劇場公開日 2022年12月23日

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「ブレることなく人生の落とし穴を見つめ続けるS・ペンの作家性。」フラッグ・デイ 父を想う日 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ブレることなく人生の落とし穴を見つめ続けるS・ペンの作家性。

2022年12月31日
PCから投稿

ショーン・ペンといえば、世間から見向きもされない人間たちを好んで演じてきた俳優だし、それ以上に監督作を通じて人生の落とし穴に落ちてしまう人間の性を見つめ続けてきた。そこには確実にアメリカン・ニューシネマやテレンス・マリック監督の初期作への憧憬があり、アメリカの負け犬カルチャーの担い手という自覚もあったのではないかと思う。

その最たるものが監督デビュー作『インディアン・ランナー』だったわけだが、その後、監督としては少しずつ手を変え品を変えながら『イントゥ・ザ・ワイルド』のような傑作をものにしてきた。

本作が描いているのは、人生の軸を定められない詐欺師の父親と、父親を愛しながらも傷つけられ続ける娘のドラマ。ショーン・ペン自身が得意のダメな父親役を演じており、主人公である娘役に実娘であるディラン・ペンを起用。さらに息子のホッパー・ジャックまで出演している。近年キャリアが低迷気味だっただけに、家族で固めた布陣にいささかの不安を抱いたりもした。

しかし蓋を開けてみれば、まるで『インディアン・ランナー』に先祖返りしかのような、庶民のままならない人生にスポットを当てた良作。かつては主人公の少女時代を10代だったディランに演じさせたがっていたというから、長年温めていた企画だったのだ。さらに『イントゥ・ザ・ワイルド』のロードムービー感もあって、本当にブレてないことに安心するやら感心するやら。主演俳優としてのディランも繊細だが堂々たる存在感で、親の七光りなど微塵も感じさせない。

前述のニューシネマやマリック作品に影響を受けたセンチメンタルな演出は、気恥ずかしくなる寸前だとも思うが、それでもどのカットも本当に美しく、観たいものを全力で作っている喜びが伝わってくる。また、アメリカ文学の伝統を継承する映画監督として、ショーン・ペンが本来進むべきだった道に帰還したようにも思える。ペンの最高傑作ではないにしても、最近では珍しいタイプの、実にアメリカ映画らしい作品だと思う。

村山章