CUBE 一度入ったら、最後 : インタビュー
菅田将暉&杏、“親子”の縁が繋いだ確かな信頼関係
ビンチェンゾ・ナタリ監督が1997年に発表したカナダ映画「CUBE」は、謎の立方体で構成されてトラップが張り巡らされた謎の迷宮に閉じ込められた男女6人の脱出劇を描いたシチュエーションスリラーで、低予算ながら世界的なヒットを記録した。そんなカルト的人気を誇る「CUBE」が、ナタリ監督初の公認リメイク作品として日本で新たに製作されると聞き、耳を疑った人は少なくないだろう。オリジナル作品を鑑賞したことのあった菅田将暉と杏も、オファーを受けた当初は同様の反応を示したと朗らかな口調で話し始めた。(取材・文/大塚史貴、写真/根田拓也)
菅田「最初は、海外のチームが日本版の『CUBE』を、日本の文化に合わせた密室劇として撮るという話だったんですよ。そこで改めて観直したんですが、やっぱりすごく良く出来ていて、僕らに出来ることってあるのかなとも正直思いました。でもその後、コロナの影響で向こうのチームが来られなくなったわけですが、テーマ自体はあまり変わっていない。オリジナルだと警察官がいたり殺し屋がいたり、職種が結構違いますよね。日本で殺し屋っていうと、現実味を出すのは難しい。変に職業がついていない状態でやる方が面白いんじゃないかなと思ったのを覚えています。それにコロナ禍でしたから、実生活とリンクした撮影でしたね」
杏「大枠は一緒なんだけど、細かい部分は全然違うんですよね。私が演じた役も、原作とは全く異なりますから。ある意味で、別もののような感じで、あまりオリジナルを意識することなく作品に取り組めたかなとは思います」
日本版のタイトルは、「CUBE 一度入ったら、最後」。全方向に扉が付いた謎の立方体の部屋で目覚めた男女は、菅田、岡田将生、斎藤工、杏、田代輝、吉田鋼太郎。密室劇の概念とは趣が異なることもあり、コロナ禍での撮影も相まってストレスを感じることはなかったのだろうか。得てしてこういう作品の場合、現場は逆に明るかったりするものだが……。
杏「自分が移動しているので、どこに何人いるのか……。バラバラに撮っていたりするので、分からないんですよね。模型が現場に置いてあって、今はここで、そこにトラップがあって……って書いてあるんですけど、結局分からない(笑)」
菅田「模型を見ても頭に入って来ないですよね。景色が変わらないのも単純にきつかったし、リハーサルが大変だったなあ。皆でいま何をしていて、どこにいて、次に撮るカットは自分が出て来た側の壁なのかとか……」
杏「カメラ位置が変わるだけで、上下左右が変わらないから撮れちゃうんですよね。カメラマンの方が一番苦労したんじゃないかな」
菅田「景色が変わらないよって言っていましたよね」
杏「撮影としてはCUBEが3面あって、ほとんど1面が空いている状態。ついつい『この手前が…』って言いたくなるんですが、『いや、手前って概念がこれにはないよな』って。手前がどうとかっていう言葉は、本来出てこないよねってっていう話をたくさんしましたね」
ふたりを目の当たりにすると、否が応でも2013年のNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」を思い出してしまう。2013年9月30日~14年3月29日に放送された同ドラマで、杏が主人公のめ以子、菅田はめ以子の長男・泰介の青年期を演じ、共演を果たしている。泰介が学徒出陣で出征する前夜、め以子に「やりたいこと、いっぱいあるんや。もう一度野球もしたいし、お酒も飲んでみたい。僕は、僕にそれを許さなかったこの時代を、絶対に許せへん」と感情を発露するシーンが印象深い。ここからは、筆者が「ごちそうさん」の話題を振ってからのふたりのクロストークをしばらくお楽しみいただきたい。
――「ごちそうさん」の放送は、もう8年前になるんですよね。所属事務所が同じとはいえ、おふたりとも多忙を極めているので、その間はあまりコミュニケーションを取ることはなかったのですか?
菅田&杏「8年前!? 怖い怖い怖い!」
杏「10代だった?」
菅田「20歳くらいだったはずです。いやあ、怖いですねえ」
杏「会うのは、忘年会とかかもね」
菅田「そうですね。大きな事務所ではないので、事務所でばったり会ったり、年2回はみんなで集まることがあるのでそこで会ったり」
――去年の7月、おふたりが現場で再会した写真が事務所(トップコート)の公式インスタグラムでアップされていましたよね。あれは「CUBE」の撮影時だったのですか?
