パピチャ 未来へのランウェイ

劇場公開日:

パピチャ 未来へのランウェイ

解説

1990年代のアルジェリア内戦(暗黒の10年)を背景に、ファッションデザイナーを志す少女の視点を通して、イスラム原理主義による女性弾圧の実態を描いた人間ドラマ。アルジェリアで17歳まで過ごし、これが長編映画監督デビュー作となるムニア・メドゥールが、自身の経験から生み出した。2019年・第72回カンヌ国際映画祭ある視点部門で上映されて称賛を集めるも、本国アルジェリアでは当局によって上映禁止となった。90年代、アルジェリア。ファッションデザイナーを夢みる大学生のネジャマは、ナイトクラブで自作のドレスを販売していたが、イスラム原理主義の台頭により、首都アルジェでは女性にヒジャブの着用を強要するポスターがいたるところに貼りだされていた。そんな現実に抗うネジュマは、ある悲劇的な出来事をきっかけに、自分たちの自由と未来をつかみ取るため、命がけともいえるファッションショーの開催を決意する。

2019年製作/109分/G/フランス・アルジェリア・ベルギー・カタール合作
原題または英題:Papicha
配給:クロックワークス
劇場公開日:2020年10月30日

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(C)2019 HIGH SEA PRODUCTION - THE INK CONNECTION - TAYDA FILM - SCOPE PICTURES - TRIBUS P FILMS - JOUR2FETE - CREAMINAL - CALESON - CADC

映画レビュー

4.5伝統を否定せず作り変える

2020年11月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

アルジェリアの90年代の内戦時代の物語だ。女性は自由な服装が許されない、主人公は伝統布のハイクを使ったドレスを作り、ファッションショーを開催しようと奔走する。ハイクを着ている主人公の祖母は、その昔フランスの植民地支配に抵抗するために戦った経験を語る。ハイクの下に銃を隠して男と並んで戦って、独立を勝ち取ったのだと誇らしげに語る。しかし、内戦時代には、テロリストがハイクの下に銃を隠して、ジャーナリストを殺している。主人公は、さらに銃を隠すことのできないドレスに仕立て直すことで、伝統を重んじ、なおかつ自由の大切さを訴える。
祖国がどんなにひどくても愛はある。国を出ようと持ち掛けられても主人公は動かない。国を愛しているからこそ、良い方向に変えるために戦うのだ。本当の愛国者は国の恥部に目を向ける勇気を持った人のことだ。作り手の祖国に対する愛をひしひしと感じる傑作だ。

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杉本穂高

4.090年代アルジェリアの圧倒的状況と対峙するヒロインの姿に胸が張り裂けそうになる

2020年10月22日
PCから投稿

この不思議な語感のタイトルは何を意味するのだろうか。そんな微かな疑問を胸にしながら、本作を観た。見始める前の私の印象としては、躍動感に満ちたガールズムービーといったところだったかもしれない。確かに、大学の女子寮を飛び出してナイトクラブへ向かう冒頭の描写には、何かが始まりそうなワクワクがほとばしる。だが、次の瞬間訪れるのは、検問での手厳しいやりとり。90年代のアルジェリアが置かれていた現実を突きつけられる場面だ。イスラム原理主義者による締め付けも至るところに。この物語には、かくも一人の少女がもたらす目覚ましい躍動感と、それを叩き潰そうとする圧力とが痛いほどスパークしている。「ファッションデザイナーになりたい!」という一途な思いが、単なる勇気や情熱を超えて、命がけの行動と化していく様に胸が張り裂けそうな思いがした。アルジェリア出身の監督と主演女優との共振関係が実を結んだ、力強い一作と言えよう。

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牛津厚信

4.0女性の意思を縛り付ける拘束衣

2024年4月4日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

怖い

知的

ファッションは人にとって自己主張そのもの。どんな服を着て、どんな髪形をして。それを自分の思うままにできることが当たり前ではない世界がある。
それを黒い布で覆い隠そうとするヒジャブはまさに女性の自己主張を封じ込めようとする拘束衣に他ならない。

古代から人間社会は男性優位社会。人類最古の差別は女性差別であり、それは今も続いている。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは女性は男性に劣るものと公言していた。そしてそのような考えは世界宗教の誕生でその教義を曲解することでより強固なものとなっていった。

イスラム教には女性はきれいな部分を隠すようにとの教えがある。なんとでも解釈できる文言だ。心がきれいであれば普段はそれをひけらかさずに内心にとどめていなさいとも解釈できる。
しかし、この教えを男社会は自分たちの都合のいいように解釈し、女性を都合よく支配したいがために女性は髪や肌をむやみに露出してはならないとしてヒジャブの着用が古くから風習として残った。ただ、このような風習はほとんどの世俗化したイスラム教圏の国では任意であり強制されることはない。
そもそも何を着てどのような髪形をするかは自己決定権として保障されるべき人権の最たるものだ。これを制限するようなしきたりなどあってはならない。

この作品が公開された後、イランではヒジャブの着用をめぐって逮捕された女性が亡くなるという事件が起き、国内は反政府デモで揺れ動いた。
イラン革命後イラン政府は西側諸国の影響を断ち切るためにより堅固なイスラム社会建設を目指し、イスラム教の戒律を厳格に守らせるため取り締まりを強化していた。

