KCIA 南山の部長たち

劇場公開日:

KCIA 南山の部長たち

解説

1979年に韓国の朴正煕大統領が中央情報部部長キム・ジェギュに暗殺された実話を基に映画化した実録サスペンス。金忠植(キム・チュンシク)によるノンフィクション「実録KCIA『南山と呼ばれた男たち』」を原作に、「インサイダーズ 内部者たち」のウ・ミンホ監督がメガホンをとった。1979年10月26日、大統領直属の諜報機関である中央情報部(通称KCIA)部長キム・ギュピョンが大統領を射殺した。事件発生の40日前、KCIA元部長パク・ヨンガクは亡命先であるアメリカの下院議会聴聞会で、韓国大統領の腐敗を告発した。激怒した大統領に事態の収拾を命じられたキム部長はアメリカへ渡り、かつての友人でもあるヨンガクに接触を図るが……。愛国心と野心との間で揺れ動くキム部長をイ・ビョンホンが熱演。共演に「目撃者」のイ・ソンミン、「哭声 コクソン」のクァク・ドウォン。

2019年製作/114分/PG12/韓国
原題または英題:The Man Standing Next
配給:クロックワークス
劇場公開日:2021年1月22日

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映画レビュー

3.5イ・ビョンホンの名演を堪能し、感慨に耽る

2021年6月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

韓国の実話を基にした映画の腹の括り方(覚悟)には毎回感服させられる。1979年10月26日に韓国の朴正煕大統領が、右腕とも言える中央情報部(通称KCIA)部長キム・ギュピョンに暗殺された。大統領はなぜ暗殺されたのか。映画はこの事件発生の40日前から真相にスリリングに、サスペンスフルに迫っていく。

原作はキム・チュンシクによるノンフィクション「実録KCIA『南山と呼ばれた男たち』」。メガホンは「インサイダーズ 内部者たち」で、財閥と政治家の癒着による巨大権力の腐敗を描き高い評価を得たウ・ミンホ監督がとった。「KCIA 南山の部長たち」の全編を貫く重厚なトーン、カメラワークや光と影にこだわった照明、そして79年当時を再現した美術など、そのクオリティは極めて高く、フランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザー」(1972年)のような質感と展開に圧倒される。

しかし、何と言ってもこの作品の見どころはキム・ギュピョン部長を演じたイ・ビョンホンの名演に尽きるだろう。「インサイダーズ」でも組んだミンホ監督と息もぴったりで、キム部長の揺れ動く心情を、無表情のようでいて、瞳の奥や表情のちょっとした動き、またその背中で力強く、そして繊細に表現し、説得力を与えている。

パク・チャヌク監督の傑作「JSA」(2000年)で、共同警備区域の若き兵士を鮮烈に演じていたイ・ビョンホンが、20年の時を経て、大統領暗殺者の役を演じているのがとても感慨深い。本国で大ヒットし、ビョンホンが百想芸術大賞主演男優賞を受賞したのも納得である。彼の成熟した名演を堪能でき、韓国史を知る上でも必見の作品だ。

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和田隆

4.0権力はなぜ人を腐敗させるのか

2021年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

権力を握ると人が変わるのは歴史の必然なのか。韓国の中央情報部局長が現職の朴正煕大統領を暗殺した事件をもとにしたこの作品、かつて同士としてクーデターを起こした大統領と主人公の中央情報部部長は、やがて学生運動の弾圧の是非を巡って争う関係になる。自らの保身ばかり考える取り巻きと同様に、大統領にはかつて国を変えると志して、腐敗と旧悪の一掃を唱えてクーデターを起こした。しかし、長く権力の座に居座り、自らが腐敗と旧悪となってしまう。少なくとも主人公にはそう思えた。国を想う気持ちを忘れた独裁者は国家にとって裏切り者、だから主人公は職責として大統領を暗殺した。歴史は繰り返すというが、高い志を掲げて権力の座についたものもいつか腐敗する、歴史はその繰り返しで様々な人間が実権を握ってきた。
映画は、主人公のキムが国家の行く末を憂う人物として描く。彼の行ったことは暗殺であり、非合法な手段である。しかし、この映画は暗殺の是非は問わない。むしろ、この暗殺行為は歴史の歯車だったのだという感慨すら湧く。

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杉本穂高

4.0非常に見応えのある現代史の実録モノ

2021年1月24日
PCから投稿

見応えのある実録モノであり、各々の人物の感情のうねりがダイナミックに伝わってくる。単に歴史的事実を並べるのではなく、そこに個々の思惑がどう絡み、いかにして79年のあの日、あの時、主人公が引き返すことのできない橋を渡ることになったのかを、時に針のような鋭さで描く。つまり、感情はダイナミックで、演出はタイト。このメリハリが本作では巧みに機能していて、韓国、アメリカ、フランスという広大な場所移動を抱えながら決してバラバラな印象はなく、さらには一つ間違えると複雑さに溺れかねない相関図をあえて最小限にしたのも効果的。本編が2時間弱に収まっている点も含めて、作り手のアングル設定が非常にクレバーなのだ。そしてやはりイ・ビョンホン。メガネ奥の目の動きで、彼の動揺や思惑、意志、覚悟のほどが推し量れる。さらにはベテラン役者陣との絡み合いによって場面ごとに微妙に温度感の異なる化学変化が醸成されていく様は見事だ。

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牛津厚信

4.0暗殺決行の瞬間に向けてキリキリと弓が引かれるような緊張感

2021年1月22日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

興奮

たまたま大河ドラマ「麒麟が来る」が大詰めを迎えているが、韓国で権勢をふるった朴正煕大統領を側近のKCIA部長が暗殺した事件は、まるで織田信長を明智光秀が討った本能寺の変のようだ。動機は諸説あるが、首謀者に「世のため民のため」という“義”があったとする説に立つ点でも「麒麟が来る」と共通する。

ウ・ミンホ監督は2作前の「インサイダーズ 内部者たち」でイ・ビョンホン(破天荒なヤクザを熱演)と組み、韓国のR指定作品として歴代最高の動員数を記録した。同監督の「スパイな奴ら」も配信で観たが、いずれもケレン味あふれる演出という印象。だが今作は実際の暗殺事件に基づくこともあってか、ソリッドでストイックな演出に徹している。イ・ビョンホンも打って変わって七三に固めた髪に眼鏡でイケメンオーラを封印し、大統領からの理不尽な命令に追い詰められていくKCIAのキム部長を的確に演じた。いくつもの出来事と状況が積み重なり、大統領暗殺という究極の一手に至るまで、場面場面の丁寧な心理描写でじわじわと緊張が高まるさまは、弓がゆっくりとキリキリと引かれていくかのよう。放たれた矢と同様、決行はほんの一瞬だが、そこに至るサスペンスの盛り上がりこそが本作の肝だ。

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高森 郁哉