劇場公開日 2020年11月27日

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アンダードッグ 前編 : インタビュー

2020年11月26日更新

森山未來×北村匠海×勝地涼、リングに立つ! アドレナリン全開で臨んだ“負け犬たちの拳闘”

森山未來(中央)、北村匠海(左)、勝地涼(右)
森山未來(中央)、北村匠海(左)、勝地涼(右)

数々の映画賞を席巻した「百円の恋」公開から6年――同作を手掛けたチームは、再びリングへと視線を向けることになった。「監督:武正晴×脚本:足立紳」という黄金コンビ、「百円の恋」のスタッフ陣が再集結した新たなボクシング映画「アンダードッグ」。人生を賭した者たちの思いが交錯する場に引き寄せられたのは、森山未來北村匠海勝地涼。鍛え抜かれた拳を交わし合うなかで、彼らは何を感じていたのか。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基)

題材となったのは、ボクシング業界のかませ犬的存在を意味する“アンダードッグ”。崖っぷちボクサー・末永晃(森山)、過去に秘密をもつ若手ボクサー・大村龍太(北村)、テレビ番組の企画でボクシングの試合に挑む芸人ボクサー・宮木瞬(勝地)のドラマが、リング上で交錯していく。前編、後編で描かれる“大作”だが、長尺という点を一切感じさせない、1級のエンタメ作品に仕上がっている。

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ボクサー役初挑戦となった森山は「監督:武正晴×脚本:足立紳=ボクシング映画」という組み合わせに触発され、オファーを快諾。「『百円の恋』が素晴らしかった、というリスクはありました。でも、あの熱量、2人が紡ぐ世界観に関われるのであれば面白いことになると確信したんです」と振り返る。勝地はその意見に同意しつつも「未來君がボクサーをやる。そして、自分が闘う。すぐに『やりたい』と思ったんです」と告白。森山と勝地は、互いが10代の頃からの旧知の間柄だ。

勝地「最近ではがっつり“役を作る”ということもなかったので(肉体作りを兼ねたボクサー役は)いいなと感じたんです。未來君とは『いだてん』でも共演していますが、彼は徐々に歳を重ねていく役、一方、僕はちょいちょい出てくる“エンジェル”のようなキャラクター。老けメイクもしなかったですし、撮影の際に未來君から『お前は役作りはせえへんの?』と冗談を言われたんです(笑)。だからこそ、がっつりとした役作りは嬉しかった」

「豪華な先輩に囲まれるという点も理由のひとつですが、自分をぶっ壊せそうな気がしたんです」と話す北村は、大の格闘技ファンだ。漫画「キン肉マンII世」にハマった後「キン肉マン」へと立ち返り、WWEにも熱中。そこから格闘技全般に興味を抱くが、実際の経験はなかった。「(格闘技を)見ることが大好きでした。だから、その土俵にあがってみたかったという思いがあったんです」と明かしてくれた。

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クランクインの1年前、森山は既にリングを見据えていた。ボクシング経験者の友人の伝手を頼ってジムへと通い始め、肉体を仕上げていく。続けてとりかかったのは「どういうキャラクターを目指すべきなのか」という点だ。「龍太はアウトサイドのボクサー。そうなると、晃はインサイド。匠海君と違い、僕はボクシングも格闘技も見る人間ではなかったので、目線が素人だったんです。まずはボクシングを見るという点を徹底しました」と話す。参考になったのは、実際のボクシング試合に関する映像だ。フィクションを見ることはなかったが「どんな映画が参考になるか、聞けばよかったとも感じています」と語る。

森山「武監督が生きている“リアルな生活”は、映画というものに包まれているというイメージがありました。映画というフィルターを通して、生活が成立しているような感覚です。細かな人間関係の話だけでなく、どの映画の、どんなキャラクターの、何をモチーフにしたらいいのかを聞いてみたかったです」

森山未來
森山未來

キックボクシングを習っている勝地にとっては、テクニックの塩梅が困難だったようで「芸人ボクサーとはいえ、プロテストには受かっている。パンチも大振り、素人らしい一面もありますが、それだとプロテストには受からないんです。核となったのは“我武者羅”という精神。あとはキックボクシングの癖を、ボクシングのスタイルへと修正していきました」と説明。一方、北村は「実は…初めての練習できつくて吐いたんです。でも『絶対負けてられない』と感じて、とにかく毎日動いてました」と告白する。

勝地涼
勝地涼
北村匠海
北村匠海

そんな3人の奮闘に欠かせない人物がいる。俳優であり、「百円の恋」「あゝ、荒野」でもボクシング指導・監修を行った松浦慎一郎だ。彼の存在なしには「アンダードッグ」は語れない。

