。多くの人が自分の境遇と重ね合わせるだろうと思っているよ。誰もが、自分の人生の中に存在する馴染みのあるテーマを見出す物語なんだ。特に今の世の中には、僕が極めて心に迫ると思っている真実や偽りという問題がある。それがより大きな意味での文化であろうと、家の中だけにある文化であろうと、強く素晴らしい人々はそういう文化を乗り越えることができるのさ。

ジェニファー・ボーゲルはそんな人物であり、色んな意味で、ディランもそういう人間なんだ。彼女は何を考えているか言わない。だから彼女をより注意深く見るよね。脚本で、そのイメージが本当に自然に浮かんで来たんだ。それも、この作品が描いていることの1つさ。そして、僕らが自分たちの人生の一瞬一瞬をどのように見るかということもね。片や正確に覚えていて、もう一方は全く覚えていないということがあるよね。

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――映画の中で描かれた関係性と、あなたがたおふたりの間の関係性はどのような部分で共通していると思いますか?

ディラン:私は父とは良い関係を築いています。私たちは、何でもはっきりと正直に話すとてもざっくばらんな関係なので、そこはジョンとジェニファーとは全く異なります。私が思うに、ジェニファーはいつも、お父さんとの率直な繋がりを持とうと苦労したのではないかと思います。でも、詐欺師としての気質を考えると、ジョンにとってそれは本当に難しいことだったんでしょうね。それに、10代の頃は、娘と父親との関係は込み入っていて、複雑になり得ると思います。ジョンとジェニファーの結びつきは悲劇的に終わってしまいましたが、父と私はとても成長したので、このようなポジティブで強い絆ができたのです。

ショーン:ディランがさっき言ったように、この映画は娘と父親のと間にある愛の物語であるのは確実なんだけど、かなり物議を醸す意味でだね。この愛の繋がりは異様に強く、リアルであって、同時に完全に崩壊しているんだ。僕とディランの間の繋がりは全くそうではない。愛の絆は確かに共通しているけどね。

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――おふたりがこの映画に参加する決め手、そして、何故ふたりともがこの作品に関わることになったのかについてお聞かせ下さい。

ショーン:最初に脚本を読んで以来、ずっとこの作品を撮りたいと思っていた。ある朝、マーク・ライランスから電話をもらって、ジェズ・バターワースが脚本を書いたから、僕に読んでもらいたいと言ってきたんだ。監督か主演、またはその両方をしたいかどうか聞きたいってね。マークはちょうど、ジェズと共にブロードウェイで「エルサレム」を終えたところで、僕はそれを観ていたし、ジェズの作風は、彼が彼の弟と一緒に書いた「フェア・ゲーム」で一緒に働いたこともあって知ってたんだ。だから脚本を読んだ。そのストーリーは、僕がずっと探していたもののように感じたよ。近頃、映画と物語の語り口がかなり巧妙に作られ出してきているのを見ていて、僕は観客としてそれを避けていたんだ。でもこれは、感動させるためではなく、一つの表現として作られることに余地があると感じた。だから、僕の中ではジェニファーの役はディランしかいないと思ってたんだ。娘は僕が知っている中で最も作為的ではない人物だから、もし彼女が望んで、女優としてそれを演じることができるのであれば、それは僕が作りたかった映画で間違いないね。

ディラン:実は、初めて脚本を読んだ時、私は父のために、ジェニファーの役を演じる他の女優さんを考えようとしていました。私には彼女を演じる覚悟は無かったですから。長年、父は私にその話をずっと持ち掛けてきたのですが、私は相変わらずノーと答えていました。父の側で演技をして、父に演出されると思うとプレッシャーだったのもあります。私が最終的にイエスと言った理由は、この役柄が掘り下げたいと思える役だったということと、心の準備ができたからというものです。もうすぐ30歳という頃に再び、大人になってからは初めてその本を読んだのですが、ジェニファーが辿った全ての旅路を理解したように感じました。何だか、自分自身の日記を読んでいるような感覚でしたね。今とは対照的に、当時どう思っていたのかを思い出しながら読んでいました。

――ジェニファーを演じるにあたって、どんな役作りをしましたか?

ディラン:再度、何度か本を読み、ジェニファー自身についてと、彼女をどう演じようかということを真剣に考え始めました。彼女とは撮影の2週間前に初めて会ったんです。一緒に夕食を食べながら、私が感じていた疑問を全て訊かせてもらいました。聞いてはいけないことなどは何も無かったので、とても自由でしたね。それに彼女は、私が思うようにして欲しいと明言してくれたんです。それは私にとってはとても重要なことでした。彼女は、自分の真似をしたり、その人柄をコピーする人物を探していたのではなく、この物語を語って欲しかっただけなんです。彼女は、それはちゃんと伝えられていると脚本を通して感じていましたから。そういうプレッシャーが無くなったのでとても良かったです。そのおかげで、自分の経験を演技に取り込むことができると感じましたしね。

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――ふたりで一緒に演技をするというのはどのような感じでしたか? 長男ホッパーさんとの共演についても教えてください。

ディラン:ふたりと一緒に働くことは、本当にカタルシスを感じました。私とホッパーは驚くほど仲が良いのですが、性格は全然違います。それは、このキャラクターたちを象徴しているかのように思います。ホッパーは家族の中では面白い役回りで、真のエンターテイナーなんです。みんな彼に引き寄せられますね。私はというと、もう少しだけストイックな感じかな。彼が私の面白い面を引き出してくれるんです。私たちはお互い、陰と陽のような感じで補い合っていると思っています。