ちなみに取り締まる道徳警察の言い分には苦笑してしまう。我々は女性が肌を露出することで男性から襲われるのを防いでいる。女性を守るために取り締まりをしているというのだ。しかし、拘束された女性のレイプ被害は後を絶たないという。それに男性が女性を襲うのは肌を露出しているせいだというのはお得意のすり替えでしかない。日本でも女性DJがファンに触られる被害があったが巷では同じような言動であふれていた。
当たり前のことだが悪いのは襲った方だ。ただ、イスラムの国ではいまだにレイプされた女性の方が加害男性より厳しく罰せられる悪しき慣習が残っている。

多くのイスラム教圏の国々では西洋化はもはや止めることはできない。それは自由平等を意味するものだし、人々は一度味わった自由平等を手放すことはできないだろう。
今でもアメリカを敵視するイラン政府はヒジャブ着用を間接的に強制する新たな法律を制定しているがイランの女性たちはそんなイラン政府のジェンダーアパルトヘイトに対して今も命がけで戦っている。

本作の舞台アルジェリアもイスラム教の国ではあるが、過去には女性の人権に理解ある統治者によって西洋化が進められてきた。しかしフランスから独立後、内戦ぼっ発で過激なイスラム原理主義者たちによって混沌とした時代に突入する。
テロによる市民やジャーナリストへの無差別殺戮が絶えないそんな時代、デザイナーを志す主人公ネジュマはジャーナリストだった愛する姉の命を奪われる。そんな悲しみの中、彼女は学内でのファッションショー開催を計画する。

彼女の住む街は徐々に過激派の手が伸びてきてヒジャブ着用を強制するポスターが次々と貼られて、ついには学内にまでそれは侵蝕してくる。
街中の壁面には戒律を破って罰せられた女性が書かされたであろう「生きててごめんなさい」の文字が。
洋服に使う装飾品店はいつの間にかヒジャブ専門店に様変わり、学食のジュースには性衝動を抑える臭化カリウムが混入される始末。
まるで世界が宇宙人に侵略されるSF映画を見ているよう。まさに彼女の住む町は監獄のような様相を呈するようになる。
そして同じ学生の男子たちも過激派たちと同じような偏見で女性を見ていた。ファッションショー開催はそんなこの国の現状に対する彼女なりの必死の抵抗だった。

そして仲間たちの協力でファッションショーは無事開催されるが、その時衝撃的な事態が起きる。
この物語自体はあくまでフィクション。でも実際にこのような無差別テロで多くの市民が犠牲になった。本作の監督は安全のために家族とともにフランスに移住したが何か後ろ髪を引かれる思いがあったんだろう。ネジュマは移住のチャンスがありながら母国に残り戦うことを誓う。それはまさに監督が自分の思いを主人公に託したんだろう。

彼女の挑戦は悲劇的な結末を迎え、救いのないラストかと思ったが、生き延びた友人のおなかの子供は無事だった。新しい命の誕生を思わせる場面で本作は幕を閉じる。この生まれてくる子供のためにもこの国の未来のために戦っていこうという監督の思いが伝わってきた。とても見ごたえのあるいい作品だった。

ところで日本の女性差別はここまでひどくないにしても、やはりジェンダーギャップ指数は世界で125位。アルジェリアは144位だという。
最近母子家庭の家の子供は三食食べれないという募金の広告を目にする。父子家庭ではあまり聞かない。これは明らかに女性に対する職業差別を続けてきたことの結果だろう。女性への差別の結果、国の未来を担うであろう子供たちが貧困に苦しめられている。女性差別が国の未来を危うくしているのだ。
過去のアルジェリアでは女性の労働力も国を支える貴重なものとして女性の社会進出を推進していた時期があった。その点ではアルジェリアは日本より進んだ国といえるだろう。

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レント

4.0【アルジェリアを舞台に命懸けでファッションショーを行った女性を描いた作品。アルジェリア出身女優リナ・クードリが常識に捕らわれない自由な女性の存在を演じ、彼女の存在を世に知らしめた作品でもある。】

2024年3月2日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

■1990年代、アルジェリア。
 世界中の女性の服を作るデザイナーを目指す大学生のネジュマ(リナ・クードリ)は、ナイトクラブで自作のドレスを販売している。
 だが、イスラム過激派の台頭によりテロが頻発するアルジェでは、ヒジャブ着用を強制するポスターが貼られるようになる。

◆感想

・今作は自身があるジェリア主身であるリナ・クードリの魅力満載作品である。

・ヒジャブを被らない女性に対する、日本の第二次世界大戦中の”華美を諫める夫人たちの姿が被る。
 - 今でも行わている“名誉殺人とアラブ地域で行なわている言う行為”ー

<今作は、アルジェリア“暗黒の10年”を舞台に、命懸けでファッションショーを行った女性達を描いた作品である。
 更に言えば、アルジェリア出身の新進女優、リナ・クードリの存在を世に知らしめた作品でもある。>

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NOBU

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