「古き良き雑誌文化を懐かしむ。ウェス・アンダーソン作品にしては間口がやや狭いか」フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5古き良き雑誌文化を懐かしむ。ウェス・アンダーソン作品にしては間口がやや狭いか

2022年1月30日
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鑑賞方法:試写会

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ウェス・アンダーソン監督のトレードマークと言える、少々偏った純粋さを備えた個性的なキャラクターたち(俳優陣も常連率高し)、箱庭のような印象を与える徹底的に作りこんだセットは健在。今作ではフランスの架空の街にある、架空の雑誌編集部をメインの舞台にしたことで、さらに増した“作り物感”がファンを楽しませるだろう。

ウェス監督(アンダーソン姓の監督が多いのでこう呼びます)の過去作はほぼすべて「大好き!」と言えるのだが、この新作に限っては心の底から楽しめないというか、どこか自分とは縁遠い世界の話のように思えてしまった。もちろん過去のウェス監督作はたいてい別世界の架空の話なのだが、それでも物語のキャラクターへ容易に感情移入し、世界観にも共感できた。

たぶん今作にそのような違いを感じたのは、描かれている古き良き時代の雑誌文化、編集者たちの仕事ぶりや記事にまつわるエピソードの数々が、当代のハイカルチャーを発信する媒体として雑誌が有効に機能し、出版社にも経営的に余裕があった頃を懐古するような心持ち、そしてそこから醸し出されるインテリっぽさ、エリートっぽさが引っかかったからかもしれない。古き良き時代を懐かしむ余裕のある層を喜ばせる一方で、そうではない庶民を元気にしたり勇気を与えるような魅力が薄れてしまったように思うのだ。

観客の年齢層で言っても、ウェス監督の過去作は大人から若者、子供まで幅広い世代から共感を得られるような普遍的な面白さがあったが、この新作を心から楽しめる世代はだいぶ狭くなるのではなかろうか。

高森 郁哉