英語でcaptainと言えば、乗り物の乗組員たちを指揮する人、あるいは部隊を率いる士官。映画でキャプテンが主人公になるとき、当然そこには理想のリーダー像が込められる。トム・ハンクスはこれまで、「アポロ13」で宇宙船の船長、「プライベート・ライアン」で中隊の指揮官、「キャプテン・フィリップス」で貨物船の船長、「ハドソン川の奇跡」で旅客機の機長と4度にわたりキャプテンを演じてきた。小説の実写映画化である本作でハンクスは脚本も手がけ、これまで演じてきた理想のリーダー像とはまた一味違うキャプテンを作り上げた。
今回のハンクスの役どころは、第2次世界大戦時の米駆逐艦グレイハウンドを率いる艦長。英国に向け大西洋を渡る輸送船団を護衛する任務中に、数隻の独潜水艦と死闘を繰り広げる。戦闘は2度の山場があり、レーダーとソナー(音響探査)を使った敵潜水艦の位置把握と進路予測、敵から放たれた魚雷を回避する操艦、そして爆雷等による反撃など、洋上艦による潜水艦との戦い、いわゆる「対潜戦」の現場を、テクニカルな要素を含めリアリズムに徹して描いていく。
1時間半の尺に収めるためもあるだろう、共感や感情移入を呼びやすい乗組員らとの心の交流などの描写はほぼ排されている(しいて挙げれば、戦死した仲間を水葬にする場面などには情緒的な要素が少し加わるが)。もともとコメディアン出身で、脚本も兼ねた監督作としては青春音楽映画「すべてをあなたに」と、失職した中年が大学で学ぶことになる「幸せの教室」の2本があり、わかりやすいハートウォーミングな要素が好みかと思っていたが、この「グレイハウンド」でのストイックさ、ハードボイルドさは意外だった。ハンクスの表現者としての奥深さと多面性を思い知らされた気がする。
余談だが、最近Apple TV+の3カ月無料オファーがあり、それならということで試用を始めて、最初に観たのが本作だった。4Kの映像は迫力があり、海戦の描写はCGを多用しているはずだが作りものっぽさも抑えられ、(無料ということも相まって)お得感のある掘り出し物だった。