ジェントルメン

劇場公開日:

ジェントルメン

解説

「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」「スナッチ」のガイ・リッチー監督によるクライムサスペンス。イギリス・ロンドンの暗黒街に、一代で大麻王国を築き上げたマリファナ・キングのミッキーが、総額500億円にも相当するといわれる大麻ビジネスのすべてを売却して引退するという噂が駆け巡った。その噂を耳にした強欲なユダヤ人大富豪、ゴシップ紙の編集長、ゲスな私立探偵、チャイニーズ・マフィア、ロシアン・マフィア、下町のチーマーといったワルたちが一気に動き出す。莫大な利権をめぐり、紳士の顔をした彼らによる、裏の裏をかくスリリングな駆け引きが展開する。ミッキー役を「インターステラー」のマシュー・マコノヒーが演じるほか、チャーリー・ハナム、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ドッカリー、コリン・ファレル、ヒュー・グラントら豪華なキャストが顔をそろえる。

2020年製作/113分/PG12/イギリス・アメリカ合作
原題または英題:The Gentlemen
配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2021年5月7日

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映画レビュー

3.5「筋書き通り」を面白く見せる演出力。

2023年10月18日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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すっかん

4.0待望のガイ・リッチー節で描く愛嬌ある悪党

2021年5月23日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 アバンからタイトルバックにかけての流れが既に痺れるほどかっこいい。レコード音質の「Cumberland Gap」を従えたレトロでスタイリッシュな映像、小気味のいいテンポ。久々のガイ・リッチーらしさにワクワクした。

 物語の大雑把な筋は、ロンドンのマリファナ王ミッキーがリタイアするためにユダヤ人富豪マシューに事業を丸ごと売ろうとする、マシューはチャイニーズマフィアを使って買い叩くための策略を巡らし、丁々発止の小競り合いが勃発する、そんなところ。そこに色々個性的なワルが絡んでくる。
 この筋を内偵した私立探偵フレッチャーに語らせた上で、ところどころ時間軸を入れ替えたりフレッチャーの創作を挟んだりしていて、メタ的なものも含めると三重ほどの入れ子構造のパズルのような構成になっている。トリッキーな語り口で展開する物語の中、登場人物同士の騙し合いも絡むから終始目が離せない。

 ぽんぽん話が進むので、状況を把握しながら付いていくのはそれなりの集中力を要するが、何しろ粒揃いのキャラが楽しい。
 個人的にお目当てだったヒュー・グラントはすっかり甘さが抜けて、味のある曲者親父になっていてとてもよかった。狂言回しとして出番が多かったので満足。どんな役でも出来るイケメン、マシュー・マコノヒーは安心して見ていられる。
 そして今回のお気に入りはコリン・ファレル。悪事に後ろ向きな一般人なのに、ジムの教え子トドラーズに引きずられる体で活躍してしまう。でもどこまでもアンニュイなまま。トドラーズ共々上下チェックのジャージがキャラにマッチして真似の出来ない(真似したらダサくなりそうな)かっこよさ。黒人の教え子とのやり取りは、現代の言葉狩りへのアンチテーゼかな?と思った。
 中国資本が入り込んでチャイナ忖度が広がる業界のトレンドどこ吹く風で、チャイニーズマフィアといえばヘロイン!みたいな描写を入れてくるのも清々しい(笑)。
 序盤はフレッチャーの一人語りが多めだが、ばら撒かれたピースが話の進行に従って整頓されてゆくので、尻上がりに没入出来る。
 エキセントリックで魅力的なキャラ達が織りなす畳みかけるようなコンゲーム。テレビドラマ化の構想もあるそうで、今から楽しみだ。

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ニコ

4.0映画の中で「映画の脚本」が語られる2重構造の仕組みなど、斬新で味わい深いガイ・リッチー監督作。

2021年5月7日
PCから投稿

本作で最初に驚いたのは、配給会社が「ミラマックス(Miramax)」であったこと。「ミラマックス」と言えば、2000年前後のアカデミー賞関連の名作の冒頭で多く登場するアメリカの配給会社(2005年までに249個ものアカデミー賞ノミネートを獲得)ですが、近年では見かけなくなっていたからです。
それは、そもそも「ミラマックス」は(いわゆる「#Me Too」運動でハーヴェイ・ワインスタインが映画業界から追放されたりした)ワインスタイン兄弟によって作られた会社でした。
ただ、「ミラマックス」は1993年にディズニー傘下になっていて、2005年にはワインスタイン兄弟は去り、2010年にディズニーが投資会社に売却し、新作とは関係のない存在となっていました。
実はここから動きがあり、2020年に現在の、中東のビーイン・メディア・グループ(beIN Media Group)51%、アメリカ大手メディアのバイアコムCBS49%という出資比率で❝新生ミラマックス❞となっていたのです。