父と共に働くのは、役者としても、私を演出してくれる監督としても、素晴らしい経験でしたね。表現するのが物凄く感情に訴えるような繋がりだったので、初めは心配ではありました。彼を父としては知ってはいますが、上司として考えるとまた別の話ですから。父は役者だからだと思いますが、役者をどう演出したらいいのか、私たちとどう話せばいいのかを知っています。この映画に参加することを決める前は、父に演出され、父と共演したこともある母に相談したのですが、母は、それまでで最高の経験だったと言っていました。そして、母が言っていたことは正しかったです。監督としての父にとても支えられていると感じましたからね。

この作品で好きなシーンは、10代後半のジェニファーがジョンと会うという中華料理店でのものです。そのシーンは、親であるジョンが初めて、自分たちの子どもが自分で決断をできる大人になったと本質的に捉える場面です。それが、父と初めて一緒に演じたシーンで、かなり込み上げるものがありました。私たちが席についた時、とても自然だと感じ、前にも実生活の私と父として話したことがあったかのような会話でした。親と対等になろうとしている時に、親に正直に接し、親にも正直になって欲しいと思うあの瞬間は、親子の繋がりにおいて極めて重要なのです。

ショーン:あれは本当に見事に書かれたシーンだね。ジェズらしさが前面に出ている場面だよ。シーン内での移行やレベル、感情の起伏、そしてユーモアがね。僕らはあの日を基準に演じるようになったんだ。あのシーンではディランの演技にはほとんど演出が要らなかったからね。

別の物語では、姉と弟の間の繋がりを深く掘り下げることがとても面白かったりするけど、この場合は、僕らは父と娘の関係に重きを置いたから、ホッパーが喜んで参加してくれて、僕らに宝石のような瞬間をもたらしてくれたことが、ただただ嬉しいよ。

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――ショーンさんにとって監督と役者の両方を担った初めての作品ですが、大変でしたか?

ショーン:娘と共に働けるという素晴らしい経験ができるなんて、とても興奮したよ。彼女が演技するのを一番良い席で観られたし、そのための準備は十分してきたと思ってたからね。特別な経験だったよ。あと、僕はいつも立体的な考え方があまり得意じゃない。でも幸運なことに、この場合はダニー・モダーが撮影監督としてついてくれていて、僕がいつも彼に向かって「どう思う?撮れてるかな?」と聞いてた時は、彼は本当に僕の戦友になってたね。なので、そういう意味では、僕にはほとんど共同監督がいたようなもんさ。

――今のアメリカを見ながら、このような愛国心に溢れる映像や花火、旗を見るのはどのような気持ちだったのかをお聞かせ下さい。

ディラン:考えてみると、ジョン・ボーゲルは、ある意味アメリカンドリームの闇の部分のせいで、詐欺師として人生に幕を下ろしました。アメリカンドリームの大部分は、お金と成功、そしてそれらに関する幻想を中心に展開されますからね。これは、お金を追い求めること、自分でない誰かになることが、近しい人たちとの関係性に与える影響を描いた物語です。私は彼が、国からの遥かに多くの事を期待して、自分にふさわしいと思っているものをちゃんと得られていないと思っていたがために、あのような人物になってしまったのだと思っています。

ショーン:これは難しい質問だね。というのも、黒と白のプリズムのようなものを通して見る愛国心は、存在すべき何かを宣言することなんだけど、多くの場合はそうではない。思うに、国を愛することと、国への愛国心を抱くことは、二つの異なるものになり得るんだ。僕は、アメリカが宣伝することや、国が僕に求めるもの、国が信じるもの、国が過去に公言していたものという、僕が命を懸けてもいいと思っていることに対して完全に愛国心があると言える。でもその国は存在しない。少なくとも今はね。宣伝されている広い意味でのアメリカ人の性質とされる良識という観点において言うと、それを完全に無視したカルト的な信仰のレベルをみると心が痛むよ。僕は、この映画は傷ついた心を映したものだと思ってる。この映画は、この国のドリームにおいて、徐々に増していく心の痛みを表現しているんだ。

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――観客を映画館へと誘うことは、なぜ重要なのでしょうか? また、観客たちにこの映画から何を受け取って欲しいですか?

ショーン:とても簡単なことで、前にも言ったことがあるんだけど、僕が恋に落ちた女の子みたいなもんさ。知らない人たちと暗い映画館に入って映画を見る。それが映画なんだ。この映画を劇場で公開できて、それも、しばらくの間は映画館だけでしか見られない状況にあるだなんて、僕はどれだけラッキーなんだと自分でも思うよ。でも、長年そのチャンスに恵まれていることに対しても、本当にツイてると思ってるんだ。ずっとこのままいくとも分からないしね。今後どうなるのかなんて僕には分からないし、映画館にこのまま思慮深い映画の需要があると手放しで楽観することもできない。だから、僕らは今の内に思い切りこの経験を楽しまなきゃいけないのさ。

ディラン:ジェニファーはとても多くの嘘で作られた人生を送っていたので、彼女は、真実を明らかにしなければならないと強く望んでいました。だからこそ、彼女はジャーナリズムの道に進むことを望んだので、それが、私が彼女に夢中になった理由です。彼女は真実を追求する人なのです。だから、私は彼女のそういったところを尊敬しています。それに、彼女の物語は、今の世の中には重要だと思っています。

ショーン:一般的な映画で考えると、それが痛々しい作品であれ、勝利を描く物語であっても、映画が持てる唯一の価値は、観客のみんなが映画館を出た時に、それがどんな場所であろうとも、いつもより寂しさを感じないということだと思ってるよ。

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