「ウェス・アンダーソン映画にはまだまだ伸びしろがあった。」フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ウェス・アンダーソン映画にはまだまだ伸びしろがあった。

2022年2月28日
PCから投稿

どこを切ってもウェス・アンダーソンの映画をウェス・アンダーソンは作ってきたし、精緻な一点物の工芸品のような輝きを放ってきたのだと思う。しかし、そのクラフトマンシップが行き過ぎると、エモーショナルな面で入り込みづらくなる、という感覚を時折感じてきた。これはもう、どこまでウェス・アンダーソン的世界にシンクロできるかという適性の問題であり、そもそもウェス・アンダーソン的世界は揺るぎなく存在するのであって、そこに観る側が勝手にエモーションを仮託できるかどうかで、それぞれにとってのウェス・アンダーソン映画ランキングが決まるとも言える。

で、『フレンチ・ディスパッチ』はというと、もうこれまで以上にゴリゴリに、ウェス・アンダーソン的世界が追求されていて驚いた。あれだけ好き放題に作ってるように見えたのに、まだまだウェス・アンダーソンには探求したいウェス・アンダーソン的世界が残っていたのだ。もう正直自分にはついていけなかったと告白するしかないのだが、それでもこの箱庭的世界の緻密さには驚異を感じるし、強烈にハマる人もいるはずで、おそらく彼のフィルモグラフィの中でも突出してカルト化するのではないか。

さりとて個人的には感情的な部分でももっとブチ上がれるウェス・アンダーソン映画も作って欲しいと願い続けていますが。個人的には6勝2敗1分なので、まだまだ期待していますよ。

村山章