アンダードッグ 前編

劇場公開日:

アンダードッグ 前編

解説

「百円の恋」の武正晴監督が、森山未來、北村匠海、勝地涼をキャストに迎えたボクシング映画の前編。プロボクサーの末永晃はかつて掴みかけたチャンピオンの夢を諦めきれず、現在も“咬ませ犬”としてリングに上がり、ボクシングにしがみつく日々を送っていた。一方、児童養護施設出身で秘密の過去を持つ大村龍太は、ボクシングの才能を認められ将来を期待されている。大物俳優の2世タレントで芸人としても鳴かず飛ばずの宮木瞬は、テレビ番組の企画でボクシングの試合に挑むことに。それぞれの生き様を抱える3人の男たちは、人生の再起をかけて拳を交えるが……。「百円の恋」の足立紳が原作・脚本を担当。3人の男たちを中心に描いた「劇場版」は前後編の2部構成で同日公開。また、3人と彼らを取り巻く人々の群像劇として全8話のシリーズで描く「配信版」もABEMAプレミアムで配信される。

2020年製作/131分/R15+/日本
配給:東映ビデオ
劇場公開日:2020年11月27日

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(C)2020「アンダードッグ」製作委員会

映画レビュー

4.5ブラ3とボクシング

2020年12月30日
iPhoneアプリから投稿

前後編2本立ては私事上ハードルが高い…と思いながらも、せめて…と観てしまった前編。当然、これは何としてでもと、万障繰り合わせて観た後編。そこには、思いがけない音の再会が待っていた。
 後編で圧倒的存在感を示したのは、なんとブラームス交響曲第3番。この映画の人々は、カフェというものに行かない。彼らが出会い言葉を交わすのは、いつでも喫茶店だ。前編では、彼らの不器用さや泥臭さには、一時代前の喫茶店(埃をかぶったサンプルが店頭に並んでいて、くるくるした書体でカタカナの店名が掲げられている、天井低めの薄暗い店)がふさわしいのだろう、くらいに思っていた。けれども、後編の冒頭、八方塞がりの現状を突き付けられるアキラに、あの物哀しい旋律がしとしとと降りかかって来たとき、この音楽を流すには、喫茶店が必要だったのだ、とひどく納得した。
 ブラームスは、地味だ。そして重い。ハンガリー舞曲や子守唄など親しみやすい曲もあるけれど、全般には、荘厳かつ骨太、とっつきにくい印象が強い。ブラームス自身もきまじめで、自分に厳しく、才能がないと自己批判を繰り返し、心を病むことさえあったという。彼が交響曲を発表し始めたのは40代に差し掛かってからで、しかも第一番には21年の歳月を掛けている。生涯で世に送り出したのは4番まで。一方、ベートーヴェンは9番、モーツァルトは40番超え。いかにブラームスが、大器晩成で寡作だったかが分かる。
 しかし、ブラームスの交響曲は、意外に甘く切ない。その時は重さばかりが印象に残っても、再び耳にすると、はっとさせられる。その度に心の奥をそっと揺り動かされ、忘れ難い。繰り返し聴くたびに、何かしら発見がある。そんな彼の音楽が、アキラにぴったりと寄り添う。
 後編、アキラはなかなか動かない(その分、周りが激動する)。彼がどうやって動き出すか、が本作の肝だ。次第に、動かない彼の内面が揺れ動いているのが伝わってくる。彼の見るもの、聞くものを通して、息苦しいほどに。だからこそ、動き始めたときの爽快感は何ものにも替えがたく、痛みを感じながらも、闘いを見届けずにいられない。森山未來は、いつの間にこんな凄い俳優さんになったのか…とぞくぞくした。
 ボクシング映画を観ていると、ボクサーに寄り添うトレーナーや、淡々と試合を進める審判の存在感に心惹かれる。選手を存分に闘わせ、試合を成り立たせるための支え手。彼らの冷静な立ち振る舞いが一瞬熱を帯びるとき、こちらも胸が高鳴り、締め付けられる。観客より近い場所で選手を見守る彼らの視点で、試合を味わえる幸せを噛みしめながら、瞬きも惜しいくらいにスクリーンを見つめた。
 本作は、無駄なセリフや説明が一切ない。試合後、潔くエンドロールに切り替わる。あくまで小さなコマの中で、それぞれに走り続ける3人の姿を認めたとき、安堵と熱を感じた。
 チラシを眺め、ボクシングかっこいい!と単純に憧れてる子らにも、いつかこの映画を観てほしい。