杏「あれは違いますね。お互い、CMの撮影でばったり会ったんです」
菅田「時期的には『CUBE』の撮影直前のタイミングでしたね」
――親子として濃密な時間を過ごした後、今回が久々の共演となったわけですが、その間、お互いの活躍をどうご覧になっていましたか?
杏「親子役や夫婦役を一度やると、得も言われぬ親近感が湧くんですよね。『ああ、頑張っているなあ』って。陰ながら応援する気持ちになるんです。あとは母親役だったので、『忙しくしていてちゃんと寝ているかな?』という気持ちにもなりますね」
菅田「そうそう、食べてる? 寝てる? って心配してくださっていますよね。『ごちそうさん』以来、共演がなかったので、いち役者として『そういえば出会う機会がないなあ』と思っていたところに今回のお話だったので、すごく嬉しかったですよ。役も上下があるわけでもなく、対等な立場で始められる役どころだったので面白かった。あとやっぱり、今回は杏さんの目! お芝居としても重要な部分ですが、どんなに暗くても、どこにいても、杏さんの目だけははっきりと確認できました」
杏「今回は確かに目を意識していた部分はあるかもしれないなあ」
菅田「あの迫力は、他の人には出来ない感じはありましたね」
また、今作には菅田演じる後藤裕一の弟・後藤博人役で、ふたりの所属事務所の後輩・山時聡真が出演している。これまでにNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」やNHK連続テレビ小説「エール」、映画「約束のネバーランド」などで確かな存在感を放ってきた新鋭だ。今作でも出演シーンが決して多いわけではないが、愁いを帯びた横顔、兄をじっと見据える眼差しを通して、観る者に強いインパクトを残している。
菅田「さんちゃん、良かったですよね! 事務所に入りたての頃、本当に小さかったんですよ。上から目線になっちゃうけれど、余計な芝居をしないし、ちゃんと佇まいと心で現場にいた。事務所の後輩たち、めっちゃ焚きつけましたよ(笑)。『いやあ、さんちゃん良かったなあ!』って。16歳といえば、僕がこの仕事を始めた時ですけど、お芝居するうえであんなにじっと出来なかったですよ。もっとアピールしなきゃっていうのがあったから。本当に素晴らしかった」
杏「ヒリヒリする感じが伝わってくる表情でしたね。ちゃんと寝てね! ってことですかね。あと、本は読んだ方がいいですね。台本をもらった時のイマジネーションって、普段から本を読んでいると、文字から考えを巡らしやすくなる気がするから」
菅田「(読書家として知られる)杏さんが言う『本を読んだ方がいい』って、非常に説得力がありますね。僕もあんまり読んでいない側の人間なので……」
菅田は22年、良き先輩と敬う小栗旬が主演するNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に源義経役で出演するほか、フジテレビの「ミステリと言う勿れ」で初めて月9ドラマに主演する。杏も、放送が始まったばかりのTBS系の日曜劇場「日本沈没-希望のひと-」に正義感の強い週刊誌記者・椎名実梨役で、主人公・天海啓示に扮する小栗と対峙している。意欲作が今後も続くふたりにとって、心の拠りどころはどこにあるのだろうか。
菅田「去年は『キャラクター』『CUBE』と近い距離で撮影していたんです。コロナの状況もあったので、この時期はとにかく撮ることを 続けなきゃ! と思っていましたね。『危ないからやめよう』と言うことも出来たわけです。それも、命を守るために大事なこと。スタッフさんたちは電車通勤ですから、いつ誰に何があってもおかしくないじゃないですか。それでも、今も撮り続けなければ、作り続けなければ……という感覚しかないんですよね」
杏「現場が止まった時も、トップコートのみんなで絵本動画を作ったりしたけれど、作りたいという気持ちが抑えられなかった」
菅田「その確認にはなりましたよね」
杏「撮影が中止や延期になることもあったのですが、その時の自分の落ち込み方が今まで感じたことのないものだったんです。これまで走り続けてきて、こんなにストップすることってなかったから。『ああ、こんなに好きだったんだ』という気持ちになりました」
菅田「そういう気持ちになれて、良かったですよね」
杏「10年後、15年後、『あの時こういう状況だったんだよね』と振り返ることもありそう。そういう意味でも、忘れがたい作品になりましたね」
一方が思いの丈を話し始めると絶妙な間合いで相槌を入れるなど、あうんの呼吸で会話をリズミカルに進めていくふたりの波長に合わせているうちに、瞬く間に取材時間が終わりを告げようとしていた。親子役として初共演を果たしたふたりが今作を経て、3度目のタッグがいつになるのかと思いを馳せるのは気が早すぎるが、確かな信頼関係を構築する菅田と杏の芝居に対する真摯な思いは観る者の琴線に訴えかけるだけの説得力を持ち合わせているのは間違いない。