フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

劇場公開日:

解説

「グランド・ブダペスト・ホテル」「犬ヶ島」のウェス・アンダーソン監督が、フランスの架空の街にある米国新聞社の支局で働く個性豊かな編集者たちの活躍を描いた長編第10作。国際問題からアート、ファッション、グルメに至るまで深く切り込んだ記事で人気を集めるフレンチ・ディスパッチ誌。編集長アーサー・ハウイッツァー・Jr.のもとには、向こう見ずな自転車レポーターのサゼラック、批評家で編年史家のベレンセン、孤高のエッセイストのクレメンツら、ひと癖もふた癖もある才能豊かなジャーナリストたちがそろう。ところがある日、編集長が仕事中に急死し、遺言によって廃刊が決定してしまう。キャストにはオーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンドらウェス・アンダーソン作品の常連組に加え、ベニチオ・デル・トロ、ティモシー・シャラメ、ジェフリー・ライトらが初参加。

2021年製作/108分/G/アメリカ
原題または英題:The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun
配給:ディズニー
劇場公開日:2022年1月28日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第74回 カンヌ国際映画祭(2021年)

出品

コンペティション部門
出品作品 ウェス・アンダーソン

第73回 カンヌ国際映画祭(2020年)

出品

カンヌレーベル「常連(もしくは過去に一回でも選出されたことがある制作陣)」
出品作品 ウェス・アンダーソン
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映画レビュー

3.0字幕には不向きな情報量、配信向けかも

2022年2月3日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 宣伝文を見ると、編集長が亡くなり廃刊が決まった雑誌編集部の群像劇のようなイメージだが、実際はその設定は包み紙のようなものだ。中には入れ子構造のように架空の街を紹介するレポートと、芸術・革命・美食に事寄せた3つの物語が入っている。編集部内部の物語はほぼなく、構成自体が完全に雑誌最終号を順繰りにめくっていく体裁だ。
 そして、3つの物語が語られる最中に、それぞれの話の中で時間が頻繁に前後し、数年後に話が飛んだり、さらに劇中劇があったりする。台詞が多いのでただでさえ字幕の情報量が多いところに、画面が二分割されてそれぞれの描写に説明がついたりする。
 わんこそば状態で全体の物語構造と、各話ごとにその都度一から登場人物や設定を把握していく必要があり、それぞれ複雑な話ではないが早いテンポで進むので忙しい。見ているとなかなか愉快なシーンもあって、ここは笑うところなんだなと頭では思うのだが、正直あまり笑う余裕がなかった。退屈ではなく、脳の疲労によって眠気が差す瞬間があった。字幕に頼らなくてすむ英語のヒアリング力があれば、感想自体が変わってきそうだ。
 さまざまな話が終盤で集約されることを少し期待したが、それもなかった。
 楽しめる人を選ぶ映画、そして楽しめなかったと言いづらい類の映画だと感じた。通には分かる的空気感というか……。
 それとアンダーソン監督の作品は初めて見たが、お気に入り俳優を毎回のように使うことや、自分の好みと小ネタを詰め込む傾向はアメリカ版三谷幸喜か?と思った(好きな人には雑な括りでしょう、すみません)。

 映像はさまざまな表現方法を駆使していて、色合いも構図もいちいちお洒落。ストップモーション(スチールではなくだるまさんがころんだ状態の)、画面分割、モノクロとカラーの交錯、舞台的演出、クライマックスでのアニメーションなどなど。凝った絵本を読むような楽しさがある。
 俳優も豪華。目で楽しむと割り切れば、結構お腹いっぱいになれる。全体を通して、監督の表面的ではないフランス愛も感じた。愛ゆえにおちょくってるところも含めて。そういったところはよかった。

 ただ、個人的には疲れさせる作品という印象が先に立った。
 配信されて、気になるシーンで一時停止しながら見られる環境になれば、もう少し評価が上がるかも知れない。あるいは、吹替の方が情報量をフォロー出来るかも。