さて、この大まかな予備知識は、映画の終盤で少し役に立つかもしれません。
というのも、本作は、ヒュー・グラントが演じる「ゲスな私立探偵」が、マシュー・マコノヒーが演じる「ロンドンのマリファナ王」の【ミッキー】に関する実話を映画化しようと目論んでいたりもするからです。
映画の構造も面白く、「ゲスな私立探偵」【フレッチャー】が、ロンドンのマリファナ王の「右腕」【レイ】に、【フレッチャー】が密かに取材して掴んでいた事実を「映画の脚本」としてまとめ、それを語る形になっています。
映画の中で「映画の脚本」が語られる2重構造なので、意外と捻りが効いています。
そのため、少し人間関係でこんがらがる人も出るのかもしれません。
その点では、本作は配役が何気に豪華なので、以下のキーパーソンを押さえておくと混乱せずに楽しめると思います。
1人目は「チャイニーズ・マフィア」の【ドライ・アイ】ですが、これは大ヒット作「クレイジー・リッチ!」で主人公の恋人役の大富豪を演じたり、「ラスト・クリスマス」でも有名な新鋭ヘンリー・ゴールディングが演じています。
2人目は中盤から出てくるコリン・ファレルが演じる「ヤンチャな青年らを更生させる男」の【コーチ】です。この2人は有名なので、最低でもこの2人は覚えておきたいところです。
また、主人公のマシュー・マコノヒーが演じる「ロンドンのマリファナ王」の【ミッキー】は、【マイケル】という名前でも呼ばれるので、これも覚えておきましょう。

本作はイギリスが舞台なので、金額がポンドとなっています。
現在では、ざっくり「1ポンド=150円」くらいで計算しておけばいいと思います。

このように少し予備知識があった方が、より楽しめるガイ・リッチー監督作で、見れば見るほど惹きつけられる部類の作品でした。

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細野真宏

4.5ザッツ・エンターテインメント!きっと二度観したくなるガイ・リッチー流悪漢群像劇の集大成にして円熟の境地

2021年5月6日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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ロンドンの下町を舞台に、大金やドラッグや高価な希少品をめぐってワルの勢力が三つ巴、四つ巴の騙し合いや殺し合いを繰り広げる犯罪サスペンス映画のスタイルを、ガイ・リッチー監督はデビュー作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」と次作「スナッチ」で確立。その後の「リボルバー」「ロックンローラ」でも似た設定を追求したが、10年以上の時を経た「ジェントルメン」で遂にホームグラウンドへ帰ってきた印象だ。

本作に登場する勢力は6つに大別され、一見すると複雑だが、大麻ビジネスの所有権をめぐって直接関わる上位3勢力と、金目当てや私怨から間接的に関わってくる下位3勢力に整理するとわかりやすくなるだろう。上位勢力の中心はもちろん、 総資産4億ポンド(約500億円)もの大麻王国を売却して引退を考える主人公ミッキー(マシュー・マコノヒー)と右腕のレイ(チャーリー・ハナム)。ミッキーが売却を持ちかけた富豪のユダヤ系米国人マシューが第2、この売却話に割り込んでくる中華系マフィアが第3の上位勢力だ。

残りの下位3勢力は大麻ビジネスを狙うのではなく、別の動機がある。ミッキーに怨みを抱くゴシップ紙編集長(エディ・マーサン)と彼に雇われて大麻王の犯罪の証拠を探る私立探偵フレッチャー(ヒュー・グラント)が第4、ミッキーの秘密農園を襲ったスラムの不良4人組と彼らを指導するコーチ(コリン・ファレル)が第5、やはり私怨からミッキーの命を狙うロシア人富豪とその手下が第6の勢力に位置づけられる。

これらのワルたちが、うわべは紳士的に交渉していてもその裏で出し抜こうと画策したり、同じ勢力内でも裏切りや下剋上があったり、敵対勢力かと思いきや生き残りのため忠誠を誓ったりと、関係性も二転三転して先を読ませない。

リッチー監督の原点回帰とも評されるが、過去の同ジャンル作と一線を画すのは、探偵フレッチャーに狂言回し的な語り部の役割も担わせたこと。フレッチャーは序盤でレイの自宅に侵入し、ミッキーの秘密を暴く自筆の脚本を買い取れと“紳士的に”恐喝する。そこから本編は、フレッチャーの脚本に沿ったミッキーの半生記として語られていく。この仕掛けの妙味は主に2点。まず、フレッチャーとレイが対話している現在と、ミッキーにまつわる過去の出来事を行き来する、進行上の時系列操作に必然性を与えること。もう1つは、フレッチャーが知り得た情報に基づく脚本の体(てい)でストーリーが語られることにより、いわゆる「信頼できない語り手」の叙述トリックの効果も生まれている点だ。この実に巧妙で周到な仕掛けに、リッチー監督の円熟を感じずにはいられない。

ほかにも、フレッチャーがミッキーの物語を語り始める際の「Enter our protagonist(われらの主人公が登場する)」という芝居がかった台詞や、シェークスピア劇『ヴェニスの商人』の有名な「1ポンドの人肉」の引用、ヒュー・グラントが訪れたミラマックスのオフィスに飾られている「コードネーム U.N.C.L.E.」のポスターなど、うんちくを語りたくなる小ネタもまだまだあるが、長くなるのでこの辺で。そうそう、ラストのシークエンスからエンドロールにかけて流れるザ・ジャムの名曲「ザッツ・エンターテインメント」の選曲センスに、絶妙なタイミングでイントロが始まるコミカルな場面も忘れがたい。

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高森 郁哉