ヤクザと家族 The Family

劇場公開日:

ヤクザと家族 The Family

解説

「新聞記者」が日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた藤井道人監督が、時代の中で排除されていくヤクザたちの姿を3つの時代の価値観で描いていくオリジナル作品。これが初共演となる綾野剛と舘ひろしが、父子の契りを結んだヤクザ役を演じた。1999 年、父親を覚せい剤で失った山本賢治は、柴咲組組長・柴崎博の危機を救う。その日暮らしの生活を送り、自暴自棄になっていた山本に柴崎は手を差し伸べ、2人は父子の契りを結ぶ。2005 年、短気ながら一本気な性格の山本は、ヤクザの世界で男を上げ、さまざまな出会いと別れの中で、自分の「家族」「ファミリー」を守るためにある決断をする。2019年、14年の出所を終えた山本が直面したのは、暴対法の影響でかつての隆盛の影もなくなった柴咲組の姿だった。

2021年製作/136分/PG12/日本
配給:スターサンズ、 KADOKAWA
劇場公開日:2021年1月29日

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(C)2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

映画レビュー

4.5煙突の孤立、海の閉塞感

2021年2月6日
iPhoneアプリから投稿

 疾走する冒頭から、「あと2時間したらこの映画が終わってしまう!」という名残惜しさが早くも込み上げる。一瞬も見逃すまいと、ひたすらのめり込んだ。人物の視点そのままにぐらりと揺らいだかと思えば、ふっと鳥のように舞い上がり俯瞰する視点。これまでの藤井監督作品と同様に、ダイナミックで魅せられる。しかも、エンドロールまで熱量が衰えない。主題歌が、しっかりと本編を受け止め、包み込んでいた。
 登場人物すべて、顔つき佇まいが只者ではない。そこに居るだけで説得力があり、物語が動き出す。主人公・山本を熱演した綾野剛で言えば、後半の眉間のシワがすさまじい。やり過ぎではと思いながらも、それは必然と頷かされてしまう。地味ながら深い印象を残すのは、中村演じる北村有起哉。弟分への嫉妬と自分の限界の自覚に揺れながら、枯れゆく組の中に身を置き続ける。突っ走る山本は確かに鮮烈だが、世の大半の人間は、中村のように冴えない存在に留まらざるを得ない。ちょっとした表情や仕草からにじみ出る、小ずるさや愚直さが、我が身に返ってくるようだった。細い身体が、前半は慇懃さや自尊心を醸し出すものの、後半は凄まじいまでに満身創痍を体現している。そしてもう一人、成長した翼を演じた磯村勇斗も出色。ふっと姿を現すだけで、義理人情に微塵も流れない不敵さが、スクリーンいっぱいにピリピリとみなぎっていた。
 個性的な人々と引けを取らない存在感を発揮していたのは、煙をもくもくと上げる煙突と、町の片面に広がる海だ。(舞台となる町の名前にも「煙」が含まれている。)煙は勢いよく吹き上がるが、空を切り裂くのはほんの一瞬。いつかは大気に紛れ、跡形もなく消えてしまう。煙を吐かない煙突は、ぽつりと立つ無用の長物。孤立し、不必要に目立つばかりだ。それは、主人公たちの姿にも重なるようだった。そして、くすんだ海。無限に広がり、開放感を呼び覚ますはずが、彼らが翳り始めると、見えない壁に姿を変える。どこにでも行けるようで、どこにも行けない。じわじわと追い詰められ、阻まれた末に、海面を直線で切り取るかのような防波堤に立ち尽くす山本。彼らは、夜の海に身を潜めることはできても、遂には深く沈み込み、泳ぎ出すことはできないのだ。
 軌道修正が効かない、はみ出したら戻る場所は用意されていない世界。近しい人との繋がりさえ、容赦なく断ち切られてしまう。それは遠い別世界ではなく、自分がいるこの世の中そのものだ。「だから、間違ってはいけない」は論外だが、「どこをどうして間違ったのか」を探ることも、この映画は求めていないだろう。本作にのめり込んだ目で、今自分がいる場所の周りを見回すこと。まず、そこから始めようと思う。一見縁遠いものと身近なものを並べ、両者を英題でくくったタイトルの秀逸さを、観終えてから改めて噛みしめている。

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cma

4.0まともに生きようと思っても社会がそれを許さない

2021年2月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

東海テレビ制作のドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』を思い出させる作品だった。『ヤクザと憲法』は暴対法や暴力団排除条例の施行によって、銀行口座も作れない、携帯の契約もできなくなったヤクザがしのぎをどんどん失い、生きる権利を奪われていく過程を密着取材で捉えた作品だ。この作品は、その劇映画版と言ってもいいかもしれない。
一人の若いチンピラがヤクザとなり、刑務所に入り、出所してからの生活を3つの年代に渡って描くが、本作はまだヤクザ組織が元気だった頃から始まるので、法律の施行による凋落ぶりがとても強烈な印象を与える。主人公が刑務所から戻ってきたら、世の中が一変している。まともに生きようと思っても、生活がままならない。非合法なことでもしない限り生きていくこともできないような世の中になっている。ヤクザをなくすための法律・条例のせいでヤクザが足を洗うことができなくなっている。そんな強烈な矛盾に翻弄される人々の物語だった。

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杉本穂高

3.5ヤクザ映画からネオノワールへ

2021年2月17日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
ネタバレ! クリックして本文を読む
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和田隆

5.0ヤクザと時代の変化を1999年から2019年までの期間で描いた秀作。藤井道人監督のふり幅の大きさに驚く。

2021年1月28日
PCから投稿

本作は昨年の日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した「新聞記者」を手掛けた藤井道人監督と、尖った作品を送り出し続けるスターサンズという映画会社が再びタッグを組んだ作品です。
「新聞記者」についてはフィクションとは言え、賛否両論を巻き起こしたため最優秀作品賞に関しては物議を醸しましたが、本作は完全なオリジナル作品なので純粋に見られると思います。
まず、本作を見て一番驚いたのは、藤井道人監督のふり幅の大きさでした。
「藤井道人監督の大型の商業映画」は、それこそ「新聞記者」が最初でしたが、その次に「宇宙でいちばんあかるい屋根」というファンタジーで良質な作品を手掛けました。続いて、再び毛色が大きく変わった本作の登場です。
ヤクザ映画というのは、暴力シーン等かなり違った技術が要求されますが、それをベテラン監督の如く演出し、的確に描き切っていました。オリジナル脚本の完成度も含めて、この分野を主戦場にしてきた監督からしてみたら驚異的な存在に映ることでしょう。

さて、本作は時代の変化とともにヤクザという存在がどのようになっていったのかがよく分かる興味深い内容となっていました。特に終盤での展開は切ないほどリアルで、こういう俯瞰的な視点のヤクザ映画が作られるようになったのは時代の変化を感じます。
主人公の綾野剛が1999 年の少年期の序盤から、ヤクザとして最前線で生きた2005年を経て、2019年の現代までの約20年間を演じています。当初はさすがに20年間の変化は厳しいのかもしれないと思いました。ただ少年期とは言え成人前くらいだったので違和感なく見事に演じ切っていました。
本作は全体的に出来が良いので、大げさではなく役者陣全員が良かったです。中でも2019年から登場する磯村勇斗は存在感の強い役者に成長していて今後が楽しみな俳優になっていました。
タイトルの意味も含め、間違いなく深い秀作です。

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細野真宏