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共感した! 14件)
ニコ

3.5ウェス・アンダーソン映画にはまだまだ伸びしろがあった。

2022年2月28日
PCから投稿

どこを切ってもウェス・アンダーソンの映画をウェス・アンダーソンは作ってきたし、精緻な一点物の工芸品のような輝きを放ってきたのだと思う。しかし、そのクラフトマンシップが行き過ぎると、エモーショナルな面で入り込みづらくなる、という感覚を時折感じてきた。これはもう、どこまでウェス・アンダーソン的世界にシンクロできるかという適性の問題であり、そもそもウェス・アンダーソン的世界は揺るぎなく存在するのであって、そこに観る側が勝手にエモーションを仮託できるかどうかで、それぞれにとってのウェス・アンダーソン映画ランキングが決まるとも言える。

で、『フレンチ・ディスパッチ』はというと、もうこれまで以上にゴリゴリに、ウェス・アンダーソン的世界が追求されていて驚いた。あれだけ好き放題に作ってるように見えたのに、まだまだウェス・アンダーソンには探求したいウェス・アンダーソン的世界が残っていたのだ。もう正直自分にはついていけなかったと告白するしかないのだが、それでもこの箱庭的世界の緻密さには驚異を感じるし、強烈にハマる人もいるはずで、おそらく彼のフィルモグラフィの中でも突出してカルト化するのではないか。

さりとて個人的には感情的な部分でももっとブチ上がれるウェス・アンダーソン映画も作って欲しいと願い続けていますが。個人的には6勝2敗1分なので、まだまだ期待していますよ。

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村山章

3.5古き良き雑誌文化を懐かしむ。ウェス・アンダーソン作品にしては間口がやや狭いか

2022年1月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

楽しい

知的

ウェス・アンダーソン監督のトレードマークと言える、少々偏った純粋さを備えた個性的なキャラクターたち(俳優陣も常連率高し)、箱庭のような印象を与える徹底的に作りこんだセットは健在。今作ではフランスの架空の街にある、架空の雑誌編集部をメインの舞台にしたことで、さらに増した“作り物感”がファンを楽しませるだろう。

ウェス監督(アンダーソン姓の監督が多いのでこう呼びます)の過去作はほぼすべて「大好き!」と言えるのだが、この新作に限っては心の底から楽しめないというか、どこか自分とは縁遠い世界の話のように思えてしまった。もちろん過去のウェス監督作はたいてい別世界の架空の話なのだが、それでも物語のキャラクターへ容易に感情移入し、世界観にも共感できた。

たぶん今作にそのような違いを感じたのは、描かれている古き良き時代の雑誌文化、編集者たちの仕事ぶりや記事にまつわるエピソードの数々が、当代のハイカルチャーを発信する媒体として雑誌が有効に機能し、出版社にも経営的に余裕があった頃を懐古するような心持ち、そしてそこから醸し出されるインテリっぽさ、エリートっぽさが引っかかったからかもしれない。古き良き時代を懐かしむ余裕のある層を喜ばせる一方で、そうではない庶民を元気にしたり勇気を与えるような魅力が薄れてしまったように思うのだ。

観客の年齢層で言っても、ウェス監督の過去作は大人から若者、子供まで幅広い世代から共感を得られるような普遍的な面白さがあったが、この新作を心から楽しめる世代はだいぶ狭くなるのではなかろうか。

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高森 郁哉

4.5見ているだけで笑顔になる。触れてるだけで幸せになる。

2022年1月28日
PCから投稿

子供の頃、購入したての絵本や雑誌を包から取り出し、ドキドキしながら1ページ目をめくった時の”あの感じ”。印刷液の独特の匂い、おもちゃ箱をひっくり返したみたいなビジュアル、そして個性あふれる書き手の筆致までもが、目の前にありありと迫ってくるかのようだ。これはウェス・アンダーソンから雑誌文化やフランス文化へ向けたラブレター。と言っても、やっぱりアンダーソンのことなので、発想のアウトプットは一筋縄ではいかない。彼が青年期に刺激を受けた「ニューヨーカー」誌が発想の源になっているそうだが、そこにヌーヴェル・ヴァーグや仏ノワール映画を掛け合わせ、色とりどりのショートストーリー形式で展開する様は、雑誌特有の「どこでもお好きな箇所からお読みください」的であり、一品一品に心を尽くしたフルコース的でもあり。それでいてなぜか「異邦人」「芸術」「死」という要素がうっすら余韻を漂わせる後味にも惹かれるものがあった。

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牛津厚信

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