森山「定期的にスパーリングさせてもらっていたんですが、松浦さんであれば『思いっきり、殴っても大丈夫』というところまではいきましたね。あと、褒めて伸ばすタイプの方なんです」

勝地「松浦さん、基本的に笑顔で追い込んでくる人ですからね。『いいですねー!』と言いながら、追い込んでくる(笑)。キツイ日々でしたけど、その風景を思い出しながら演じていました。だからこそ、撮影の時はある意味不安でした。トレーニングシーンの撮影時、『数十秒間やってくれ』と言われても、意外とクリアできてしまう。(松浦との練習時のように)もっと疲れていたいという感覚があったんです」

北村「松浦さんは龍太のトレーナー役として、ずっと傍にいてくれました。必然的にトレーニングシーンは、松浦さんが相手役。限界まで追い込まれる姿を、武監督が盗み撮りしているような感覚がありました。ただただ追い込まれる――僕も信頼をおいていましたし、褒めながらやってくださるのでモチベーションも下がらない。試合シーンでは松浦さんが男泣きしている姿を見て『トレーニングを頑張ってきてよかった』と思いました」

森山「今でもプロボクサーにトレーナーとしてつくこともありますし、映画における“ボクシングの見せ方”をわかっている人。さらに言えば“見せるためだけではない”ボクシングがわかっている方なんです。全員、松浦さんとのトレーニングを経ているからわかることもあるんです。それは汗のつき方。トレーニング風景を撮る際、衣装さんたちが(服を)濡らしてくれるんですが、実際の濡れ感とは全然違う。だから、自分で水をまいちゃったことも。浴びるほどと言ってもいいかもしれません(笑)」

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ルーザーとしての道を歩むボクサーの生きざま、ボクサーに関わってしまった人々の悲哀をすくいとった足立の脚本は、最大の山場となる「晃VS宮木」「晃VS龍太」へと見事に結実していく。試合シーンの撮影は、フリー芝居のポイント、決めカットを織り交ぜながら進行。勝地と北村に、森山との対峙を振り返ってもらった。

勝地「どちらかというとやられるという展開が多い役柄なので、つい本気で殴ってしまったというものはありませんでした。ただ、アッパーを繰り出す場面は、未來君を信頼して、当たるかもしれないという距離感でやらせてもらいました。本気で殴りにいっても『この人なら避けれる』と。だから、そのパートに関しては手順を決めていませんでした」

北村「対峙した人にしかわからない“森山さんの圧”があるんです。観客として見ているとわかるんですが、気迫で圧倒されているボクサーは、大体負けてしまう。“森山さんの圧”を受けて、本気でいくしかないと思いました。試合の前には『ボディ、ショルダーは本気で打ち合おう』と。心置きなくぶつかりにいく――これが、自分のなかでの正解でした」

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「晃VS宮木」は1日半、「晃VS龍太」はほぼ2日間の撮影。つまり、通常の試合以上の時間、3人は拳を交えているのだ。森山は試合が終わると、それぞれと酒を酌み交わしている。あまりのタフさに「もうバケモンだよ、それ」(勝地)とツッコまれると「なんでやねん! やっぱり乾杯したいじゃん」と笑う森山。やがて、脳裏に刻まれた光景を思い返していく。

森山「撮影の期間、リングの上に居続けなければいけない。周りを見渡せば、エキストラの方々が何百人も集まっている。不思議なアドレナリンが出続けていたことを憶えています。勝地とは長い付き合いなので『殴りにいっても大丈夫なんじゃないか』という信頼関係が出来上がっていました(笑)。匠海君との試合は、ディフェンス、オフェンスが行ったり来たりするという流れなんです。これはリズム感が重要になるところでした。何度もリハーサルをしていたわけではないんですが、(撮影は)スムーズに進んでいましたね。2人には『リズム感の良さ』『ステージ上に立つ強さ』が共通していたと思います」

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撮影が終わり、現在ではボクシングから離れている森山、勝地、北村。だが、時折、熱情の日々を懐かしむことがあるようだ。

北村「(ボクシングを)たまにしたくなるんですよ。ジムにはなかなか通えないのですが」

勝地「僕はキックボクシングを続けています。最近はなかなか行けていないんですけどね。でも、サンドバックをたまに殴りたくなるんです」

森山「スパーリングをしたいね。パンチが的確に入った時のグワングワンとした感覚、パンチが入った瞬間の感動、アドレナリンーーあれは忘れられないですよ。だから、皆ボクシングをやっているんだなと。辞められなくなる理由というのもわかる気がしました」

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