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cma

4.0二人の生き様とぶつかり合いが、観る側を本気にさせる

2020年11月29日
PCから投稿

ボクサーを描く映画はみな少なからず同じ構造を持つ。すなわち人生を描き、そして対決を描くということ。この前後編で4時間半にも及ぶ長編は、序盤、実にスロースターターとして、地べたの人生を路上の反吐が映り込むかというくらいの過酷さで泥臭く描き込んでいく。そこで交わる3人の魂。とりわけ「前編」では二人のエキシビジョンマッチにむけて照準が絞られ、それぞれの思惑の差こそあれ、とてつもない熱量の戦いが繰り広げられる。映画の基調トーンを司るのが森山の鋭くも劣等感と優しさも秘めた目線ならば、そこに変化球を投げつけて他のボクシング映画にはない奇妙な質感を巻き起こすのは勝地の役目。その化学変化と、両者ともに後には引き返せないという覚悟が、観る側を本気にさせる。さらに言えば、彼のセコンドに立つ山本博のセリフ一つ一つが、さも観客の思いを代弁しているようで胸を打った。試合終了のゴングが鳴る頃、自ずと涙がこぼれていた。

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牛津厚信

4.5リング上で展開する風景が異常にリアルなわけは

2020年11月29日
PCから投稿

泣ける

興奮

アンダードッグ、噛ませ犬の絶望と再起を、あの『ロッキー』の如く描き倒す。『百円の恋』でもボクシングを扱ったことがある脚本家と監督が、その経験値を生かして放った作品は、ちゃんと映像化するのは困難なはずのリング上の風景をリアルに見せてくれる。同じく『百円の恋』から続投のボクシング指導者、松浦慎一郎や、セコンドを演じるボクシングに精通したキャストたち(ここ大事)のおかけで、作り物とは到底見えないファイトシーンを堪能することができるのだ。もちろん、俳優たちの熱演も讃えたい。数台のカメラが映し出すのは、ボクサーを演じる森山未來や北村匠海や勝地涼が、ふらふらしながらパンチを繰り出し、その途端にへたり込みそうになる姿だ。絵に描いたようなマッチョではない彼らの体が消耗していく過程は、本作の最大の見どころ。それぞれ人としての尊厳をかけた2度のボクシングマッチに至る濃すぎる経緯も含めて、前後編合わせて4時間半の上映時間は決して長く感じない。2020年の日本映画屈指の1作。

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清藤秀人

4.0カロリー高め、中毒性含めて抜群の面白さ

2020年11月1日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

「百円の恋」チームが再び結集し、新たなボクシング映画を手がけた。それも2部作、合計で約4時間半の超大作。ただ驚くなかれ、これが全然長さを感じず、どんどんのめり込んでいく。
3人のボクサーが登場する。森山未來が演じる末永晃は、かつて日本チャンピオンまであと一歩のところまでいきながらピークが過ぎてしまったプロボクサー。北村匠海扮する大村龍太は児童養護施設出身で、ボクシングの才能を認められ将来を嘱望される期待の若手ボクサー。勝地涼が息吹を注ぎ込んだ宮木瞬は、大物俳優の2世タレントとしてパッとせず、テレビ番組の企画でボクシングの試合に挑むことになる。
森山が上手いのはもちろん知っている。北村が才能豊かな若手俳優であることも、知っている。ただ今作では、勝地が素晴らしい存在感を放っている。非常に美味しい役どころであることも含め、現時点で彼の代表作といえるのではないだろうか。

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大塚史貴

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